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プスモス、買っちゃいました。
払い下げですけどね。
整備済みと言われましたが、自分で可能な限り、メンテしました。
そっちの方が、お金かかった。
それでも不安でたまらないので、辻くんを頼ります。
陸軍航空隊の整備所でチェックしてもらいました。
その流れで、テスト飛行も、本職のパイロットさんにお手伝いいただけることに。
レアケースだとは思いますけど、持つべきものはコネですね。
どこへ行こうかって言われたので、牡丹江の東京城をリクエスト。
なかなか遠くて、会社をつくる前に一度しか行ったことないんですが、今は相当大きな町になってるって。
東京城っていう遺跡があって、ここから社名もらったんですよ、みたいな由来を語りながら、辻くんと私を乗せたプスモスは、大空へ羽ばたきます。
飛行中、また石原の話になったんですが、東條さんの代わりの参謀長がまだ着任してなくて、石原参謀副長が代理でトップ権限を任されているのに、やっぱり時間通り登庁してこなくて、いつもフラフラ、どこかでクダを巻いているんだそうです。
先月も、秩父宮が内地から視察に来てて。あれ懐かしい名前。
石原は、関東軍の誰にも知らせず北京まで迎えに行って、そこから一緒に新京入り。秩父宮は石原と古い付き合いなので、道中さんざん東條参謀長の悪口を聞かされ、新京でいきなり当人へ、お叱りの言葉を述べられたと。
バカしかいないんですか。もはや、日本には。一人残らず。
双方の言い分を聞いた上での調停ならまだしも。
東條さんは、それでも、怒らなかったそうです。
いつかキレるぞ、かわいそうに。
さて二時間ほどで牡丹江市に着陸。
やっぱ速いなあ、飛行機。
見違えるほど、大きな街になってました。いまや、10万人都市。
ただ、インフラ整備が追いつかなくて、上下水道、道路、それから治安など、行政の問題は山積みだそうです。
たしかに道も悪くて、ここから東京城まで、日帰りじゃ難しいかな。
帰りに、上空から眺めるだけにしましょう。また改めて、来ることにして。
お布施も、そのときに。
辻は、牡丹江の特務へ顔を出してくると言ってました。私は同行する筋合いもないので、待ち合わせの時間だけ決めて、別行動。
牡丹江省は、お隣の間島省と並んで、朝鮮からの入植者が大半を占めるので、街にはハングルが多いかなと思ってたら、日本語ばかりだったので、正直ゲンナリ。
これでは、文化は、育たないよ。
辻を半時間あまり、飛行場で待ちます。が、戻って来ない。
特務ならここかな、とアタリをつけて電話したら、ビンゴ。なんだか、大事件が起きてるそうで、先に帰ってくれと言われました。
大事件?なんだろうね、いったい。
辻くんは帰るときも関東軍のプスモスを呼ぶだろうけど、それも手間だから、パイロットさんに、もう一時間だけ待ってみようかと言い、その間に私は情報蒐集のため、省庁めぐりを始めます。
なんでもいいんです。広く浅く、いろんなデータを持っておけば、あとから突然結びついたりする。
地方新聞の地域ニュースに目を通しておくだけでも、有益なんです。
その程度のつもりでいたのに、まさかの山口重次氏と邂逅。
三年ぶり?奉天副市長だったはずでは。
今は牡丹江省の次長だそうです。
ナンバー2がお好きなのかな。
10分ほど、ロビーで語らいました。
昨秋、石原が関東軍へ来て、協和会を猛批判。
山口重次は石原の側について、正しい協和会のあり方とは、ていう新・本質宣言を2万部印刷。
配ろうとした矢先に全部焼却処分されるとか、そんな不毛な政治争いを起こしてたそうです。
石原は孤立する一方ですし、山口重次も連座の形で左遷。
それで牡丹江省へやって来たと。
でもオレが牡丹江省への国家予算割り当てを一千万円まで引き上げさせたんだとか、最後はいつものオレオレ自慢でした。ああよかったね。
予算の額面が増えたところで、その金はぜんぶ日本企業が奪い合うだけだろ。
なんて野暮なこと口にはしません。僕ももうオトナなんで。
辻は、戻ってきてました。新京へ帰投します。
聞ける範囲で、事件について教えてもらいました。
ソ連からの亡命者を、身柄確保したそうです。間島省の、朝鮮軍が。
ややこしいことに、この地域って、満洲国領ですけど、朝鮮軍と朝鮮警察が治安維持を管轄してるんですね。
その亡命者、大物らしくて。朝鮮軍司令部から東京の参本へ報告すると、すぐに日本へ連れて来いと。
ただちに京城へ移送したそうです。
これを現地の関東軍特務が、新京の司令部へ報告したところ、参謀長代理の石原が、ブチ切れた。
我が満洲国へ亡命してきたソ連人を、朝鮮と日本がグルになってかっさらうとは、何事かと。
そりゃもう、烈火のごとく。
辻くんは、その取りなしを、一所懸命、してたそうです。
おつかれさま。
いいかげん、そんな老害、追い払った方が、よくないかい?
山口重次と仲いいみたいだから、牡丹江へとか、どうだい。