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冬が来る前に。
上海へ来ています。
満洲国内では満洲のことしかわからないし、日本の内情は日本へ行かなくちゃわからない。
中華の現状を知るのも同様なんですが、さすがに広すぎる。
日本が侵食しまくっている華北五省、共産党員が結集しているという陝西省など。現地調査したい場所を挙げだすと、キリがない。
ドイツや、モスクワにも特派員が欲しいところです。
世界戦略をリードできる国家には、そんなエキスパートが広く厚く必要なのだと。
人材資本という考え方が、身に沁みるようになってきているコダマです。
ぶっちゃけ、情報戦に抜きん出ている大国は英・ソ。
米国は、現時点ではあんまり対外路線を重視していない。ユニークな人材の層は厚いですけどね。諜報・防諜とも英国には遠く及んでないし、危機感も薄いのかな。
おっと話がそれました。
上海から往復一週間かければ、首都南京まで行けるのですが、行ければ行きたいけど、見合わせます。
さいわい、上海は中華全土、ひいては世界中の情報を手に入れる上で、つくづく圧倒的に便利な都市だと思います。
一週間ほど滞在予定。
できる限りの知識欲を満たして、その後、日本へ向かいます。
中華民国はいよいよ本格的に、金本位制へ移行する。その準備の大詰めです。
法幣という、新しい通貨へ切り替わります。
どれだけ混乱少なくスライディングできるか。
宇宙ロケット飛ばすくらいの一大事業なんでね。ハラハラしながら見守ってます。
失敗しやがれと騒いでる外野が五月蠅いんですが、あいつらは敵ですから。もちろん日本と共産党のことですよ。
上海ライフ。
朝食は、オフィス街のカフェで。
ほどほどに混んでる店で、新聞を片端から広げながら、ビジネスマンたちのお喋りに、聴き耳を立てます。
本屋で、一時間ほど雑誌を物色し、10冊程度を目安に買ってきたら、お昼時、またカフェへ。
私は、辞書と各種年鑑以外は手元に残さない主義なので、その場で二度三度読んで、頭の中に必要なところだけ刻み込みます。
メモもとりますが、整理して頭に入れるための作業してるだけなので、基本、すぐ破り捨てます。
ビジネスマンたちがいなくなったら、雑誌を古本屋へ売りに行きます。
最新号ばかりだから喜んで買ってくれます。
ついでに店主と、お喋りします。
あれやこれや、いろんな情報をダイレクトに聞き込みます。
図書館も利用しますし、考えながらひたすら散歩。丘へ登ったり、運河に釣り糸を垂らしてみたり。疲れたらホテルで仮眠。
夜になると、バーへ繰り出します。目的はやはり聴き耳。
役人や記者、商売人の会話に耳を傾け、入りこめそうだったらちょっかいを出します。
商売人という仮面は大変に都合がいい。
困ってらっしゃる方にはいつでもお手伝いさせてもらいまっせウヒウヒ、て態度だと、どこまで食い下がっても怪しまれないので。もとから怪しいので。
日本軍特務の華北工作は、情報ダダ漏れです。
裸の王様が自らの賢さを1ナノミリも疑わないんだもの。マサカウソデショな日本人ジョーク集、何冊でも書けますよ。もちろん日本語以外でね。翻訳は、させません。
日本人は今も、蒋介石こそ支那最大の黒幕で、かつて蒋介石と争った地方軍閥ならば、我々の味方に就くだろうという胸算用をして、懐柔にいそしんでるんですけど。
閻錫山とか宋哲元、孫伝芳といった、かつての反蒋闘士たちを。
いつからアップデートしてないんだよその相関図。
で、連中こんな交渉してきましたよって全部南京へ報告されてるんです。笑うしかない。
そうはいっても、そろそろ華北、とられちゃいます。
満洲国でやったまんま、傀儡政権つくって日本が援助する。
我々は国民政府の圧政から立ち上がるかれらに味方してるんだ、というシナリオです。
商売人目線でなら、私が純粋な中国人だったとしても、今のうちは日本にコビ売って、お付き合いするでしょうね。
まだ一年か二年はこの勢いも続きそうだし。
そろそろ崩れるなと思った瞬間、回収してトンズラします。
投機って、そういうモンです。
次のカモはどこだろうってね。
上海にいると、こんな発想ができるようになります。
将来は、もっとじっくり腰を据えた、まっとうな会社を起ち上げて、全人類に貢献したいものですけどねえ。
今は、無理だね。無理ですよ。