File_1933-06-001D_hmos.
残雪深く、まだ寒き春の夜明けとともに。
日本軍機動部隊、破竹の勢いで熱河侵入。
十日ほどで長城線まで到達。
逃ゲル市民ヤ国府軍ヲ容赦ナク殺シニ殺シテ主要都市ヲアラカタ制圧ス。
張学良はすでに逃げており行方知れず。
責任者不在をいいことに、ゴネまくり犯しまくり奪いまくりの乱痴気騒ぎを2ヶ月間繰り広げた末、中華民国北平軍事分会総参議・熊斌氏との間で停戦協定を締結。
種まきの前に、死体を片付けねばなりませんが、どこへ捨てればいいのやら。
ふと気づけば、もう6月です。
悪夢は続くよどこまでも。
日本も、正式に連盟から脱退しちゃいましたしね。
もはや我々に逆らえる者は世界にいないのだって、鼻高々です。
満洲へはどんどん人が集まってます。
新京の都はおそるべき速度で開発が進んでます。
バブル利権が次から次へとカネを生み出します。その金は日本人の懐にしか入りませんけどね。
苦力はどこまでもいつまでも、死ぬまで苦力のままです。
日本本土から昨秋、第一次武装移民団てのが500人、選抜されて、満洲へ渡ってきました。
吉林の先のイヤサカ村って入植地が準備されてたんですが、匪賊の襲撃があまりにも激しいという理由で吉林市内の仮設住宅で半年間、静かに待機させられてました。
そろそろ第二次移民団500人が入植してくるから早く片付けろと、現地守備隊のトーミヤカネオ長官がせっつかれてるらしいです。
匪賊。便利な言葉です。
そう名付ければ、どんな形をしていても殺してよい。
むしろ殺せ。焼き尽くして奪え。
でないと自分が殺されるからな。一瞬の躊躇もならぬ。
両手を上げて降伏してくるヒゾクモドキもいるが、信じるな。
手をさしのべる時、お前は背後から討たれる。
先手必勝。
悩むべからず。
いくらでも続けられますけどどうします?私は疲れました。やめましょう。
そもそも地図上、入植地として区画整理されてるイヤサカ村もチブリ村も、肥沃な原野じゃないんですよ。
その近辺には私の会社の由来にもしてる牡丹江という町がありますし、もっと先にはソ連の都市があるんです。
前人未踏の、野生動物だけがのんびり暮らしてる未開拓地なんかじゃないぞ、って意味です。
農耕に適してたらとっくに人が住みついてます。
住みついてました。
それを日本人がどんどん奪って、本国から人を住まわせようとしてるんです。
襲撃されるから武装して住めと。
そこまでわかってて、送りこむ。
行ったことないけど21世紀でも、パレスチナとかアフガンとかイスラム国ってこんなだったんですか。こういうことだったんですか。
じゃあ私たちが特別悪魔じゃないですね。世界のどこでもやってることさ。フツーだよフツーって。
認めていいんですね?
関東軍の広報誌に、東宮が載ってんです。
辺境の地で満洲のため平和のために戦う軍神として。全面的にヨイショです。あたりまえですけど。
読みます。
人情味あふれるエピソードが紹介されています。
匪賊を一網打尽にします。捕虜として食わせる余裕もないし、弾ももったいないから、素手で殺し合いをさせて、最後の一人だけは放免してやると持ちかけます。
嘘なのわかってるけど逃げられないから戦います。
兵たちはそれを囲んで囃し立て、どいつが残るかと賭けに興じます。さっさと殺されて楽になろうとする者へは日本兵からの蹴りが入ります。
盛り上げて盛り上げて宴は続き、最後の一人が生き残ります。
フツーはここで、お前だけは苦しまずに殺してやるさと銃を向けてやるんですが、東宮はポケットマネーをつかませて、真人間になれよと諭して、ほんとに逃がしてやるんだそうです。
部下たちも、記事書いたバカも、東宮さんは温情家だと、涙を流して褒め讃えます。
狂ってるでしょ。
ああ、フツーか。フツーですね。
アナタ、こんな話にいつまでついてくるつもりですか。私と同じくらい気持ち悪いド変態ですね。
人間ならとっくに愛想つかしてるでしょ。感情が麻痺してますよ。
今すぐ病院へ行ってください。お医者さんも迷惑でしょうけど。
どす黒い怒りで頭がいっぱいだとしても、まだアナタが逃げないなら、私は、お聞きしたい。
どうすればいいと思いますか?
私でも、あなたでも、誰でもいい。どこをどうすれば、こんなキチガイ国家の残虐行為を糺し罰して改めさせられるでしょうか。
アイデアがあるなら教えてください。
正直、わからないんですよ。
ジャーナリズムへ訴える?ハン。一行も聞いてませんでしたね。あいつらがどれだけ頼りにならないか、ならないどころか我々の最大の敵はあいつらなんだって、何度も言ってきたでしょ。
ふりだしに戻ってください。最初から読み返せ!今すぐ!
私ももうちょっと考えます。
つかれた。
おやすみ。