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元日早々、到一さんが血を吐きました。
飲みたいだけ飲ませてた私も悪いんですけどね。
病院へ連れていって。
軍へ連絡入れて。
関東軍、満洲国軍の順に伝えます。
指揮系統からいったら当たり前なんですけど、現場があとまわしだなんてねえ。
昔の、派遣会社がたらい回しされてた時代もそんなだったですかね。遠い昔すぎて、もう、あんまり覚えてないや。
しばらく検査入院になるので、身の回りのものとか、着替えとか、いろいろ、準備する許可をいただいてます。
大っぴらに、到一さんの部屋の中、掻き回せるチャンスです。
といっても、面白いもの、そんなに無いんですねえ。
満軍兵にはまだ複雑な戦術指導は難しいですし、野砲山砲、小銃だって古いお下がりしかない。
関東軍や支那駐屯軍には今、機関銃も戦車もどんどん最新式が送りこまれてるって噂なんですけどね。そういった資料は満軍軍事顧問の手元には届かない。見たって悔しくなるだけでしょうからね。
それでも何か無いかなって探してるんですけど、ハードウェア的なネタは、やっぱ無いな。
うーん、残念。
でも無収穫って訳でもありませんよ。藍衣社についての機密資料を見つけました。
蒋介石が私的につくった諜報工作部隊で、かれらのターゲットは共産党と、日本軍です。
満洲へも相当数のスパイが既に潜入してます。特務からの報告書、ざっくりと頭に入れておきましょう。一割くらいは真実でしょうから。
東宮が昨秋、奥地で大怪我して死に損なったんですが、匪賊さんたちその勝利に自信をつけて、春になったら一大攻勢仕掛けてくるかも、なんて報告も。ふーん。
次はトドメをさすべきだね。
お正月だというのに、暗いお話ばかりですわね。
内地の、石原閣下は、楽しくやってるみたいですよ。
閣下も昨秋、入院して、何年も前から患ってた膀胱炎の手術をしたんですが、病院の先生たちが、まるで天皇陛下を診療施術するかのような遇し方だったそうです。
摘出した腫瘍も、神々しく飾られているとか。
医者ってみんなマッドなのかな。
一緒にするなって、どっちからも怒られそうだ。
いいなあ仙台。
日本の戦国武将で、伊達政宗という人がいるんですが、女の子が戦国にハマるきっかけは、だいたい政宗か、もしくは信長、幸村あたりですよね。政宗って、お隣の出羽出身ですけど、中央の戦争で活躍して、仙台の領地をもらうんですね。その後半生をかけて東北に一大文化都市を築き上げるっていう、立志伝中の人物なんですが。
石原がこれとまったく同じ道を歩んでるってのが、ちょっと癪に障ります。
ビンタはじめ体罰を厳禁。
一日直立不動させるとかの教導も一切廃して、訓練第一。
演習は実戦主義。
読書も奨励して壁新聞をつくらせ、営内に畑や飼育小屋まで整えだすという。
日本陸軍創設以来の型破りな改革を次から次へと実行中。
わかる人が見れば実はコレ、共産党の教育システムなんですけど、石原はしれっと自分の発明だと言い張ってます。
ナルヒコ王も、兵たちの目の輝きが活き活きとしていることに大変ご満足で、石原のやりたいようにやらせてくれてるって。ああ実にうらやましい。
飼育小屋ではアンゴラ兎を育て始めてて。毛皮を防寒具にしたり、非常時には食糧にしたりというところまで教えているそうです。
「満洲なら羊を飼うんだがな」
って言ってます。
満軍でも、やったらいいのにね。到一さん、上に諮ってみません?