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7月22日。近衛文麿が、日本国首相に、返り咲きました。
なんでやねん?
米内内閣を倒したのは、陸軍です。これがまた、日本ならではの茶番劇なのですが。
陸軍大臣・畑俊六が辞表を提出。
米内首相が交代の陸相を求めたが、陸軍が人選を拒んだ。
内閣不成立により、総辞職。
……どうしてこんな糞システムを後生大事に守り続けているのか。心底、理解できません。
したくもありません。
日本人は、まともに機能する政治システムを、つくれない上に、それがおかしいってことを理解すらできない、本当にどうしようもない、アホンダラ揃いなんですけど、それにしても、あまりにも。
陸軍にとっては、御しやすいのか、よりによって、また近衛。農林大臣兼任です。
ああ、以前にも同じような状況を見た。林内閣だったかな。誰もなり手がなくて。やたら兼ね役。
今回は、外務と拓務を松岡洋右が担当。
陸軍大臣は、東條英機。
以下割愛。
その三日後、ルーズヴェルト大統領が、先日の国防強化推進法に、禁輸品目を追加しました。
その中に含まれていたのが、スクラップ・アイアン。
鉄屑です。遂にこれまで、というべきか。
鉄鉱石から精製するのに比べ純度は劣りますが、これも貴重な鉄資源。
日本は鉄の輸入を、大きくアメリカに依存しています。
すでに詰みじゃないですか。
謝るなら今のうち。真人間へ、戻りましょう。
こんな状況下、用事があって、上海へ行ってきました。
岡藤洋行へも顔を出し、店主と雑談を交わします。
「鉄が無くて兵器がつくれなくなると、僕も仕入れに困るなあ。何かいい手はないかねえ」
いい手?侵略やめればいいだけです。
中国本土にも鉄の採れる産地はあると思いますが、まずは調査をしなくては。
ちなみに日本が荒らしまくった土地では、大量の弾丸が放棄されており、生き残った子供たちが、家や畑や死骸にめり込んだ鉄を集めて、生活費を稼いでます。
かれらの方がよっぽど資源の大切さをわかってる。
学びましょう。教えを乞うべきです。頭を下げて。
「どうかな、この値付け。支那人にならってさ。とりあえず高めにつけといて、買いそうだったら下げていくんだけど、コダマ君だったらもっと要領のいい値段をつける?」
それでいいんじゃないですか。価格は問題じゃない。
それよりも鑑識眼を身につけましょう。
ホンモノかニセモノかを判断し、根拠を合理的に説明できる技術をです。
これを養わない以上、何をやったところで付け焼き刃。
玄人として信頼されるようになれば、相談したい人の方から、頼ってきますよ。
それが、はじめの一歩。フジさんなら、お手のものでしょ。
「東條さんが陸軍大臣になったから、また憲兵隊が力を奮うようになるだろうなあ。僕への監視も強まるかもしれない。コダマ君は大丈夫だろうけど、僕は少し、大人しくしてるよ」
ああ、それは気付かなかった。
そうだな、日本国内の憲兵隊の動きも監視しておくか。
ツテはある。
私信の検閲については対策済みですが、私は特に、17号管内の郵便局から日特のサノへ向けて、図面や請求書の類いを送りあってるので、その中に暗号を混ぜることで大幅にリスク回避ができています。
エニグマは使いません。
あれだと暗号文にしか見えない暗号文になっちゃうので、より危険。
検閲される媒体では、暗号を暗号だと思わせちゃ、いけないんです。
これも暗号学の基本です。
私は、石原が度重なる粗相をして以来、東條さんを悪く思えなくなっちゃったんですが、フジさんは、東條を怨んでるんじゃないか。
半年も幽閉され、犯罪者として国外追放させた元凶だから。
そう思ってた。
でも、意外すぎるエピソードが返ってきました。
「僕、東條さんには感謝してるんだよ。石原さんと二人三脚でずっとやってきたけど、さすがにもう、ダメだから。あの人。
何もかも一からやり直したいなあって悶々としてたところに、こんな生まれ変わりの機会を与えてくれたんだから。今の待遇は、願ったり叶ったりどころじゃない。
それに6年前、東條さんが陸士の幹事やってた時に、皇道派の眞崎が教育総監に就いたよね。
自分は絶対ニラまれてる、と脅えてた東條さんを、根回しして満洲の関東軍へ送り出したのは僕なんだ。
あのとき東條さん、泣きじゃくりながら僕の手を握ってお礼言ってくれてね。
だから東條さんは、石原は憎くても、僕のことはそんなに嫌ってないはずだよ」
……フジさんは、あの東條に、そんな恩まで売っていたのか。
どこまでも、パネえお人だわ。