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石原莞爾、リターンド。蒋介石、デモーテッド。
まず石原から。
旅順でも雑用こまごま、やってたみたいですが、内閣チェンジ後すぐ、駆けつけてきました。
顔色よくなり、少し太ってのご帰還。テイちゃん、ありがとうございます。
山のような報告書を読みあさり、冷静に、現況把握。
その最中に犬養内閣が、錦洲攻撃の正式許可を発布。
悪手なら突っぱねますが、こんな統帥権干犯なら歓迎です。
学良より先に東京が陥落しおったわい、とみんな大ハシャギ。
関東軍と支那駐屯軍に、内地より各一個旅団の急派も決定。
ありがたいです。今、人手がメチャ欲しいとこだったので。
国際連盟からは猛抗議きてると思いますが、首相、ボケたふりして躱してください。
いわんでもボケてるか。
満鉄さんの修理部隊が今、突貫作業で関外線を走れるようにしています。
饒陽河というところが激戦区になっていて、なんだか満鉄職員のサトウ元治さん達が陸軍顔負けの活躍をされたとか。
何をやらかしたんだろう。
落ち着いたら社内報に載るかな。
来年の社内報はとんでもないボリュームになると思うな。永久保存版扱いですね。
内地でもバカ売れすると思うので、本にしませんか。あ、その仕事やりたい。
続いて、蒋介石です。
最近、南京の事情はとんと見てなかったのですが、日本の犬養内閣が先代の軟弱エセ平和外交を斬り捨てたことで、国際連盟への陳情による神通力もこれ以上期待できないなー、と打ち萎れたんじゃないかと思います。
林森さんというおじいちゃんに中華民国主席の座を譲り、その下の常務委員の一人に降格します。
政府軍を統率する権限は保持してますね。いまさら彼以外には仕切れないか。
良い方向に解釈するなら。これで蒋の独裁が終わって、中華民国も共和政へと移行するなら。
満洲はもらっちゃうけど、というか独立するけど。
日満華が手を取り合ってアジアの共栄圏を形成する、という世界地図ができあがる可能性が見えてきます。
北満のソ連と、南京よりも南と西での中国共産党の勢力。
それらいわゆる共産主義の脅威は残りますけど、まずはこちら側陣営のチーム力を固める。その上であらためて、共産主義とどう向き合っていくかを考える。
私は、共産主義を、頭ごなしには否定しません。
学ぶべきところは沢山あるし、反対勢力であるところの資本主義が良いかっていえば、とんでもなくひどい面も腐るほど知ってます。
どちらか一方だけが悪いとか、正しいものが一つだけあればよい、って頑迷になることこそが最も危険なことだという信条を持っています。
貧しい国では、強者による弱者支配がアタリマエ。
人権も踏みにじられるし、女は男の慰みものです。
コネ、ズル賢さ、そして腕力武力強制力が立場を決めます。
力こそがすべて。悲しくてもそれが現実です。
共産主義は、それを改革する力を持っています。
のしあがってきた有力者には悲劇でも、それは怒れる民衆を立ち上がらせ、奴隷を精神的にも文化的にも覚醒させます。
圧倒的多数の民衆が生活力を持ちます。
これは必要な過程であり、最善ではないかもしれないけど、現状もっとも効率的で短期間で達成できる、民衆解放イデオロギーだと思います。
しかし共産主義は、時が経つほど、その構造ゆえに閉塞し、発展性を失います。
ガチガチに凝り固まった甲殻を、自らの力で破っていくことは極めて困難に思います。
人々は未来に希望を失いはじめます。
それは国家全体を貧困へ逆行させるでしょう。
私の知っている世界では、ペレストロイカが起きました。
壁は、壊されました。
西と東の交流が始まりました。
ドイツなど、再統一を実現した国家もありました。
水と油の混じり合いは、多くの悲劇も生みましたけど、新たな文化と価値と仕事を猛烈に生み出しました。
何より、東も西も正解じゃなかったんだよ、どっちもおかしかったんだよ、相手のことを絶対悪だと決めつけていがみ合ってたこと自体が、人類すべてにとっての損失だったんだよと。
気づくことができたこと。
それが何よりも大切な発見でした。
私はそんな世界から、縁あってここへ招かれたのです。
滿洲国がスバラシイ、みんながこれに従うべきだ、なんてこと、私は毛頭考えてません。
私たちは悪党であり、大強盗団なのです。
でも、レーニンだってピョートル大帝だって、見方によっては悪党でしょ?
今は誰にも言いませんけど。
私は、今できる最善を、今のうちに、できるところまでやり尽くすつもりです。
物語は、ここからやっと、スタートです。