File_1938-01-001D_hmos.
呪われた街、南京。
鳥辺野の一千倍以上の広さと、血塗られた歴史を持つ都。
その上この1ヶ月で、どれほどの怨念を、焼き、埋め、犯し、流してしまったのだろう。
償うことなど、叶わない。安らかになんて、思うことすらおこがましい。
それでも、謝ります。
ごめんなさい。
兵たちは、やさぐれていく一方です。
無理もありません。鹵獲品でまかなえと、すべての補給を止められ、いつ帰れるのかもわからない。
難民たちに物乞いをされれば、これみよがしに、蹴りつけます。
隠れ場所になりそうな建物は片端から焼かれます。
元日から、娼館ができました。日が暮れるまで、長蛇の列です。徴発は、多少は減った模様です。
雪も降り始めました。
難民たちは、着の身着のまま、身を寄せ合って眠ります。日本兵はかれらに立ち小便を浴びせかけます。
建物の中に隠れれば、暴行の危険が増し、運が悪ければ眠ってる間に、暖をとるための火を放たれます。
もはや、皇軍たるものという魔法の呪文すら、馬耳東風。
馬のほうが従順です。怒らせたら、私だって殴られます。
新聞屋どもは、ひっきりなしに、お客さんを連れてきます。
内地では、一大キャンペーンが行われているらしい。
映画スターや芥川賞作家とかが来て、特設観光コースを見て回ります。
昨日はスカート穿いたおばちゃんが、ひたすら写真を撮っていました。
難民たちの中から、ごく一部の綺麗どころが、食事と服を与えられ、化粧して、お客を出迎えます。
国民政府から解放してくれた日本の兵隊さんありがとうと。
泣きじゃくりながら、感謝の想いを伝えます。
消費期限がくれば、安全区へ戻されますが、日本人の手先となった者を同胞たちが迎え入れるわけがありません。
かれらは選ばれた瞬間に、帰る場所すら失うのです。
それでも、一秒でも永く生きようと思えば、涙を流すしかない。
呪われた涙を。
私の心も、すっかり渇ききった頃、第16師団へ、転地の指令が下りました。
到一さんは、華北へ。
ケサゴさんは、上海だそうです。
おつかれ、さまでした。
私は、いったん到一さんと別れます。
満洲へ、戻ります。
人間に、戻れるかどうかは、知りません。