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閣下、関東軍のみなさん、それから片倉大尉。
お騒がせしました。
勝手に行方不明になって申し訳ありませんでした。
今後、気をつけます。くれぐれも。
病院で検査して、アメーバ赤痢ぽいねと診断され、三週間ほど、入院してます。
満鉄からもお見舞いいただきました。これでまた当分、外出許可は下りなさそう。
自縄自縛とはいえ、ヤレヤレです。
入院中、チチハルの領事館から、正式に中村大尉死亡との通報きたみたいですが、特務が絡んでるゆえ、公表はされてません。
私があの夜見たことは、報告してません。
公表といえば、近頃新聞を賑わせてるのは、万宝山事件に端を発する、日満鮮の三つ巴。
7月2日。蒋介石が第3次掃共戦をおっ始めたのと同じ頃。
長春の北にある、万宝山という村で、民族間紛争が勃発しました。
以前より朝鮮からの入植者が住んでいた土地なんですけど、日本の山東出兵後、当時の北京政府が斡旋したこともあって、山東からの移民がここへ大勢入植してくるようになり、勢力逆転。
揉め事が絶えない地域になってたんですね。
灌漑用の水路を引こうと、朝鮮の人たちが工事を始めました。
これが中国の人たちの土地を横切ったため、揉めに揉めて、ぶつかり合いに。
そこへ日本の領事館警察が止めに入る。といっても朝鮮人が日本国籍であることを理由に、日本はかれら側に味方するのは最初からわかりきってて。
中国人へ発砲して、死者を出しちゃう。
7月15日に日本は中華民国へ謝罪して、賠償請求に応じると。
関東軍だったら突っぱねてたなと思うところですが、一応そういう結着は迎えたものの、この事件がもとで、仁川はじめ朝鮮内での反中暴動が爆発。
在鮮中国人の家や商店は破壊されまくってるという状況です。
どこの新聞もこれについて煽れるだけ煽りまくる。
憂鬱になります。
病院だと、新聞も、決まったものしか読めません。
それでも片倉氏とか、お見舞いにきてくれる方々に頼んでいろいろ持ってきてもらうんですけど、自分で選んで読み漁るのにくらべて、フラストレーションが溜まる一方なんですよね。
なのでしばらく、時事問題はおいといて、ぶ厚い小説に専念してます。
ドストエフスキイとかトルストイとか読んでますよ。日本語訳で。
ああレマルクも読みました。
レマルク氏、これおそらく、戦車の実物を、自分の目では見てませんよね。たぶん。