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12月。
日本陸軍第17号軍事基地が、ついに完成。
外周約5km。
その上さらに広大な立入禁止区域に囲まれ、駅へ向かう途中に偽装用航空基地まで鎮座。
せっかくだからそこも使おうという計画はあるみたいですが。
ハルハ河の大敗以来、満洲には貴重な戦力を回してもらえなくなりましたからね。
新京からのお客様も、17号内の飛行場をもっぱら使用します。
施設に近くて便利なんですよね、こっちの方が。
日本内地のスケールでは想像すら及ばないであろう、この巨大で近代的なニュータウンを一目見ようと連日、陸軍関係のお偉方が視察に訪れ、南京城観光ルートさながらの接待を受け、感心して帰っていきます。
今日は、遠藤三郎が来てました。
現在の肩書きは、関東軍参謀副長。階級は、少将。
君なら辻を叱って、止めさせられたかな。
無理だろうな。
最後まで俺の話を聞いてくれたからきっと分かってくれたはずだと、勝手に思いこんで、すぐ安心しちゃうんだろうな。
今日も、そんな感じでしたし。
七年前の夏、東郷が初めて満洲へ来たときの担当が、遠藤でした。
ここまで大きくなった陸軍衛生研究班の成長に感極まるのは、まあ、わかる。
しかし参謀なら作戦指揮する上でもっと見るべき点、聞くべき点は、それこそ山ほどあるだろうに。
お膳立てされた説明をただ聞いて感心するだけ。質問もしない。
くだらないジョークで寒々しい笑いをとるのがせいぜい。
私にも、通り一遍の説教垂れて帰りやがりました。
まともに相手する気にもなれません。
日頃どれだけ脳細胞を使わずに生きているんだろうか。
早く死ねばいいのにね。前途ある若者の道をふさぐな。
そんな呪詛しか出ませんて。
予想はしてたんですが、工事が完了した時点で、もともとこの地に住んでいて労役夫として徴発された住民たちは、生かしておけない存在です。
さりとて、すでに限界以上に酷使されてますから人体実験するにもデータをとりにくい。
すみやかなる殺処分を求められます。
求められました。
実行されました。
そのための設備もあるんです。ここには。
実験体として使うには、なるべく均一の体格で、年齢や肉質も偏りが少ない、ある程度まとまった数量の個体群が必要となります。
私も背陰河時代、山東人苦力を細かい指定に従ってスカウトし、連れ去ってきた前科がありましたね。
今は、ハルビン日本総領事館がその業務を担当してます。
庁舎の地下室が牢獄になってて、収容力は300人超だとか。
ストックされた囚人のデータは17号へ送られ、発注がくれば指定番号の被験体を移送する。
きわめて、システマティックです。
事実、ここは、研究機関としては、きわめて先進的で、合理的で、居心地がよい.
日本人らしからぬアイデアに満ちあふれてる。
ほれぼれするほど理想的なアカデミズムのテーマパークなんですね。
それは、認めたい。
途轍もなく複雑な感情が渦巻くことも認めますが。
そこで、私は思う。
この施設は、すばらしい。ここで研究を続けよう。
いま大陸に住んでいる日本人を全員、強制連行し、一人残らず被験体として使っていいことにして。
ここの管理は、真剣に医学を人類すべてのために役立てたい人たちだけに、任せるべきだ。
これが最適解じゃないかな。
日本軍人はどれもこれも画一的で似たり寄ったりだから、被験体にも最適です。
番号つけてタグつけて。人類に医学が必要である限り、種としての存続は約束される。
日本人は最高だと、初めてやっと、褒められるんだぞ。
誇りましょうよ。