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新京へ、帰ってきました。コダマです。
ひと冬ほったらかしにしてたんで、やること一杯あってゲンナリ。
到一さんの部屋もえらいことになってましたが、いいかげん自分で掃除することくらい覚えてください。
情婦囲ってもいいですから。私はあなたの奥さんじゃないので。
私だって働いてるし、考えなくちゃいけないことも、山ほどあるんですからね。
日本では、岡田首相が正式に退陣して、廣田弘毅内閣が誕生したって。
えっ廣田さんですか。
大丈夫かな。外相に専念してもらってた方がよくありませんか、まだ。
っていうか、首相・外相・逓相を兼任ですってよ。
うわあ、日本はますますオワタ。
今の私に、会社経営と休暇中の残務整理と情報収集と分析と到一さんの世話と自分の世話をいっぺんに全部やらせるみたいなもんでしょ。やってますけど。
なんで廣田さんに今、やらせるか。全部中途半端になるぞコリャ。
2・26がらみで驚いたのは、あの日の朝、満洲では、蹶起将校の親族および交友関係で何らかのつながりがある在留邦人が一斉捜索され、しばらく拘留されてたってことです。
その数、ざっと500人。
内地でも、クーデターが地方へも飛び火してないかどうかって連絡が飛びまくり、どれが正しい情報なのやらって、一日目は、かなりの混乱が起きてたようなんですけどね。
満洲での一斉検挙は、規模の大きさに加え、手際がよすぎて背筋に冷汗。
で、調べてみたら。これまた、不穏なつながりが、浮かび上がりました。
東條英機。
ついに、登場です。
ネタバレになりますが、私の知ってた世界では、彼はA級戦犯として死刑になります。
真珠湾奇襲は彼の手によって惹き起こされ、太平洋戦争が始まる。日本を泥沼の戦禍に叩きこみ、ヒトラーほどではないですけども、平和を破壊した最大級の元凶として、認知されている。そんな存在でした。
ただ、ですね。私にはまだ、腑に落ちないんですよ。
今、私が生きている、現在進行形の、未来がどうなるかわからない、この世界についての話をします。
東條英機は、目立って悪いことはしていません。少なくとも、まだ。
極論を言うなら、私が今、東條英機をこっそり暗殺すれば、日本の悲劇は回避できるのか?
答えは明白に、否です。
私は彼だけがいなくなった世界がこれからどう転がっていくのか予想がつかない。もっと悪い未来に進む可能性だってあります。転生者という最大のチート能力のメリットを失うことにもなります。
それは、もったいない。
東條英機が正真正銘の悪人で、彼をここで排除すべきだと確信がつくまでは、私は彼を、監視するのみにとどめます。
しかし。ついに、その徴候がひとつ、現れた。
東條英機は、現在、関東憲兵隊司令官です。
今回の一斉検挙は、関東憲兵隊によって行われています。確認しました。関東軍特務、満洲国警察、新京市刑事警察などは動いてません。あくまで関東憲兵隊のみに命令が発せられてます。
となると、東條の指示によるもの、と考えるのが妥当です。
ブレーンが背後にいるとしても、命令権を持つのは司令官ですからね。
日本で、小坂さんという実直かつ純朴な憲兵さんを知った驚き。麹町で見てきた場末感満ちあふれる憲兵隊本部だって、私の常識には存在しませんでした。
満洲国での憲兵は、普通に、恐怖の対象です。
非・愛国主義者を徹底的に取り締まる思想警察。憲兵ってそういうものだとしか思いこんでこなかった。
だから、内地で、ほんと驚いたんですよ。私の知っている未来と、つながらない。謎でした。
とはいえ、内地の憲兵も、徐々に、悪の組織へと変わるのでしょう。
小坂さんも、数年後には、感情を失った改造人間にされてしまうのかしら?
次回もこれについて考えます。