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康徳元年。昭和9年。5月末日。
久々の更新ですね。コダマです。
相も変わらぬ糞社会。喋りたいことも特になく。日々腐った気分でその日その日を送っていたところですが、そんなところへ。
仙台の石原大佐から、長文のお手紙が届きました。
面白くて、いろいろ考えるところもあって、久々に、思索をくゆらしてます。
他愛もない、いち市井人のつぶやきですが、よろしければお付き合いください。
荒木大将が、二日間、仙台第二師団第四連隊へ、抜き打ち監査をしに来たそうです。
荒木貞夫。
満洲事変最中、犬養内閣誕生の際に陸軍大臣となり、関東軍を後押ししてくれました。
犬養首相が暗殺されて、斎藤内閣へ引き継がれたときも、留任。
それから、丁度、二年経ちましたか。
荒木は今年の1月、肺炎をこじらせて大臣を辞め、林銑十郎大将へ交代しました。
肺炎は治ったようで、今は、特命係だそうです。全国の師団や連隊を、査察して回る職務みたいですね。
これも一種のトクムでしょうか。
諜報というより防諜ですね。やっぱ特務か。
石原は満洲事変という前科があるので、また何かしでかすつもりじゃないか。仙台で変なことやってるぞ。と特にマークされてるようです。
連隊内にアカなど反軍思想の動静はないかという調査書を白紙で提出したことを咎められ、よく見ろこの子たちの瞳を!って言い返したとか。
そんな問答を繰り広げたって書いてあります。
2日間にわたる、荒木とのバトルを面白おかしく漫談調にレポートして、
「特命検閲、新味ナシ」
と締めくくってる一種爽快なお手紙ではあります。
読んで笑ってハイおしまい、ならそれでもよろしい。
ですが。
荒木が、全国各地の陸軍内反動分子をチェックぅぅ?
私は、この一点だけでもゾワッとしてしまうんです。
荒木だって、思想的にはかなり偏ってますよ。
カミカゼ論者というか。皇軍は精神力において世界でも稀な唯一絶対的存在なのである。我々に竹槍一本ずつ呉れてもらえれば、たちどころに世界を睥睨させてみせようって。
初めて記事で読んだとき、吐きかけました。
来るべきものが、ついに来たかと。
昭和20年、末期戦の最終段階で、日本中が竹槍でB29と戦おうとする、ルーツはこいつか!って。
今はまだ、冗談ですんでるけど。ウケるからあちこちで言ってんですよ竹槍で勝つと。
それ以来、私は荒木の名前を見るたびに要警戒してるんです。
そんなピエロが特命係で思想犯あぶり出し、ですか。よりにもよって。
加速する。
陸軍の脳筋一直線化が加速する。
石原とは、性格的に合いますまい。
満洲事変の最中ですら、閣下は荒木を信用してなかった。
今ならまだ、仙台師団が荒木軍団を食い止めるという形での事件で済みそうです。
私の前世の記憶には、荒木貞夫なんて軍人、いないので、新たな分岐ルートとして現れたキャラなのか。
それとも東條英機がこいつの思想を受け継ぐのか。
いずれにしても、日本破滅のカギを握るとしたら荒木です。
殺すなら、今のうち?
いやいや、もうちょっと様子を見てからですよ。短絡的すぎるのはよくない。それでは大川周明や橋本欣五郎たちと同じ思考レベルですからね。
2・26はまだ起きてませんが、せめて何年に起きたのか、わかってりゃなあ。
こればかりは本当に情けない。アニメにさえなってたら。なってくれてたら。たぶん首謀者はイケメンでキャスティングされてただろうから、何かしら記憶はしてたと思うんですよ。そもそも何を目的として蹶起したのかさえ、よく知らない。もどかしい。
止めるべきなのか?
止めずに、どこかだけを変えるべきなのか?そんな判断も一切できない。
わからない。
起こらなきゃ、それでもいいんですけど、どうなるのかなあ。
毎年、2月26日は、落ち着かないんです。
ゴルゴ東郷にはそんな素振り見せられないから、一日中、雲隠れしてます。
東郷といえば、3月に内地へ戻りましたけどね。なのでアジトは今、ますますハッチャけて、やりたい放題になってますよ。その話はいずれ。
昔と逆で、満洲において関東軍から情報とれなくなった私は、閣下が送ってくれる軍の官報を読んで、内地の事情を推察します。
誰がボスなのかわかりませんけど、客寄せパンダの荒木を中心に、小畑・眞崎・山岡・秦といった連中が最大派閥のAグループ。
永田、それから現陸相の林。かれらがなんとか対抗しうるBグループ。
あとは、徒党を組むのが大嫌いな石原とか、チーム宇垣とか、小物がワラワラいる感じです。
東條英機の名前も一覧にありますけど。いま、中将か。特に目立つことはやってません。
内地の情報を探るには、内地に住むしかなさそうですが、それもまた、嫌なので。
サノはメカにしか興味ないし、閣下も、はぐらかした手紙しか書いてよこさないからなあ。
ヤキモキしながら、今日も、いろんなモノを、買い付けてます。