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1940年1月26日。
本日、日米通商航海条約が失効します。
更新は、されないでしょう。
半年間、なりゆきをうかがってましたが、日本は何ら手を打つ気配なし。
長考するならまだしも、居眠りしてやがんなって。
ハルビンの商売仲間たちも、だいたい同意見でした。賭けが成立しません。
米国視点で世界地図を見渡せば。
右岸の先ではドイツが、左岸の果てでは日本が、傍若無人な弱い者いじめを得意気にやってます。
かつて世界の覇者だった大英帝国も、
旧世界大戦直後には秩序の担い手を期待されていた国際連盟も、
今やその権威は、張り子の虎に等しい。
米国は実戦経験が乏しい。
戦争するとなれば英国に味方するのは当然としても、海を渡り攻撃を仕掛けるには、コストがかかりすぎる。
同じ理由でドイツや日本がアメリカまで攻めてくることもあるまい。
保守系米国民の大多数が参戦に消極的なのも、むべなるかな。
米国民?
言い得て妙。
いま、アメリカは移民ラッシュです。ヨーロッパから続々と。
アメリカはかれらに、積極的に市民権を与えています。
ドイツ帝国領から逃れてきたユダヤ難民は、特に多いでしょう。
実は二年くらい前から、ハルビンへも、ユダヤ系が大量に流入してます。
満洲でも、日本人以外は住みづらい地域がほとんどなので、ハルビンあたりへ移住先が集中する。
かつての白系ロシア人の境遇に近いところもあり、ひとごとと思えないのか、一部では強固に連帯もします。
私も最近は、ジューさんばっかり雇用してますよ。イデッシュも、かれらに教えてもらうようになりました。
ユダヤ人は、ビジネスパートナーに最高です。
かれら個々は出生地を共有しませんから、そのぶん宗教による結束が強いのですが、その教えの一つに「汝姦淫するなかれ」があります。
皆に守らせます。
でも素敵な女の子を見かけた途端、すかさず「汝の隣人を愛せよ」を採択する。意気揚々と。
法律とはそもそも何なのか。という命題さえ考えさせられちゃう。
目的が明確なら、神の法さえ徹底的に利用すべし。
素晴らしいバイタリティ。
私はそんなことも学びました。かれらから。
ドイツも、よりによって、ユダヤ人を排斥するなんてバカだなあ。
かれらを味方につけることこそが、世界を征する近道であるのに。
その発想法まで追い払い、全部アメリカに取られちゃってる。この手札の差は、計り知れませんよ。
そんな大量の移民に支えられた、民主主義の国アメリカが、日和見の中立主義に閉じこもり続けていられるわけもなく、参戦の準備を着々と進めています。左右両翼を見据えて。
ソ連もドイツも二正面作戦を巧みに回避しましたが、アメリカはどうする。
ドイツはチェコスロヴァキアを占領したことで鉱山資源と重工業生産力を手中に収めました。手強い相手です。
対独戦に及べば、長期化は避けられないでしょう。
日本は?
未だに家内制手工業で焼き畑農業続けてる、虫ケラ連中です。
とりあえずこっちは原料の供給を止めてやれば音を上げるか。
そこで、四半世紀続けてきた通商条約を、止めちゃいました。
半年も猶予をくれたのに、日本は、座して期限を迎えました。
我々商人は、買いだめに走りましたよ。日本の政府は何もしないって知ってるんでね。
さて、次は何で儲けようかな。
内地では、新世紀を祝ってるらしいんですけどね。
我々には、浮かれてる暇などありません。一分一秒を惜しんで戦ってます。
半年もあれば、絶対的な差がつくのは、当然でしょう。