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辞令が下った。
嬉しくもあり、淋しくもあり。
誇らしくもあり、怯懦もすれば武者震いだってする。
三年間の、ドイツ留学だ。
自分で根回しをしておいてなんだが、やはり、心の整理をつけるのは難しいものだな。
だが楽しもう。おおいに楽しもう。
世話になったな。宮本。そして、コダマ。
今までありがとうな。お前の中華民国史、痛快であった。
お前と出会う数ヶ月前まで儂は、一年間、支那の内地も内地、漢口に駐在しておったのだ。
戦闘の必要はなかったから、儂は存分に勉強に時間を割いた。
支那の歴史も、現在の対支政策についても。日本からできるだけの本を取り寄せた。それから各地を回ってみた。
だが、軍のやつらとは一向にわかりあえなかった。
儂は説明が下手だった。
短気なのは自覚しておる。語ることはできる。
しかし、わからぬ奴とは永遠にわかりあえぬ。
それを思い知らされ、打ちひしがれた一年間だったのだ。
お前の力を、いずれ、存分に、借りるときがくる。
儂も、その日のために、力をつけ、磨き上げよう。
宮本に聞いたが、お前は歴史よりも、本当は工学の方に夢中らしいな。
余った部品をもらってきては、調べたり、作ってみたり。寝る間も惜しんでいろいろやっておるそうだな。
もう、その邪魔はせん。
お前は将来かならず、とんでもないものを作り出す。大いにやれ。
三年後、帰ってきたら、その成果を見せてもらいたい。楽しみにしているぞ。
手紙くらいはくれ。儂も書く。
出立は年明けだ。まだ時々顔を出すからな。
宿題はもう出さんから、せいぜい笑って出迎えてくれ。