File_1922-02-003B_hmos.
冷静だな。
驚くほどに、冷静だ。
いつも驚いてばかりだがな。
アカについて語るとき、人は誰でも興奮状態になる。
それを礼讃する者も、憎悪する者も、どちらもだ。
だから、よろしくない。
こんな世情を混乱に導くだけの思想家連中は、問答無用にしょっぴいて社会から消すべきだ。
特に軍隊ではな。
そんな病気が蔓延したら統率などできようはずもない。
ところが、こいつはどうだ。
なんと冷静に、共産主義を分析しておる。
達観?と言っていいのか?なんだこの感覚は。
しかも、小僧、講談を語る才能まで見せはじめたぞ。
レーニン。まるでこいつは。ナポレオンか、チンギスハンか。
おそろしいと同時に、おもしろい。
我々が何年この問題に悩んできたと思っている。
それを、こともなげに、たった数枚の要約に、あっさりとまとめてしまいおって。
「簡単ではありませんでしたよ。何度も何度も読み返しました。だからひと月以上かかったのです。死ぬ思いでなんとか形にできたのです。もうご勘弁ください」
だめだ。お前にはもっと働いてもらう。恩を忘れるな。
ロシアは、だいたいわかった。次は、支那へ行こう。
日本の最大の想定敵国は、ロシアだ。
支那は、国力としては大したことはない。
しかし、だからこそ、どこからどう手をつけていいか、これほどわけのわからない国もなかろう。
小僧、お前の力が必要だ。
二ヶ月でも三ヶ月でもかけてよい。この混沌に光を射せ。射してくれ。