File_1942-11-001D_hmos.
「第二師団は
ジャワから内地へ帰還が決まり、土産物を買いこんでいたところへ、急遽
ガダルカナル島への転戦を命じられた。
ゆえに、士気が低かった。
米兵は、基地に籠もっている。動作は萎縮している。
上陸した部隊の大半も船へ戻り、次の進攻へ備えているという。
今や、ルンガ飛行場の奪還に、さして困難など無いはずである。
道無きジャングルの中で
方位磁石も狂うなどと理由をつけ
前線の隊長が方向を幾たびも迷い
貴重な時間を無駄にした結果
総攻撃の足並みが揃わなかった。
洋上ではヨークタウン級の空母をまた一艦撃沈するなど海軍が大きな戦果を挙げたものの
陸軍第二師団はなにひとつ朗報をもたらすことなく
就中、第29連隊に至っては飛行場手前の鉄条網を越える寸前で一斉掃射され壊滅するなど
何という恥さらしか。
こんなところで米軍を増長させるわけにはいかぬ。
ガダルカナルはオーストラリアを攻めるにおいての最前線拠点となる。
もとより、我々日本人がつくった飛行場である。
これ以上の遅滞が許されぬことは、論を待たぬ。
増援、二個師団を派遣する。
先遣した尊い犠牲者の回収も行うこと。
今度こそ身を引き締め、有終の美を飾るべし」
クソドアホウでも甘すぎるよね。ぜんぜん、足りない。
つける薬を思いつけない。
全滅した第29連隊は、アウステン山を迂回して、最も長距離を行軍させられたチームです。
長谷川軍医たちも作戦が完全に失敗したあと撤退し、ジャングルを戻っていったようなんですが、その途中でも傷病兵がどんどん、亡くなっているとか。
やるせない。
言葉もない。
ただただ、無念。やりきれません。
現場がちゃんと言ってるのに、何故、上層部に、こう伝わるのか。
またも破滅しかありえないとわかっている命令が発動され、伝言ゲームの失敗が明らかなのもわかってて、なぜ、それに対して、抗えないのか。
おかしいでしょ。
回路として、欠陥があるでしょ。そこから逆算しろよ。
いったい誰得なんだと言ってんです。敵しか得してません。
戦争じゃない。ビジネスでもない。ゲームですらない。こんなの。
ああ、やりきれない。
「ところで、コダマ。山下中将て、知ってる?」
え?ああ、ごめん、誰?
「山下中将。マレー作戦を指揮して、シンガポールで英軍司令官に全面降伏のイエス・ノーを迫ったって大英雄」
……知らない。その人が、何か?
「コダマに会いたがってるみたい」
ほぇ?
先日、17号基地へ、視察に来たんだそうです。その山下中将。
彼は、牡丹江に新設された第一方面軍の司令官として、満洲に駐屯してるらしい。
対ソ戦の準備か?
まさか。これ以上戦線を拡大するつもりか。
どこまで脳ミソ腐ってんだ、大本営。
ともあれ。その山下中将。帰り際、私の名を出し、いつ来れば会えるだろうかと聞いてきたらしい。
「来るのは月に5~6回でしょうか。不定期ですが、出入り業者なので連絡はつけられます。呼びましょうか?」
と、ここのボス北野部長が言うと
「いや、いい。なるべく本人には知らせないでくれ。構わん、また来るから」
と、言われたとか。
ふうん。それをこっそり教えてくれたわけだね。ありがとう、小林。
しかし、何だ?まったく心当たりがないぞ。
「辻中佐から噂を聞いたんじゃない?そのくらいしか、思いつかないな」
だとすると、ロクな噂じゃなかろうね。知らんぷりしとくか。
小林から見て、山下中将は、どんな感じの人だった?
「デカい。烈しい。怖い人。ここはほら、研究員ばっかりだし、その家族や、幼児たちもいるし、少年隊も、そこから正規職員になったのも、いろいろいるじゃん。軍人なのに規律がなっとらん!て巡回しながらずっと怒鳴ってた。またいつ抜き打ちで来るやらって皆ビクビクしてる。コダマも、気をつけてね」
うへえ。ますます本気で、一生、会いたくないぞ。そんな奴。
いったい私に、何をさせるつもりだ。しかも、内密にだと?
ヤバいな。ハルビンのアジトも、警戒レベルをもう一段、上げておこう。