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麹町憲兵分隊へやって来ました。
小坂さんて曹長さんに、お目にかかりたいのですが。
四度目の、対面です。
そろそろ満洲へ戻りますので、ご挨拶に。
これ、つまらないものですが。湯河原のお土産です。
憲兵本部内にも新聞記者詰所があります。小坂さんは首相救出で大手柄を立てたので、話を聞きたいとトイレにまで記者が貼りついてくるんだそうです。
これのせいで小坂さん相当ストレスためていて。
可能なら外でお食事でも、と許可もらって連れ出しました。
記者を撒いて、某所某料理店へ。
経費落ちないと気にしてらしたので。大丈夫です私のオゴリでいいですよ、もし、情報提供者への謝礼という名目で申請して経費で落ちたら、懐に入れちゃって家族サービスでもしてください。って言いました。
こういう恩の売り方しておくと、相手の口はいくらでも軽くなります。
元を取るどころか、私から謝礼をお出ししたいくらい、面白い話が聞けました。
憲兵さんて、怖いイメージ持ってたんですが、びっくりするくらい、陸軍の中ではヒエラルキーの最下層なんですってね。
憲兵隊へ転出といえば、何やらかしたんだっていう位、まともな奴がいないとか。
出世コースからも冥王星なみの遠さ。
首相救出したのに、金一封どころか、官報に名前が載ればいい方かもなんて。
マジすか。
こんな話も。
満洲事変の最中、内地では、関東軍とつるんでる裏切り者への摘発が進められたんですね。
名前は教えてくれませんでしたが、それ以前から素行不良で有名だった某少佐を逮捕する段階になり、小坂さんが部下を連れて、逗留先の旅館へ向かったそうです。
芸者あげてベロンベロンに酔っ払ってる少佐の前で、深々と頭を下げ、閣下どうかお車に乗って下さいませと。
さんざイヤミを浴びせられながら説得し、憲兵司令部へお連れして、そこでも憲兵がお酌して接待。
取り調べもせず、書類上は拘留ということにして、伊豆長岡の温泉へ連れていき、一週間ほど遊ばせる。
見張りの憲兵は、最低限の食事しか与えられずに、その豪遊っぷりを連日見せつけられ続け。
東京へ戻ってくると少佐、記者たちの前で堂々と、処分への不満を述べたて、後ろの、ヨレヨレの憲兵を罵倒してみせたそうです。
ナメられすぎですね。
永田さんが殺された直後、現場へ急行したのも小坂さん達。
相澤を見つけ、連行したそうです。
アジビラや新聞記事で読む限りは、相澤って弁の立つ、クールな熱血漢という印象ですが、小坂さんに言わせると、正真正銘ただの狂人。
血まみれでフラフラ歩いてた。
医者へ行きましょうと近寄っても、かまうな俺はこれから台湾へ出征なのだと強情を張る。
それ以前に陸軍省の連中、こいつを自由に逃がすつもりだったのか。
なんとか車に乗せ、憲兵司令部まで来ると、また暴れだす。
憲兵風情には一言も喋ることはないと怒鳴り散らす。
それでも小坂さんが職務上取り調べを進めると、俺は殺してなどいない、伊勢神宮の神示によって天誅が下ったのだと言い始めてきかない。
サイコパスですね。それは疑いようもないサイコパスだ。
こんな奴のワンマンショーを、10回も開催してたわけか陸軍。
国民の血税で。
それでいて、小坂さんには金一封すら、よこさないってか。
小坂さんは、まだまだ、言い足りないみたいでしたが、私も、もっともっとお聞きしたいところでしたが、また日本へ来たときは寄りますよと一旦今日はお開きとしました。
根深いなあ。日本の精神疾患。根深すぎる。
国全体が、サイコパス。もはや、すでに。
つける薬は、ありやなしや。