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今日は、胸を張らせてください。
日本特殊工業株式会社、社長の宮本です。
朝から千葉の陸軍歩兵学校で戦車の実物に乗ってきて、午後は小石川の陸軍技術本部で会議をしてきました。
日本が輸入した戦車は三種類ありました。
まず、イギリスの悪魔、ビッカース四号雌型。
門外不出と言われていたものが、日本に、あったんです。
この戦車にはオス型、メス型とありまして、初期型が雄型と呼ばれますが、日本にあるのは武装を改良した後期型の方です。横から見ると菱形の鉄の塊で、上に兵隊さんが百人も乗れそうな、ものものしい風格を漂わせてました。
車内は暑かったし煙かったし、なかなか乗って攻める側も命がけな印象でした。
ちなみに六年前、これが日本へやってきた時は、操縦を指導するイギリス将校が五名、一緒に来日されたそうです。
もちろん極秘中の極秘でしたが、皇室の宮殿下らも招いての演習もやって、イギリス人は勲章もらって帰って行ったとか。
うらやましいことですなあ。
もうひとつイギリスから、マークAホイペットと呼ばれる中くらいな戦車も輸入されました。これは乗員3名で、機動性を重視した戦車です。重量はビッカースの半分で、速度は倍以上出ます。
そしてフランスの、ルノーFT17。
これはイギリスのものとまったく構造が違います。乗員は2名。操縦手1名と、砲手を兼ねた車長が乗っていっぱいいっぱいな小ささです。
ホイペットの更に半分の重量ながら、装甲はみっつの中で一番厚く、速度はさらに倍とまではいきませんが、時速20キロくらい出ます。
まさに騎馬隊にとってかわる存在です。
日本が戦車を運用するとなれば。主戦地はロシアか、支那ということになりますな。
広大な支那大陸を走り回るには、速度が重要です。あと、あんまり大きなのを大量生産というのも難しいですから、ルノーをお手本にする、ということでは誰一人異存はありません。
車体とエンジンは私ら専門外なので口は出せませんが、機銃と照準、それから懸架装置。私らサスペンションと呼んでますが、これは大いに工夫できるなと思いました。
エンジンの動力をまず車体後方の起動輪に伝えます。反対側、つまり車体前面には誘導輪。履帯を巻き付けますから間に転輪をいくつか。これで不整地走行も可能になりますし、うまく調整すれば揺れを押さえることもできます。
イギリス戦車はエンジン直結なんで乗り心地最悪だったんですが、ルノーは大変扱いやすい。でももっといけるやろ、という感触がありました。
みたいな話を、ああ、私たち三人で行ったんですけどね。私と、設計主任と、開発主任とで。そんな話をその場でしてたら、本部の方々が笑いはじめましてね。
なんて話が早いんだと。
もうあとは勢いで、次から次へと資料を出してくれました。
工廠は吹っ飛びましたが事務棟は助かってたんで、今日までの研究が失われなかったのはほんま、不幸中のさいわいでしたなあ。
来週にも次の会議で、いろいろ持っていくんですが、ひとまず今日は資料しこたまもらって帰りましてな、さっそくコダマ君にも見せました。食い入るように図面を見てましたなあ。なんか思いついたら何でもいつでもいくらでも言うてくれ、いうてます。
きっと、すごいものをつくりますよ我々は。