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私の故郷は、日特です。
牛込の本社は以前のままですけど、最近は子会社やら系列グループも増やしてて。
宮本パパもすっかり太って、なんだかヒトカドの社長ぽくなってますよ。昔はイマイチ、頼りなかったですけどね。
日本はこれから東亜の経済発展を担うのだ。
日本特殊工業も、まだまだ大きくせねばならぬのだ。って、はりきってらっしゃいます。
フウ。なんか、おちつかない。
それでも、企業同士として。
原料を私が満洲で買い付けて。日特から製品を卸して販売して。
その他アレヤコレヤと商売上の提携をですね。打ち合わせて調整して、というコトを今、やってます。
未来を知っていなければ。
寝る間も惜しんでいくらでも手広く業態をひろげて。株や投機もやりまくって。有能な従業員を一人でも多く育てて増やして。商売の旨味を極めるのもいいよね。
日本はもっともっと積極的に支那へ介入していくべきだし、それだけの実力が、私たちには備わっている。
2600年の歴史において今こそ日本は世界に対し、最高のマウントをとれる時代を迎えているのだぞ。
そんな夢と使命感に酔いしれるなと言う方が無理かもね。とも思います。
未来を知ってさえいなければね。
宮本社長の夢を壊すのも忍びないし、私の知ってる未来にならないならば、それもまた、アリかもしれない。
でも。野心家さんたちの前では、私。
慎重すぎる、能力はあるのに欲が無さ過ぎる、もったいない、ああもったいない。
いくら言われても、照れ笑いをするだけです。
見逃してもらってます。
サノと二人きりになると、正直な自分も顔を出します。
出会って、まる11年になるのか。もう。
私はともかく、君が結婚しないのは解せない。
縁談山ほど来てるだろうに。なぜしないの?
「コダマさんのせいですよ。私も、オタのはしくれです。妻にも、オタであってほしい。そんな女性に、まだ、出会えないでいるだけです。妥協してもいいんですが、そんな結婚も望むものではないですし。いつも、悩んでしまうので、結局、お断りしてしまってます」
悪いことしちゃったかもな。
昭和20年に日本中が焼け野原になるってイメージを植え付けすぎちゃった責任も感じるなあ。
なお私もよく結婚の話を振られますけど、満洲で既にお付き合いしている日本人の娘さんがいますと適当に答えてすませてます。たしかに、ほっといてくれなんですよね、そういうの。
何はともあれ、これからの十年は、正念場。
太平洋戦争を起こさせないこと。その希望をまだ、持ち続けています。
私は石原莞爾という軍人に、21世紀の思考回路を、知らず知らずのうちに植え付けました。
その成果のひとつが、満洲事変です。あれは世界史上、画期的な国家づくりの一大実験だったはずです。
詰めが甘くて、乗っ取られちゃって、現在、ひどい偽国家になっちゃってますけど、それを取り返すプランまで含めて、日本を病魔から救うべし。
目下、日本は激しくイビツな皇道派の導きによってカルト宗教国家の道を突き進んでます。
このままでは、私の知っている通りの未来へつながっていくことは避けられないと思っています。
その道筋が、そろそろハッキリ見えてきたところです。
ここからの、軌道修正を、いかに、どう行うか。
石原にしたのと同じ手を使います。
5月に、新京で、永田さんにアドバイスしましたが、あんなライフハックを地道に繰り返していけば、手荒な手段に訴えなくても、軌道を、変えられるんじゃね?
これならば、私にだって、私ひとりでも、できるかも。
連鎖できれば、一番いい。石原閣下と永田さんが手を組み、到一さんや、浅原さんや、サノや、宮本社長も。いずれは、ケンカウズラさえ、説得できれば、きっと、大きな力になれる。
そんなことを、最近、考えるようになったんです。
話をわかってくれる人は、まだまだ、いっぱいいると思うんです。
そんな人たちと、これからもっと、もっともっと、つながりたい。
新興宗教団体を起ち上げて布教するようなマネは私にはできませんし、しませんけど、ステルス転生者だからこそできるやり方で、これからの十年間を駆け抜けたいと思います。
きっかけのひとつが、8月1日付、石原大佐への辞令でした。
仙台師団連隊長より、参謀本部作戦課長へ。中央ポストです。
石原の、満洲と仙台での実験を、いよいよ日本全土で展開する時がやってきました。
チーム石原、再起動。
私たちの、真のたたかいの、幕開けです。