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ジュネーヴ派遣団。帰りは満洲を通過します。
石原閣下と、七ヶ月ぶりの対面です。
旅の疲れか、やつれてました。
満洲里駅でお出迎えして、特別に車中同行を許されました。
派遣団は総員30名規模で、マスコミに取り囲まれて応じる人もいますが、石原は徹底して人払いします。
本国への報告より先には一語も話せん!の一点張りです。
松岡は列車がホームから離れるまで、誰にでも語り続けます。
人さまざまですね。
石原大佐からの、リアルな体験談を、全神経を集中させて聴きました。
時々ナポレオンの話へ脱線するんですが、そっちはいいです。
いいですってば!ジュネーヴ!ジュネーヴ!
2月24日の総会本会議。
44国の代表による投票。
といっても無記名ではなく、国名のABC順に口頭で可か否かを答えていくって。
それってアルファベット後半の国ほど決定に対するウェイト高くなりませんか。公平さに欠けると思うなあ。
でもそこで、ジャパンとシャム以外の42国が日本を不当と批難したってのは、どうやったって覆せるものではなかったですけどもね。
シャム。私のいた世界ではタイ王国だったような?はずですが、そのシャム国は、棄権しました。
日本をかばってくれたわけではなく、14日から24日までの間に本国から連絡が届かず、判断がつかなくて票を投じなかったそうです。
なので事実上は、パーフェクトゲームといってよい結果でした。
松岡さんは昨年の大演説とは打って変わって、準備された乙案の原稿を読み上げ、日本語で
「さようなら」
と言いおいて退場しました。
日本の新聞で、席を蹴り飛ばして出て行ったってのも読みましたが、それは事実無根だそうです。ホッ。
ただ、14日から出国までの間に、現地で話した西洋人の間でも意見は様々で、本国からはNOと指示されたけど個人的には石原を応援するとか、たとえリップサービスだとしても、みんながみんな日本を白眼視してるわけではないとのことでした。
一瞬でツッコめるところですが、石原閣下個人のユーモアセンスだけは気に入ってるからね、ってことでしょうソレ。
日本として、国としては、ダメって受け取らないと。
松岡はどうなんですか。今も向こうの席で叫んでますけど。
あいつは世界のどこ行っても迷惑がられると思うなあ。
帰りのベルリンで、留学時代のドイツ人の友達から「よくぞ英国支配にクサビを打ってくれた、これからは日本もドイツ語を公用語にせよ」と熱く激励されたとか。
ヒトラーが首相になりましたからね。ドイツでは今、右翼が威勢いいんでしょう。
それも加味して考えておきたいところです。
日本は国際連盟を脱退する。
そう松岡が宣言し、派遣団帰国後、日本政府が吟味し、加盟国としての決定を正式に出します。
これについても、連盟から日本が抜けることは国際連盟そのものの有効性を著しく損ねることになるから妥協点を探って阻止したいという動きが、あるみたいなんですね。
たしかに、連盟にはソ連もアメリカも加盟してません。そのため、国際連盟が影響力を持つ地域はヨーロッパと南アジアに限定され、圏外の問題へは立ち入れない。
さらに日本が脱退すれば、今後中華民国からの要請にも応えようがなくなります。
国際連盟は問題解決能力を大幅に縮小することにもなるわけです。
日本は今、得意の絶頂にありますから、連盟を抜けることで更にやりたい放題になります。
非常に、よろしくない雲行きです。
私からは閣下に、この半年間の満洲国の実情を説明しました。
悲しんでおられました。
私の悲しみ以上に。閣下が切り拓いた、掛け替えのない作品ですから。
くやしさも、やるせなさも、憤りも、ひとしおでしょう。
「今後とも、よろしく頼む。命だけは、気をつけろ。それだけは、くれぐれもな」
わかってます。くれぐれも。
それ以上は、言わないで。