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満洲でも、4月から、徴兵制が始まっています。
ああ戦時下なんだ、という緊張感が一気に高まる。
満洲は人種差別が極めて烈しい国のひとつですが、その偏りも、より顕著に可視化されます。
ちなみに、日本人は、徴用した人員が持つ各スキルを最大限に活かそうなんて思考回路をそもそも持ちません。
掻き集めたら一律、二等兵にして単純労働で遣い潰す。
ベルトコンベアに放りこむだけです。
こんなだから戦争に勝てないんだよ。
永遠のゼロ・生産性。
日本内地でも動員は始まっているのですが、今はまだ、大人が対象です。
一方、17号基地へは、今春から続々、ティーンエイジャーの男の子たちが送りこまれてきてます。
小林も、何人か受け持っているかな。
作業手伝わせて、勉強させて。宿舎での当番表とか作って、団体行動。
陸軍幼年学校とか、ボーイスカウトみたいな雰囲気です。
みんな食べ盛りで、よいことだ。
大人が払底しているわけではありません。
東郷は千葉県の郷里からスタッフを大勢、17号へ連れてきてますが、人手はまだまだ足りない。
補充するなら、若いほど素直だし、覚えも早いということで、特に低年齢層を要請したらしい。
この子供スカウトには、日特も絡んでます。
中学出の就職組を中心に募集をかけ、ある程度修養させてから、満洲へ送りこむ。そんなプログラムがシステム化されているらしい。
サノも、いろんなことやらされて大変だね。
アメリカが、ますます戦争への介入を強めてます。
7月2日、国防強化促進法が成立。
四十種以上に及ぶ戦略軍需物資の輸出には、大統領の許可を必要とする。
ただし英国にだけは無制限。
英国は対独戦線で現在きわめて旗色が悪い。アジアの戦争にはもはや介入できないという宣言まで出すほど。
日本はこれもチャンスと捉え、英領ビルマへ圧力をかける。重慶政府への物資輸送を停止させました。
ひとつの可能性を考えます。
ヒトラーとスターリンが、今すぐ、これ以上の領土欲を、すべて停止させたら、どうなるか。
実は、ある意味、最悪です。
欧州地図が独ソ二強のイニシアティヴによって、現状のまま固定される。
イギリスに対しては包囲をし続け、時間をかけてその体力を奪ってゆく。
アメリカは、今年秋から大統領選挙でルーズヴェルトは二期目だから次で代わるでしょう。
新大統領が決まったら、懐柔して、枢軸国家との不戦条約を結ばせる。
東洋は日本にとらせておく。そのための援助と見返りは準備しておく。
中国は、見殺し。
ね。最悪でしょう?
……いや。ソ連が中国を、見離さないかな。中国共産党を、ですけど。
でも結局日本とソ連とで中国を分割して、その国境策定で揉め始めるだろう。
戦わせておけ、とドイツは考える。
そしてソ連が弱ってくるまで、様子をうかがう。なんなら、日本へ援助して、ソ連を弱らせる。
日本なら、一番最後に軽くひとひねりすれば、それで終わりだから。
我ながら、とても厭な想像をしちゃいました。
これが最悪だろうか。もっと最悪を想像できますかね。誰にとっての最悪かにもよりますが。
どんな世界でも、誰かにとってはチャンス到来。
そのことだけは、忘れないこと。