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サノです。今年の夏休みは、満洲へ来ました。
いま満洲旅行は大変人気で、切符も宿もなかなか取れないのですが、コダマさんが都合をつけてくれまして。
案内をしてもらいながら大連、奉天巡り。湯崗子温泉でも一泊します。
コダマさん、会社つくるんですよ。
私も名ばかり役員として参加するので、その打ち合わせをしてました。
有限公司、東京レアメタル。
コダマさん調べですが、満洲の東方に牡丹江という町があって、8世紀頃には渤海と呼ばれてた国の首都だったそうです。日本の奈良朝廷と交易した記録があるとか。当時の名を東京といい、城跡が遺っているそうです。
そこにあやかった、ダブルミーニング。
現在、満洲全土で地下資源や未開拓地の調査が計画されてますけど、ゆくゆくこの地域まで開発が進めば、未来の技術で脚光を浴びることになる稀少金属が見つかるだろう。
今のうちに、その権利を押さえてしまおう。これがコダマさんの狙いです。
ずるいような気もしますけど、でも、面白いと思います。
辺境までいかずとも、すでにコダマさんが注目している資源もあります。
撫順炭鉱の、油質頁岩。
石炭層の上を覆う岩盤で、加工すると重油の代用になります。
満洲は石油資源が乏しいと言われてますが、石炭はそこそこ、そして頁岩は豊富にあるというんですね。
満鉄が8年ほど前、頁岩の採油工場を作りましたが、精製量は少ないようで、日本海軍へ納品している程度だとか。
しかし21世紀になるとこれが、大化けするかもしれない。
英語では、オイルシェール。
アメリカは20世紀末に頁岩から大量に石油を取り出す技術を開発し、それまで中近東から輸入していたのが一気に輸出国へと転じて、世界の石油市場が大転換を迎えるという変化が起きるのだそうです。
「そこまでは生きてないかもだけどね」
そう言いながら、この研究に投資しておきたくてたまらないみたいです。
私もなんだか、ワクワクしてくるお話でした。
他には、石井軍医正のことを、細かく聞かれましたね。
石井さんと石原大佐がお知り合いというのも初耳でしたが、なるほど石原さんからうちの社長を紹介されたのかな、と思えば腑に落ちます。
今月満洲でコダマさんと会っていたというのも驚きました。石井さんて、やり手の実業家顔負けですね。
コダマさんは、石井さんを転生者かどうか見破れなくてヤキモキされているみたいです。
どうでしょう。私も何度か会議で技術的な話しかしたことなくて、頭の回転が早い人だなあとは思ってましたが、未来の知識を持っているかどうかなんて、考えたこともなかったです。
私はコダマさんと違って、あくまでこの時代に初めて生まれてきた、ただの人間なので、気づけないかな。
コダマさんが危険を感じるというなら、転生者なのかもしれません。今後は、注意して、観察してみます。
まちがっても、こちらから明かすなんてことは、ありませんよ。今までも、誰にも言ってないですし。コダマさんの秘密は。
満洲の感想ですか?
コダマさんは、満洲の治安の悪さ、息苦しさを相当気に病んでいるようですが、私には、内地に比べたら、広々として、のどかで、活気もあって、最高にいい国だと思います。
悩みすぎですよ、コダマさん。
むしろ内地の方が、今ははるかに息苦しいです。滅入ります。
私も、満洲に住めるものなら、住みたいなあ。