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行きはよいよい、帰りはこわい。
上海からの出港は避け、陸路で華北へ向かいます。
といっても、南京~徐州ルートも危険なので、南昌~長沙~漢口~石家荘~保定、というとんでもない遠回りをしました。二週間かかりました。
この間に、戦線は拡大の一途。
北平は占領され、第29軍は、私が今いるこの保定に陣を構えてます。
保定は、北平・天津に次ぐ大都市ですが、上海に比べると、防衛要地としては未熟。
いずれ日本軍が攻めこんできたら、占領されるでしょう。
次は石家荘まで逃げるのかな?
蒋介石は、全国民へ向けて放送しています。
奇襲による一点集中で目的を達するのは日本のお家芸だが、我々は今は兵力を温存して退却するしかない。
しかしひとたび持久戦へ持ちこめば、日本はすぐに息切れする。
そこまで、追いこむのだ。
鯨を飲みくだすことがいかに難しいかを、和寇へ教えてやるのだ。と。
たしかに地図を見れば、呆然とする距離なんですよ。北平からここまで、直線距離でも160km。
今年の夏、この辺一帯がひどい水害に見舞われたので、街中でも水はけが悪く、まるで湿地帯のようです。
逃げる中国兵もつらいでしょうが、土地勘のない日本軍は更に難儀するでしょう。トラップにも気をつけなきゃいけませんしね。
そして、補給は、届くのかと。
中華人民にとって憂慮すべきは、飛行機です。
日本、いつのまにこんな航空戦力持ってたんだろう。上海でも海軍機が飛び回ってましたし、すでに南京・漢口へも空爆が始まってるそうです。
偵察、そして、爆撃。精度は決して高くないですが、対抗手段を持ち得ない中国の軍隊にとっては致命的な脅威です。
北平市豊台に飛行場がつくられると、そこから今以上に飛んでくるでしょうね。
こちらにも対空砲が欲しいところですが、命中率を考えると、大して当てにもできますまい。
空襲警報と防空壕が、日常風景となるわけです。
保定は、情報の集積地としては極めて便が悪く、大衆向けの中国語ソースしか得られないのがストレスなんですけど、気になるネタとしては、共産党に動きがありました。
西安以降、縮まるようで縮まらなかった国府と共産の関係ですが、日本との本格戦闘勃発により、なりふりかまっていられなくなったみたいです。
共産軍のままであっても「蒋軍事委員長の命令に絶対服従し、国家のためにその身を捧ぐ」という、国民政府軍と同列の宣誓をさせた上で、数個師団相当の兵力が、山西省に配備されたようですね。
一個師団あたりの兵員数も、日本の十倍くらいなのかな。正確な数字を求めるのは無駄なんで、踏み込みませんが。
面白いのは、共産党を受け入れてくれたお礼にといって、コミンテルン経由でソ連から中国への武器供与が既に始められているという噂。
とにかく火力が不足している中国にとって、この申し出はどれだけ魅力的なことか。
ということは?共産党の発言力が、これから、いやが上にも高まりますよね。
行きはよいよい、帰りはこわい。
帰り道は、確かめておきましょうね。私は遠回りでも、確実な方を選びます。
それが、生き残る鍵だと思います。