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コダマさんは、西暦で言うところの、21世紀人だそうである。
百年後の未来から来られたということですか?
「まあ、そのくらいだ。我々のボキャブラリーでは、転生といった方がしっくりくる。肉体はこの時代のものだが、精神だけがタイムトリップしたようだ」
タイム、トリップ。……英語ですね。斬新だ。
「前世の記憶はしかし、曖昧でね。こっちへ来てから十年間、記録も一切とらずに隠れて生きてきたものだから、かなり忘れてしまったところもあるが」
なんでもいいです、教えてください。未来の日本は、どうなっているのですか?
「大日本帝国、ではなくなっている。民主主義で、経済発展を成功させ、国中がメトロポリスになっているな。21世紀では地球のいたるところに東京市並みの大都会が乱立してるから、日本が特別成功してるわけでもないが、それでもまあ、先進国とよばれるトップクラスの一員だ」
西洋列強と肩を並べているわけですね。……それは、たいへん、喜ばしいことです。
「しかしまあ、日本はわりあい平和だが、世界中では常にどこかしらで血みどろの戦争が止んだことはないよ。しかも一瞬で何百人も何万人も殺せるような兵器がくさるほどあって、それらが日々使われている。我々の感覚も相当に麻痺してしまっていたかな」
コダマさんは、従軍されていたのですか?
「私は、軍人ではない。……が……、戦争についてはそれなりに知見は高かった方だと思う。我々は、日々、ゲームで戦争をしていた」
ゲーム?つまり……将棋のようなものですか?
「それなー。閣下もなんだけど、この時代では将棋になっちゃうんだよなあ。他に説明する言葉が見当たらないんだよなあ。RPGシミュレーションとかPCゲースマゲー置きゲー、プレステスイッチDSFFポケモンバイオマリオモンハンFPSMMOG対戦レイドチャットようつべニコ動いったいどこからどう説明……」
すみません、いまの早口はまったくついていけませんでした。
「気にするな。いろんなものがいっぱいあったのだ。その上、時間の進み方も、おそろしく速い」
はやい?どういうことでしょうか?
「さっきの私のしゃべり方、速かっただろう?今はこれでも、注意深く、ゆっくり喋っているつもりなんだが、つい気を抜くと、さっきみたいな、オタモードになる。オタ同士なら、あの速度で理解し合えるんだ」
オタ。オタですね。私もその……オタだと?
「うむ。資格を認める団体があるわけじゃないんだけども、私のいた世界では最高位の尊称だ。人は誰でも、オタになれる。悟りに達した人間は、思考の高速性を手に入れる。加速装置が脳内に誕生するのだ」
はあ……私には、その、素質があると……?
「強制してならせるものではない。好きなことをとことん、世間の常識にとらわれず、興味あることにひたすらのめりこんで究めれば、人は超能力を手に入れられるものだ。私のいた世界では、そういう人種が無数にいた。ニュータイプだ。しかも、我々は、平和だった。世間がいかに絶望的に暗かろうとも、人生とはなんてすばらしいものだと、日々それを噛みしめながら、生きていられた」
仏教、もしくはキリスト教や、イスラームなどとは関係あるものですか?
「うーん……たぶん、ない。おそらくそのどれとでも共存できるはずだ」
ふしぎなお話です。私には到底たどり着けない境地のように思うのですが。精進していきたいものです。
「まあそうしゃちこばるな。あなたは私よりこの世界では年上なんだし、まずは友達から始めようじゃないか。乾杯だ」
コダマさんは、お酒は飲まれないのですね?
「いちおう成長期の体だしな。でも、昔……ああめんどくさいな、前世でも、そんなに好きじゃなかった。酔うと手元が狂うからな。それよりハイスコア出したいじゃん?」
……?はい、私もそんなに強くはありませんが、いただかせていただきます。
「無理な我慢はしない。心の欲するまま、肉体の求めるものに正直かつ忠実であれ。それがオタの心意気だ」
はい。