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政治の、力。
私は今、それを噛みしめております。
日本特殊工業株式会社、社長の宮本光一です。
きたる五月一日。いよいよ、三度目の軍縮。
じゃなくて、軍備整理。軍縮というと宇垣大臣から怒られますので。
前二回は山梨大臣の指揮下で行われましたが、今回はいよいよ、宇垣大臣の采配によって、行われます。
陸軍では、四個師団、幼年学校二校、陸軍病院五箇所、連隊区司令部十六箇所が廃止され、人員としましては三万三千人の将兵さんと、軍馬も六千頭が、減らされます。山梨軍縮よりもはるかに大規模です。
震災による財源の緊縮という課題も重くのしかかっておりますから、今回は特に、国家の命運をも左右する、大鉈が振るわれたわけであります。
宇垣大臣のこれまでの幾多のお力添えがなければ、私、今回のこれで、いよいよ本当に、首をくくってました。
会社は、間違いなく、破滅です。とどめをさされていました。
今回、大臣は周到に根回しをされ、政府としての数値目標も達成させつつ、しかして事実上は、見事な再編制を、成就されるのであります。
五月一日。遂に、日本初の戦車隊が、福岡県久留米市と、千葉県千葉郡に新しく、つくられます。
私らも、陰ながら、その準備も、お手伝いをさせていただきました。
教材の手配ですとか、訓練用の機材ですとかね。
こういう細かいことは私ども、前々から得意としてましたので、好都合でした。
一千人の歩兵を、一輛の戦車でまかなう。
これが、宇垣大臣の軍備整理です。
見事な、政治手腕です。もっとも、国産戦車はまだなかなか難航してますので、当面はフランスより輸入して、編成と訓練を、ということになっておりますけれども。
更にですな、これも、宇垣大臣あってのお力で、ですが。
陸軍からは、五月より、三万人以上の方が、民間へと、転出されるわけです。
故郷へ帰る方もいれば、職をこれから探される方、いろいろ、様々なご事情を抱えての、大移動が始まります。
我が社は営業力が弱かったものですから。あと、今後の業務拡張に備えて、優秀な若手さんをですな。
若干名、優先的に、斡旋していただきました。
政治の力、これです。
政治を味方につけた企業がいかに強いか。むしろ、政治を味方につけなければ、いかに弱いか。脆いか。
私、今回、ほんとに、ほんとに身に染みました。
この教訓を胸に刻みつつ、我々自身も、近代化の道へですな。今後は、邁進していきます。
邁進するのであります。