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香港を、駆け足で見て回りました。
英国領、香港。
この世界では、香港島は英国の永久領土とされており、その周辺地域が西暦1898年7月1日から99年間の期限で租借ということになっています。
私のいた前世では、香港島まで含めたまるごと、1997年くらいに中華人民共和国へ返還されたように思ってたんですが、途中でいろいろあったのかなあ。
前世今世合わせて、香港へ来たの初めてなんですよ。
風景の比較もできません。摩天楼などありません。
上海へ初めて行ったときと同じようなギャップを感じてます。
でもそれはそれとして、現在の香港を純粋に、目に焼き付けます。
九龍半島の先、深圳川が国境です。河幅、約20メートル。
浅めですが、増水するとかなりの水嵩になるとか。
現在、チャイナとの連絡鉄道は運行していません。
難民が続々山を越えて流入しており、街中に浮浪者があふれています。
英国人街は隔離されており、10階建てのビルも見えます。
その外では治安も警備も、インド兵らしき官憲に委ねられています。
半島からは岬が二つ突き出ており、その東側に悪魔山という、標高200メートルほどの丘があります。
対岸の香港島ヴィクトリア市街まで見渡せるので、観測哨設置にはここが最適。
なんですけど、香港島にはいたるところ英軍要塞がひしめいているため、丘へ登った瞬間に撃たれることでしょう。
ってなんで攻略をついつい考えちゃうんでしょうか。私は商売人のふりをして情報蒐集目的でここへ来ているだけなのに。
とはいえ、街に入れない以上、うろつき回るだけでもリスキーですね。
いまから香港に足場をつくるのは難しい。
見切りをつけて、上海へ向かいました。
上海も、いまや日本の占領地。ロクなことになってないと思います。
英国領の共同租界が難民であふれているのも、香港と同じ光景です。
それでもこの目で見て、歩き、以前からの取引先に挨拶をして回ります。
虹口の日本人街は拡張され、新しい店や住居、工場なども増えてました。
そこに、なぜかハルさんがいたんですよ。
幽霊か、幻覚か。
ポーカーフェイスを装う余裕もありませんでした。不意打ちですもの。
彼も、同様に硬直状態。ある日突然二人黙るの。
「ここでは岡藤ヨシオで通してるから、今後はその名前だけで呼んでくれ」
わかりました。
オカフジさん。
フジさん、ね。
周囲に気を配りながら
フジさんは
商品を説明する風を装って
私に
ここまでの経緯を語ってくれました。
12月に京都で検挙されたフジさん、今年の5月まで、留置場に拘留されていました。
憲兵は、石原も共産主義者として検挙するシナリオを描いていたようなんですけれど、東條次官が根回ししているとはいっても主権限者たる陸軍大臣は板垣さんです。
板垣は石原をかばう。
そんな組んず解れつで、ひたすら拘留が長引いた。
フジさんは半年間、尋問官と毎日おしゃべりしてるうちに、すっかり彼を味方につけてしまう。
最終的に国外追放というウヤムヤな処分が下ったあと、上海で商売を始めたいと言ったら、準備資金を予算から出してくれた。
その尋問官、陸軍の払い下げ物資を安く手に入れられるよう計らってくれるまでして。
それで今、ミリタリーショップを経営してるところなのだそうです。
「商売って、面白いものだね」
なんて楽しそうに語るフジさんに、私こそ眉をひそめちゃいましたよ。
ただ、監視の目は厳しいそうです。
私はあくまで一般客として今日こうして来てますが、フジさんが昔の知り合いと連絡をとることは堅く禁じられているらしい。
フーム。
じゃあ、東京レアメタルと業務提携しませんか。
担当の営業をつけて、毎週往復させますから、口頭でも通信でも何でも、連絡を取り合いましょう。
商売上の相談とかお困りごとがあれば、力になります。
どうでしょうか?
二つ返事で、まとまりました。
今日はここまで。
そのうちフジさんから、もっといろんなこと聞きます。