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6月16日。またも、日本へ空襲が。
福岡県、八幡製鉄所が狙われたそうです。
スーパーフォートレス。
B29。
ついに、きた。
出発基地は、四川省成都。
日没後、数十機が飛び立ち、九割以上が無傷で帰還。
重慶では、爆竹を鳴らし、盛大な祝賀ムードに沸き返る。
ワシントンDCでは議会の最中に速報が届き、歓声が上がる。
東京では、空襲されたことは認めたものの「被害皆無であり斯様に我国の制空は鉄壁である」と国民へ力強いアピール。
爆撃は深夜で、八幡では意外にも灯火管制が敷かれていた模様。
敵爆撃機は山や海に焼夷弾を放棄して遁走、と日本の新聞は書いてます。
命中弾が少なかったのは事実らしい。さすがに被害ゼロはなかろうけど。
広漢飛行場から八幡までだと、往復で5000km。
3000マイル飛べる爆撃が可能になったということですね。
護衛機はついていたのかな。ついてても、あんまり無理はせんときいよ。
サイパンから東京までの方が近いんですよ。直線距離で、往復2800マイル。
制空権とられたら、いよいよ来ます。
B29が。本州へ。
これは大本営も、本腰入れて防衛しないと、えらいことになります。
えらいことになる前に、降伏できれば合格ですが。
陸軍大臣と総理大臣を兼任してる東條さんなら、可能なはずです。
可能なんですよ。あなたにしかできない。
わかってますか。決めちゃいなさい。もう、詰んでるんですから。
わかってらっしゃるはずでしょう?
実はそのサイパンへ、前日、連合軍の上陸が開始されたんです。
洋上でも、艦隊決戦が展開中。
米軍は、中部太平洋艦隊あらため第5艦隊のみで侵攻。
かたや日本はここを最終防衛線と、ソロモンからも艦を掻き集めての布陣。
いさぎよく全滅しちまいませんか。
世界平和のためです。
本国へ、あきらめをつけさせるんだ。
その前に、現場判断で諦められれば、一番いいのですが。
あらためて、地図を見る。
成都から福岡までの往復が可能なら、距離的にはハルビンも爆撃圏内です。
ここには日本陸軍航空隊の基地があるから、いきなり飛んでは来ないと思うけど。
しかし実情、満洲の戦闘機はほとんど南方へ送られてしまってて、ロクな戦力がありません。
山下大将も嘆いています。これでは対ソ戦どころではないと。
それでもいつ、やれと指令が来るや知れない。
無理ですよ。
抗命しましょう。
その準備を整えておくべきです。
今のうちに。できるうちに。
抗命といえば。
ビルマ戦線でも、そんな事例があったらしい。
フーコンは雨季に入ってて、濁流の中を逃げ回ってる有様のようですが。
主戦線はインド領内、インパール。
3月にここへ三個師団が派遣され、日本軍は攻勢を仕掛けた。
が、手前の山岳地帯で猛爆にさらされ、作戦続行不能に。
もちろん司令部から撤退許可など出るわけもありませんが、現地判断で師団長たち直々に、退却を開始。
美談でもなくて、一番の飲んだくれが頭にきて帰り始め、他も続々従ったというのが実態みたいですが。
ともあれ、いのちだいじにという天命に随って、兵たちは一目散に引き返した。
下界での慣例、軍規違反に基づき、後方へ戻れば処罰を受けます。
これも当然ではありますが、抗命したんだから抗弁もしましょう。
敵に向かうと同じくらいの気合いでもって。
しかしこれで助かったと思うのも早計です。
方面軍司令官は各師団長を、もっと素直な部下と交代させることによって、作戦続行を指示。
下位の兵は前線へ戻され、ふたたび交戦中とのこと。
こうなると、抗命するとしても、どこへ逃げるべきかという問題になりますね。
あらかじめ、確実な退却路を用意しておかねばならないなと考えさせられます。
考えましょう。考えておくんです。
今のうちに。できるうちにね。