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われらは、リットン調査団。
2月29日、横浜へ到着。
東京市の帝国ホテルへ泊まる。
大地震から10年足らずでここまで復興しているとは驚く限りだ。
マッコイ氏も感慨無量と言っておった。
整った、新しい街並みの中で、この帝国ホテルは一種異様な風格を漂わせているが、米国のフランク・ロイド・ライト氏による設計と聞けば納得もできる。
地震およびその後の火災でもまったく無傷だったということだ。
政府の方々との会見を始める。
犬養総理大臣。
70歳超だが背筋も伸びており、意志の強さを感じさせる。日本語以外は話せない。支那でのこの度の動乱は、大陸では200~300年おきに来たる定期的な癇癪といえる、という考えをお持ちのようだ。
芳澤外務大臣。
国際連盟大使として、昨年は一人きりで孤独な戦いの矢面に立たされた。外務大臣となるべく本国へ呼び戻され、犬養総理を助けている。愛想良く、英語も堪能だが、きわめて慎重に、一語一語ゆっくりと話す。
会談のさなか、満洲国建国宣言が発表されたとの情報が入る。奉天市で張景恵氏が読み上げたという。
原文を拝読。ほほお、漢詩の教養ある者が作っているね、これは。
政府要人との会議で、ひときわ面白かったのは、陸軍大臣・荒木貞夫氏だ。
思考に柔軟性がある。よく笑う。日本人には珍しいユーモアセンスも持っている。準備された原稿を諳んじるだけではなく、我々の質問にも即妙に応答できる。
その中身はきわめてファンタジックだ。
「日本人は、自然環境に恵まれない、狭い国土に住んでいます。四季にさらされ、地震/台風/洪水などに、日常的に悩まされています。
これに対し支那は、肥沃な大地に恵まれており、日本人ほど苦しみに耐える必要がありません。その結果、精神がひ弱なまま育ってしまうのです。支那人はすべからく、直情的で、問題解決能力が低い。
日本人は、あらゆる困難に、迅速に、整然と対処し生き抜くことを考えるよう、習慣づいています。
この差がいま、歴然と出ているのですよ。
喩えるならば、支那人は砂で、日本人は粘土です。砂はまとまりません。風が吹けば散ります。粘土は団結し、粘り強く、簡単に飛ばされやしません。これが日本人の、強さの秘密です」
実に面白いね。
彼はまだ中将なのに陸軍内での信望が厚く、異例の出世をしたようだが、軍隊経験はどれほどだろう。
支那が日本より住みやすいだなんて、一年も暮らしてみればとても口にできないと思うんだがね。
昨年アメリカで出版された、パール・バック修士の小説を皆は読んでいるかね?
支那でなら、買えると思う。面白いから、旅の合間に読んでみるといい。
荒木氏にも読ませたいが、英文のままでは読めなかろうね。日本語訳が出るとしたら、何年後かねえ。
日本へ来た西洋人は皆、天ぷらの虜になるという。私も今回、初めてその光栄に浴した。
たしかに、これは美味しい。海老は欧州では高級食材だからね。
いただきます。
ごちそうさま。
おやすみなさい。
よい夢を。