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アラモゴルド陸軍航空基地。
最寄りの町は、サンタフェ。ニューメキシコ州。
基地の奥に、サイトYと呼ばれる町がある。
サンタフェで買える地図にも載ってない。
ここに住んでる人にしか知られてない町だ。
2年前。僕がここへ来たときは、ただの強制収容所だった。
ペンより重いものなど持ったこともない科学者たちが、レンガを運び、コンクリートをかき混ぜ、工兵隊と一緒になって、実験室や集積所を建築しながら住み始めた。
偽名の身分証と、白や黄色の通行許可証を、肌身離さず持ち歩く。
裏山へハイキングに行くのすら、MPがついて回る。
手紙は行きも戻りも検閲され、どこの家にも電話はない。
ひどい町だ。その目的は、ただひとつ。
人類がまだ生み出したことのない、新しい生命を誕生させること。
当初の予想では、半年あれば完成できると思われていたらしい。
東洋の小さな皇国が、合衆国に殴りかかってきたばかりの頃だ。
我々が参入した以上、大戦は1年で結着する。そう言われてた。
もう4年目に突入した。
ヨーロッパの開戦からだと、6年になる。
新生命計画も、次から次へと問題が発生し、人と予算がどんどん注ぎこまれて、とんでもない規模に膨れあがってしまった。
サイトYは、全国に散らばる関連施設の一角にすぎない。
それでもここだけで5000人ほどの居住者を抱えこんでいる。
なのにまだまだ、赤ん坊は産まれる気配すらない。
議会では、戦時機密とはいえあまりにも巨額な使途不明金の詳細と説明を求める運動が起きているという。
近く正式に提出されそうだけど、陸軍が徹底的につぶそうとしている。
そのためにも早く造れと、僕たちにも圧力がかかってる。
日曜日は必ず休むなんて何事か。なんて、よく槍玉にあげられる。
サイトYのボス、ジュリアス博士は日曜日どころか24時間365日の一瞬たりと休んでないはずなんだけど。
それでも僕たちの週休一日を、全力で、確保してくれてる。
過剰労務は効率を落とし、ミスを生み、取り返しのつかない失敗を惹き起こす。
だから必ず休めという。
ありがたい。たしかに、その通りだと思う。
僕たちは決して怠けているわけではないし、第三帝国が先に赤ん坊を完成させて、連合王国や共和国連邦へ向けて使用するようなことがあってはならない。
その覚悟は軍人や政治家にも負けない。
いやそれ以上だと、胸を張って言える。
僕のチームは、計算を担当している。
各セクションからよこされる、複雑きわまりない数式の解を求める作業だ。
そのためのマーチャント計算機というのがあったのだけど、今から見ればトロすぎた。
前任者のスタンリーが、複数個の計算機を並列処理させて流れ作業化するというアイデアを思いついた。
僕も協力して、IBMに発注し、自分たちで組み立てて、試行錯誤してみたら、思った以上にうまくいった。
納品のペースが速くなって、みんなから喜ばれた。
機械が増えたぶん人手も必要になり、軍に申請を出した。
軍は、全国の高校に募集をかけ、とくに数学の成績が良い子たちを送りこんでくれた。
今、僕のチームでは、その子たちが働いてくれてる。
ここにクァールを混ぜこもうという、魂胆さ。
見た目は一人だけ小学生が混じってるみたいになるけど、この子が一番すごいんだぜ。