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我が名は、ヴィクター・ブルワー=リットン。
探偵で、伯爵さ。二代目だ。
私も高齢なので、これが最後の仕事になるかもしれない。
と前回も前々回も言った気がするが、まあいい。
今度の依頼主は、国際連盟。
舞台は、極東。
満身創痍だが、古き衣を棄て新しく生まれ変わろうとしていた大陸が、面積比一割にも満たぬ対岸の島国に、突然、その体の一部をもぎとられようとしている。
私はこの事件の厳正なる検証と、国際社会がどう裁きを下すべきなのか、そのための方針を提議する任を負った。
私の補佐をしてくれる、役者たちの紹介をさせていただこう。
アンリ・クローデル氏。
62歳。メンバーの最年長だ。フランスの陸軍中将で、モロッコ/コートジボワール/スーダン/モーリタニアなどで植民地軍を歴任した。支那へも滞在歴があるそうだ。
ハインリヒ・シュネー氏。
61歳。ドイツ人民党の現職議員で、東アフリカに長く勤めていた。サモアまでは行ったことがあるそうだが、支那と日本は未踏だという。観察と分析を担当していただく。
フランク・ロス・マッコイ氏。
59歳。アメリカ陸軍少将で戦争のたび外地へ飛んでおる。9年前、日本で大地震が起きたときはフィリピンで民政官をやっており、日本への救援物資移送の指揮を執った。
アルドロヴァンディ伯爵。
56歳。イタリアの外交官でカイロ/ブエノスアイレス/ベルリンなどで大使をつとめた。彼と私には、軍歴がない。
ほか、書記や通訳などスタッフ若干名。
それと当事国からも、日本からイサブロー・ヨシダ氏、中華民国からグー・ウェイジュン氏が、それぞれ参加する。
いずれも、ステージ・ネームだ。
私としては、ペトルーキオとかドン・ペドロとか、士気の上がる名前を希望したのだが、それは前にもやったでしょと却下された。
まあいい。
我々はこれより、ジュネーヴを発つ。ル・アーブルからニューヨークを経由して一ヶ月の船旅だ。
まず日本を訪問し、支那では南京/漢口/北平などを回り、その後、満洲へ入る。
調査と報告書作成で半年はかかるだろう。
それまでドルリー・レーンの劇場に通えないのが残念でならない。
だが、仕事はきっちりとするつもりだよ。いつものようにね。
では、よい夢を。