File_1941-06-002D_hmos.
1941年6月22日。ドイツ、ソ連へ侵攻開始。
とうとう、やっちゃいましたか。
世界中が、ざわめいております。
特に日本のあわてふためきぶりがひどい。
対策会議を招集するのにも何日か、かかる見込みです。本気で寝耳に水だったんだな。
もすこし緊張感をもって仕事してろよ。
アメリカはすぐに、ソ連を対独戦線の味方に引き入れようと明快なメッセージを出しました。
ドイツの動きを監視・把握していただけでなく、その先を見据えた計画を即座に発動させる。
外交のあるべき姿です。
こんな最高のお手本がすぐ海の向かいにあるというのに。
などとつぶやくのにも飽きました。
飽きるのに飽きるのも何度目だか。
それにしても、米国からソ連へのラブコールは、東西冷戦で核の刃を突きつけ合う時代を知っている身からすると、実に大らかな意思表明すぎて、私は動揺を禁じ得ない。ナチス・ドイツという巨悪を前にしているという特別な状況はあれど。
米ソは共に、多民族国家で広大な領土を持ち、基礎科学と教育を重視し、これに多大なる投資をしている。
共通項は多いんですね。
タイミング的にも、ここでソ連が米国と同盟を結ばない理由はまったくない。
強いて苦言を呈すなら、今日までの二年間、ソ連はドイツとグルになって北欧や東欧諸国を蹂躙してきた。
そのことに対しての道義は果たされるのか、という問題は提議できるでしょう。
実際、ソ連はこれから連合国の一員として、よりますます領土拡大を実現しますし、終戦後から半世紀にわたって続く世界分割とその傷痕は、21世紀まで、もしかしたらもっと先まで、人類を苦しめ続ける悪夢の端緒となるものです。
しかし今、そこまで論じてしまうことは、私の手に余ります。
もっといい手があったかもしれない。
そう考える人がいるなら、ぜひ、この世界に転生してきて、それを為してください。
あるいは、あなたが今いるその世界において、その場でできる最善を、尽くしていただいてもよい。
私には、ソ連を連合国の一員に迎える、これ以上に理想的な解を、ひとまず今は、思いつけません。
共通の敵は、純粋アーリア人のみを正統な人類と定義する、ドイツ帝国。
ばかおっしゃい。生物学的に無茶苦茶だ。
遺伝子配列のどこからどこまでを純粋などと言うつもりか。
そんなオカルト宗教に支配されてたまるか。
だから、枢軸を倒すんです。まず。
そのあとのことは、そのあとで考えましょう。
ところで。
私は、私の知っている歴史どおりに物事が進むとは限らないという可能性を常に心掛けるようにしています。
もし、ドイツがモスクワを占領しちゃったら、どうしよう?
ウクライナの穀倉地帯と、コーカサスの大油田。
ドイツは真っ先に、この二地点を押さえるべく進軍するでしょう。
モスクワ以東には膨大な備蓄もあるとはいえ、ドイツが勢いをつけて戦術においてソ連を翻弄すれば、首都制圧が成功することは、ありえます。
国民政府と同じく、ソ連指導部も奥地へ遷都して、抗戦を続けるでしょうが。
世界大戦の行方は、またわからなくなりますね。更なる長期化もするでしょう。
そのときは、またその時点で考えます。
未来のことだから確実にはわからない。
そんなことは、あたりまえなのだ。