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2591年9月18日。金曜日。雨降り。
いつものように、大連満鉄図書館地下書庫で、黙々と、お仕事してました。
片倉が、やってきました。
館長に、私をしばらく預かりたいとか、そんな話をしてて。
着の身着のまま、拉致られました。
旅順の、関東軍司令部へ連れてこられました。
いつになく、ものものしい雰囲気を感じました。
閣下の部屋に、閉じこめられます。
楽にしろ、と言われたって、楽になりようもありません。
お茶すら、喉を通りません。昨年末の、田中上奏文のときより、怖いです。
何がバレた?何の容疑をかけられてる?
頭がぐるぐる回りますが。心当たりもありすぎますが。何も聞かれず。
夜になり。
閣下から、今のうちに寝ておけなんて言われて、余計怖い。
この状況で、自分がどんな寝言をつぶやいちゃうか。
破滅の足音しか聞こえない。
どきどき、どきどき、どきどき。
そうは言いつつ、ごはんをいただき、目もトロトロとしてきた夜の11時頃。
にわかに騒がしくなってきました。
閣下が、廊下に出て、なにか連絡受けてます。
一緒に来いと言われます。
参謀本部の皆さん大集合です。
私は部屋の隅っこで、椅子に座ってじっとしてます。
場違いにもほどがありますが、石原中佐の命令なので、誰もが見て見ぬフリしてくれてます。そんな私をガン無視のまま、大机の地図を囲んで、作戦会議が始まります。
全神経を集中して、聴き耳を立てる以外に、何ができましょうか。
奉天駅より1500m北の、満鉄線路上で、爆破事件、発生。
巡回警備中のカワモト中尉らが、犯人と思われる匪賊たちを発見、発砲。
その地点より800m先に、東北辺防軍の北大営という基地があり、そこの兵士たちとの銃撃戦に発展。
圧倒的劣勢により、大至急、応援を乞う。
奉天本部のシマモト中佐が連絡を受け、中隊を派遣。さらに撫順からも、中隊を向かわせているという。
イマココ。
24cm榴弾砲2門による攻撃が下命されます。
え?
すでに、北大営および、奉天城内飛行場へ、それぞれ照準を合わせてあるから、撃つだけだと。
弾も詰めてあるからと。
それって戦争になりませんか?やりすぎでは?
さらにさらに。
関東軍全兵力は約1万人いますけど、その全員への出動命令が、テキパキと下されます。
本気で戦争おっぱじめようとしてます?
うちら、加害者ですやん?
敵は20万いる。気を引き締めてかかれ!と意気揚々。
マサタネさんの名前が何度か聞こえたような気がしましたけど、気のせいかな。頭がついていけない。どこに隠れてても不思議じゃない妖怪おじさんですけど、今ここにはいない、ような。朝鮮にいるはずじゃなかったですかね。今年も留任だった、ような。
気がつくと、午前3時を回ってました。
皆さん、溌剌としてます。
アドレナリンが出まくっているのか。普段から、こんな夜襲に備えているのか。
いや夜襲かけてんのこっちですけど。
石原閣下に起こされました。
奉天へ行くぞと。車中で寝てろと。
え?何ですって?
うわあ。手を引かれて走ります。
寝言、ネゴトで変なこと言わないようにしな……ムニャァ