File_1945-07-002H_hmos.
サイトYでは、熱狂で出迎えられた。
町じゅうの人が、高台で、雨の中夜通し、南の空を見つめていたそうだ。
200マイル先でも、はっきりと、光と雲が見えたんだって。これには僕も驚いた。
もみくちゃになりながら、独身寮の通りへ辿りつく。
クァールは、群衆の中にいなかった。
まさか、まだ寝てるなんてことはあるまいに……と思いつつ、部屋まで行く。
ドアは開いた。中は、もぬけの殻だった。
……引っ越したのか、な?
ひとまず、僕の部屋へ戻る。昨夜、荷物だけ置いてきたきりだ。
クァールに、道路で出会った。
「おはよう、リッキー」
ああ。変わって……ないか?あれ、どうだろう。
妙な違和感がある。
やあ。クァール。
いま君の部屋へ行ってきたんだが、引っ越した?
「実験成功して、よかったですね。僕の仕事も、ようやく、終わりました」
違和感が膨張する。
なにかが、おかしい。
計算の仕事は、まだまだ終わってないよ。
これから、データを集計する必要がある。
君には、いてもらわなければ……
クァール?
君は、今まで、どこにいたんだ?
町じゅうが、そわそわしていた。特別な、夜だった。
昨夜、科学者たちは、一人残らず、ここを離れていた。
技術区は、ほぼ無人だった。
MPは立っていただろう。
しかし、君なら、容易に、忍びこめるだろう。
君と出会った日のことを、思い出そう。
ここは、君にとって、そんなに、居心地のいい場所だったかい?
アル博士とのおしゃべりを中断するほどの君だ。もっと行きたい場所があれば、すぐ移ったんじゃないか。
でも、4ヶ月もここで過ごした。
町のみんなに愛されて。天才たちと語らって。
おそらく今、この地上で誰よりも、原子爆弾についての知識を持っているのは、君かもしれない。
そして……
何かを盗み出すなら、昨夜は絶好の、チャンス到来だった。
いなくなるつもりかい?
なにをするつもりだい?
答えてくれないか。クァール。いや、シャオ。
底知れぬ闇が、瞳の奥から、僕を見つめていた。
はっと我に返ったとき、シャオの姿は、消えていた。
うしろから、肩をたたかれる。
「リッキー!早く来い。お前が来ないと、パーティーが盛り上がらねえ!」
引きずられるように、フラー・ロッジへ連れていかれた。
わけもわからず泣きじゃくりながら、僕はドラムを叩いた。