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寮へ戻ると、来客を告げられた。
東洋人。色白の、リトルボーイだ。
17歳くらいだという。見た目は、もっと幼そうだが。
アル博士からの紹介状を手渡される。
これ、もらっていいか?
博士の直筆の手紙なんて、めったに見られるものじゃない。
実を言うと、一度ゼミで会ったことしかないんだ。
あの時は緊張した。
世界一の有名人にこんなもの書かせるお前はいったい何者なんだ。
手を震わせながら、ポケットにしまう。
サンタフェのドロシーさんからもらったニックネームは、クァール。
本名のシャオとは、チャイナ語で小さいという意味だそうだ。
あっちでも、おチビさんだったのかな。
僕の名はリチャード。リッキーと呼んでくれ。
ここでは皆、ドロシーネームの身分証を持っているが、覚えきれないからMPの前以外では本名で呼び合っている。
君は、新参者だから、クァールで統一したほうがいいかな。
クァールは正午頃にサンタフェから軍用車で送られてきて、手続きをすませ、男子寮をひと部屋あてがわれた。
技術区での面接は明日だが、今日はすることないから、町を散策。
仕事が決まるまで、保育園を手伝ってほしいと言われてるので、明日も行くって。
ちょっとまて。
話が見えない。くわしく。
歩いてたら、保育園の門の脇で、2歳くらいの子供と、目が合った。
近づいて、手品を見せた。
他の子供も群がってきて、大騒ぎになった。
職員さんに、中へ招かれ、子供たちにもみくちゃにされながら、話をするうち、人手が足りなさすぎて困っているからと、お願いされた。
ふむ。話は見えた。
器用なやつだな。
僕の仕事ではないし、時間外なんだがと思いつつ、テストしてみたくなった。
πを200桁くらいまで、eも100桁くらいまで、言わせてみる。
正確だ。
でも、こんなのは誰だって知ってることだし、意味がわからなくても暗記は可能だからな。
そこで、1÷243を暗算してみてくれ、と言った。
ここまで、クァールはずっと、無表情だった。
初めて、変化が訪れた。
小数点以下10桁まで、5秒ほど。
目が輝きだす。
だんだん、計算のペースがゆっくりしてくる。
噛みしめて、味わっているかのようだ。
20桁目で、苦味にあたったような顔になる。
25桁までいくと、もう興味を失った顔に変わり、スピードが上がってきた。
もういいよ。
目を合わせて、ニヤッとした。
彼も、僕のことを、こいつ面白いと思ってくれたみたいだ。
使える。
こいつは、まるで、コンピュータだ。ああ、機械の方のね。
うちのチームに欲しいなあ。
なんとか、根回しをしよう。
他の誰かに会わせたくない。とられちゃう。
とくにエンリコなんて、絶対欲しがる。
それはそれで面白そうだが。
いやダメだ。僕のものだ。
アル博士、あなたの気持がわかります。
この少年のことを、誰かに話したくてたまらなかったんでしょう。僕もです。
スタンリーの病気も治せるかな。いや、ますますこじらせるかも。
僕だって、気をつけねば。