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康徳2年。昭和10年。あけおめ、ことよろ。
ケンカウズラ山口さんとばったり会って、ご飯食べてきました。
お互い、いま何してんの?というくらい、久し振りでした。
山口重次氏。
満洲事変で、五族協和の政治部門担当してた、バトルタンクおじさんです。どんな道でもそこのけそこのけ。
協和党が協和会へと形骸化したとき、次長のポストを外されましたが、熱河侵攻の頃にまた次長へ戻ることができ、最近まで内蒙古で物産館イベントの仕掛け人みたいな仕事やってたそうです。
そこでもケンカして干され、12月に中国本土を旅行してきたよって話が、今日のハイライト。
私もしばらく満洲より外へ出てないですね。今どうなってますかね、アチラさん。
「南昌の方まで行ってきたけど、共産思想の浸潤がすさまじい。蒋介石の新生活運動だって、ありゃ共産党のマネゴトじゃないか。すっかりアカに染まった地方で人民の心を国民政府に帰順させるには、ああいう政策が必要だったんだろうなって、俺は見たね」
ほお手厳しい。
石原閣下も共産主義のマネゴトやってますけどね。
仙台師団の活動を見ても山口さん、ケンカ売ってくるんだろうか。
「花谷中佐は済南で特務機関長やってた。カワモト大尉は上海の憲兵隊隊長だ。支那人はいくらでもその場限りのウソをつく。自分たちのモメゴトを有利に解決するため日本人を利用しようとコビを売りまくって近づいてくる。安易にのせられちゃいかん。とにかく疑ってかかれ、と言って回ってきた」
うああ。同意する面もありますけど、けしかけちゃダメでしょう。
それでなくても花谷さんてキレるとすぐ日本刀ふりまわす、関東軍最凶の殺人兵器だったじゃないですか。ひとりで済南事件起こせる人ですよ。泣きたくなってくる。
「戻ってきたら、土肥原さんに呼び出されたよ。いま奉天の特務機関長をやってるんだな。3年ぶりにお会いした。事変の頃よりずいぶんヒドイ街になってしまってる、なんでだ?って色々相談された」
土肥原さん。事変の次の日から一ヶ月、奉天市長をやった人です。その後天津へ行ったとこまでしか知らない。
奉天にいたのか。え、今、少将?到一さんを抜かしやがったか。ずいぶん出世したもんだなあ。
なんだかんだと協和会にとどまっている山口さん。
協和会は政治活動を禁じられた政府の御用機関で、その満州国政府を操っている関東軍の、使いっ走りという枠を越えることはありません。
実際いまも、協和会総裁は皇帝溥儀であり、会の役員には関東軍のお偉方の名がズラッと並んでいます。
山口さんもそんな中ですっかり、関東軍の人とばかりつきあっているのかなという印象を受けました。
五族協和のための団体じゃなかったんですか。
市井の人たちの叫びを聞いてあげてないんですか。
今日、日本人の名前しか出てきてないですよ。しかも、特務だの憲兵だのって関東軍の暗部で出世してる人たちとの話ばかり。
そんな違和感に、途中から気づきました。
「協和会は、満洲国を支持する唯一の政治団体だもの。満洲に住んでる者なら誰でも入れる。それに入らない者ってのは非国民だよ。非国民に参政権を与える国がどこにあるというんだね」
気持ち悪くなりました。
民主主義の思想からかけ離れすぎてます。
それこそ、共産主義とどう違うっていうんですか。
仲間外れは許さない。外れた奴は切り捨てる。国家がめざす方向へ、全員が一丸となることしか望まない。
山口さんて、そんな国の片棒かつぐ人になっちゃいましたか?
話題をそらしたくて、山本春彦さんとお会いしましたか?どうでしたか?って聞いてみました。
仙台にいる石原閣下が、満洲国と協和党を取り戻すために味方へ引きこんだ、もと政治家です。
私と会ったあと、新京で山口さんとも会ってくると言ってた。
その印象を、聞きましょう。
「山本?ああ、浅原か。うさんくさい野郎だ。本名、浅原健三。アカだよ。しかも極左だ。石原さんもヤキが回ったな。あんなのにコロッと騙されるなんて。すっかり内地で平和ボケされているらしい」
え?
その視点はなかったですけど。
それにしてもあんまりじゃないですか?
ちゃんと話し合いました?アカだからダメっていう前提はおかしいですよ。中国人だから信用しないって理屈と同一ですよ。アカからの転向者だからこそ、我々には見えないものが見えるんです。その武器を使って、一緒に戦おうって言ってくれてるんですよ。そこまで踏み込んだ分析をしてくださいよ。
その上での批判ならアリですけど、第一印象のみで相手をカテゴライズして、頭ごなしに毛嫌いしてる風にしか聞こえません。
私が考えこんでいたら、山口さんも話し飽きたのか、尻切れトンボな感じで、お開きとなりました。
私の悪いクセだなあって、わかってはいるんだけど、くやしい。
浅原さんていうのか。でも、名前なんてどうだっていいじゃないですか。特務だって偽名がデフォですよ。ヤバい戦いしようってんだから、そこはマイナス要素じゃない。
山口さんと浅原さんのソリが合わないってだけなら、それはそれでもいいんです。
みんな違って、適材適所。私にできないことでも、あなたならできるんだ、そんな連携プレーの駒を多種多様に持っておくのが勝利の秘訣。
ゲームなら基本中の基本ですよ。
飛車角だけでは、ファイターとバーサーカーだけでは、勝てないのは分かりきってる。
だからこそ、日本は無条件降伏するまで追い詰められたし、一党独裁の協和会だってそれ以上のことができないんです。
それを伝えきれなかったので、私の敗北です。しゅん。