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康徳4年。あけまして……おめでたくもありませんね。
さすがにお正月は休みます。中国ではお正月といったらグレゴリオ暦でいうところの2月が本番ですけど、ちゃっかり両方祝います。
いいことです。休みましょう。
大晦日に学良くんは十年の禁固刑を宣告されたと、ラジオで言ってました。
軽い、と思いますけど、どうなんだろ。
実際、ヌルすぎる!殺すべし!って論調もこれからワンサカ出てくると思います。しかし今後、中共と交渉することを考えたら、切り札としてとっておくべしという意味も含めて、殺さない選択は賢明です。
お天道様の下を歩かせないのであれば、いいんじゃないですか。
蒋委員長解放に際し、やはり共産党から条件が付されていたようですが、この内容については項目数さえ4つから8つまで各種とりどりの説が飛び交ってます。
即時内戦停止、というのは共通してますが、あとは春節明けの国民会議で決議される由。
到一さん、どう思いますか?これからの展開予想。
「決裂六割、合作四割。決裂の場合は延安への最終総攻撃が開始されるだろう。合作が成立すれば、軍を編制しなおして、北支防衛へ全力を向ける形になるだろう。それでも、日本に刃向かうことは、できまいな」
合作の見込みは、やや薄ですか。
国民党が共産党と力を合わせたとしても、いまの日本には、抵抗すら難しいですか。
「蒋が頂点にいる限り、支那は日本とは戦わない」
ムム?どういうことかしらん。
「仮に、西安で蒋が殺されていたとする。国民政府がこれまで頑なに反共だったのは、蒋がいたからこそだ。誰が行政院長や軍事委員長を継ぐにしても、中共との宥和は進むだろう。
共産党はあっという間に国民政府を乗っ取る。
そして共産戦術で、日本と戦う。
実はこれが、最悪の可能性だった。しかし蒋は逃がされた。これは中共にとって大きな失敗だったと思うんだがね」
共産軍兵士との戦闘って、そういえば日本は一度も経験したことないですよね。
「蒋は何度も掃共戦を指揮してきたが、そのたびに武器も食糧も敵に奪われた。共産軍に対し火力重視の陣地戦は不向きだが、今の日本軍は同じ轍を踏むことになると思う。備えができてない」
あー。日本だって、ついこないだ、綏遠に運びこんだ燃料と食糧ぜんぶ奪われたばかりですしね。
共産軍相手じゃなくても、そもそも広大な中国大陸を戦い抜く兵站能力を計算できるのかしらってレベルですけど。
兵站。
食糧・生活用品の補給や、火器・車輌などの整備・修理・補充。広義には、負傷兵の後方搬送なども含む、前線から備蓄拠点までの支援態勢を言います。
それらを準備し、維持するまで含めての、重要な概念です。
これを考えないで、先へ先へと進軍していくと、兵站線を分断されただけで、詰むわけですな。
作戦参謀は常に地図を見て、死に駒が発生しないよう気を配らんとあかんものなんですが、実はこの考え方が、日本軍も中国軍も、実際、おそろしいほど下手クソです。
2・26でも、立てこもると自分たちで計画しといたクセに食糧持っていかなかったてのは、尉官クラスですら兵站を学んでいなかったということでしょう。
将棋にも無いですもんね、そんなパラメーター。
21世紀のストラテジーゲーム、どれでも一本やってごらんなさい。身につくから。兵站、マジ最重要項目だから。
安全地帯まで確実に戻れる範囲より先に進んじゃいけないから。
ちなみに。
日本陸軍には、徴発っていう日課がありましてね。
朝、当番兵が宿営地周辺の村を歩き回って、米でも野菜でも、家畜でも鍋でもなんでも、堂々と奪っていって部隊へ持ち帰るんです。
満洲でも演習と称して日常の光景です。一年前、華北でもやってるのを見てきました。
それが当り前だから、作戦立案時にも補給態勢なんて二の次、三の次へと追いやられるんです。
そもそも考えないんです。
現地デ何トカ為ベシなんです。
これもまた、日本軍が外地で嫌われまくる、大きな理由のひとつです。
日本だけじゃない気もしますけどね。実際、中国軍なんか、兵すら現地調達だったりするんで。
しかしね。
まともに戦争やるつもりなら、現地でなんとかしようなんて極力、考えるべきではない。
予想外のファクターは可能な限り排除しておくべき。むしろ突発的な問題が発生しても現場でリカバーできるだけの冗長性を持たせたい。
それが21世紀のリスクマネジメントってもんです。
これが常識となってくれるのはいったいいつからなのか。
人類はまだまだ失敗を繰り返さないとコレに気付けないというのだろうか。噫々々。
またまた脱線しました。
そういえば到一さん。さっきの話に戻りますけど。
蒋が頂点にいる限り、支那は日本と戦わない?について、もう少し詳しく。
「蒋は、支那人が日本を留学先に選んでいた、最後の世代だ。日本への憧れと、友人を持ち、日本の強さ恐ろしさを、よく知っている。叩きこまれている。だから、日本には、こわくて手を出せないんだ。
おかげで日本としては、助かっている面もある。いまの支那で育った新しい世代には、この神通力は効かなかろう。
ここのところは、参謀本部も、ちゃんと考えておいてくれないと困るところだがね。これからは」
昭和と平成の政治家はアメリカに絶対逆らえなかった。あれと同じようなもんかな。
中国の若者が、すでに蒋をこそ国辱の元凶と憤っている理由が、まさにそれなんですね。
かわいそうな、蒋。