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「逆らえるわけないじゃん。ごめんな」
小林め。お前もいつかお仕置きだ。
ラバウル・レポートが頭に入らないぞ。こんちくしょう。
しかし持ち出して読むわけにもいかないので、がんばって頭に詰めこみます。
ラバウルを下北半島の首根っ子だとすると、ちょうど青森県に相当する一帯に、17師と38師が広大な開拓地を造成中。
自給自足をモットーとし、内地からの補給に頼らず拠点防衛できるよう、本格的な日本人村をつくりあげてるらしい。
ふと思ったのですが、東に浮かぶボーゲンビル島へは、ガダルカナルから救出された第二師団が今も大勢、療養中のはず。
第二師団には石原莞爾が畑づくりを仕込んだ。
案外そのノウハウがこんなところで、ラバウル部隊へ継承されているのかもしれない。
石原もさぞや、誇らしかろう。浮かばれよう。
まだ死んでないと思うけど。
ニューブリテン島には、男も女も上半身裸で暮らす、純朴な現地民がいるらしいのですが、日本兵たちが昼夜働きづめでどんどん村を大きくしていく光景に、ただただ驚くばかりとか。
ミツバチの巣作りでも眺めてる感覚かな。それはビックリするだろうな。
よし、ラバウルはここまでと。
山下大将は、転生者だった。
しかも、私のいた未来とは違う世界線から来たらしい。
日本は滅亡している?
この戦争で、かな。
21世紀では計算が合わない。彼の言ってた数字が正確なら、20世紀中の戦争によって、となる。
2・26の蹶起将校にも、転生者が何人か、いたのか。
考えもしなかった。
そして、生き残りは、山下さんと、私だけ。我々の知る限りでは。
滅亡から救うために、と言っていた。
だから山下さん、軍人になったんだ。
太平洋戦争を、勝利に導くつもりか。
……その発想も、なかったよ。ここから、可能なのか?
私は、
日本が敗れて
冷戦が始まって
アメリカの傘の下で日本はしたたかに復活する、
それしか無いと思ってた。
そうなる前提で、日米開戦を、待っていた。
異なる時間線が存在した。それだけでも、大きな衝撃だ。
この世界の未来はどうなる?
どうなるっていうか、変えられる?
しかし……勝たせていいのか?
今の日本に、このまま。
それは、厭だ。
絶対にそれだけはダメだ。日本軍を、一掃しなくちゃいけない。
中国から、完全に撤退させるべき。これだけは絶対に譲れない。
そもそも。
勝てないでしょう。
どう考えても、日本はここから転落の一途。
政治力もない。マスコミに踊らされる阿呆な国民ばかり。
人のフリ見て我がフリ直す前にそもそも周囲を見もしない。
こんなやつらを、勝たせてどうする。
滅べよ。むしろそう思う。
しかし……複雑な心境ですなあ。
近いうち、牡丹江へ、会いに行こう。
じっくり話して、それから更に考えよう。
小林、ラバウル・レポートありがとう。
また続報来たら教えてくれ。ボーゲンビル島の状況も知りたいな。
「コダマ、もし山下大将が対ソ戦の準備をしてるなら、広軌を侮るなかれって、事前にちゃんと言っておいてくれよな」
あ、ああ。そうだな。くれぐれも、釘はさしておくよ。