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到一さんを、新京駅で、お見送り。
内地を経由して、北支那方面軍および上海派遣軍に編入される軍人さんが、いっぱい乗り込みます。
家族の方や、婦人会、在郷会の方々でホームも駅舎内外もごった返してます。
万歳三唱の声量合戦が繰り広げられています。
これは伝染しちゃうなあ。「露営の歌」も、大人気ですよ。
殺すと言わず、手柄と言う。
いいですね。オブラートに包めば、なんだって美味しく食べられる。
東宮カネオ少佐も一緒に内地へ戻るそうです。
「コダマか!久しぶりだな!あいかわらず小さいな!駄々っ子のお守りやってんだってな!早く嫁さんもらって独り立ちしろ!俺が戻ってきたらチャムスへ来い、鴨鍋食わせてやる。旨いぞ!」
相も変わらぬニンニクまみれのオヤジ臭。
チャムスというのは東宮が担当してた、だだっ広い開拓地ですね。
匪賊は根絶済みだからと、胸を張ってます。カモって鳥のカモですか?てつい聞いちゃうとこでした。いや鳥だって殺され食われるために生存してるわけじゃないですけどね。
佐々木到一少将が満洲国軍政部最高顧問になったとき、旧知の仲だと東宮を部下に指名したらしいんですが、あまりに意見というか性格が合わなくて、それ以来「最高~顧問は~駄々っ子だァ~」というのが東宮の口癖になってるっていうのは、到一さんからしょっちゅう聞かされてました。
私はその駄々っ子の、さらにお守りだそうです。いいんですけどね。
「とはいうもののな。我々皇軍たるもの、陛下に死んでこいと言わるる、これ以上の幸せはあるまいて。ようやく、軍人の本分に戻れてわしゃ幸せだ。なので、戻ってこんつもりだ。満洲の前途はお前らにまかせる。いい国にしてくれ。頼むぞ」
シンミリいい話ふうにまとめようとしてますけど、クソクラエです。
到一さんから、西竹一騎兵大尉へ、特別に、紹介していただきました。
身は細いのに、力強い掌でした。この世界の日本人男性には似つかわしくないイケメンでもあり、ロサンゼルスオリンピック馬術障害飛び金メダリストという箔も付いて、迂闊に外を出歩けないほどのトップアイドルです。
昨年末から満洲へ来られてたのは知ってましたし、新聞のインタビューも何度か受けられてましたが、いざ対面しますと、月並みな応援の言葉しか、出ませんね。
馬と走るなら内地より大陸の方がずっと良いよ、と笑ってらっしゃいました。
西大尉はおそらく、戦争なんて、人殺しなんて、心底やりたくないけど軍隊に入っちゃった人なんだろうなという印象でした。到一さんや東宮、私なんかは敵を殺すことに躊躇ありませんが、西さんからは、そんな臭みを感じません。
これは誰にも言えないネタバレですけど、私は西隊長の最期を知ってるんです。
ええ。西さんて、21世紀でも女の子たちの憧れなんですよ。映画にもなってます。必ずイケメンが配役されます。イケメンじゃないと成り立たないので。
だからね、余計、せつなかったです。
涙をこらえるのがやっとで、ほとんどお話、しませんでした。
そんな西大尉も、内地へ戻り、これから戦地を駆け巡ります。戦後まで生き延びられたら、満洲でも北海道でも、ずっと馬たちと走り続けていられたのだろうになあって。
そんなことをね、考えてました。
さて。到一さんの面倒を見なくてよくなったところで、私は、晴れて自由の身です。
責任を伴ってこその自由ですよね。もちろんわかってます。
東京レアメタル。第2ステージ、発動です。
東郷部隊とのお付き合いは続けます。ずっと一人でやってきましたが、半自動化しました。ハルビンで注文を受け付け、担当が中継地点の倉庫へ搬入します。それより先は、あちらにまかせ、関知させないことにします。
私も時々戻って、各セクションを点検して、様子伺いに行きますけど。出来得る限り何も知らない、何の権限もない社員だけで、帳簿上は清廉潔白きわまりない、そんなシステムを構築しました。
放置プレイで経験値稼がせながら、社長は上海へ行ってきます。
名目は、営業活動。新規開拓。
やっぱりね。自分の目で見てこないと、わかんないんで。