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夜中、こっそり起きちゃいました。
つい、外へ、出ちゃいます。
片倉は、イビキをかいて、寝ています。
黒い支那服に身を包み、こっそり闇夜の散歩です。
道はわかってます。警戒しながら、東北辺防軍守備隊の基地へ向かいます。
この時代、鉄筋建築なんて、よっぽどの都会にしかありません。
大きな橋とかは田舎でもコンクリートで造り直されてたりしてますけど。物流拠点や、軍事作戦上の要衝だったりすればね。
そういうのも観察してると、面白いんですよ。
見知らぬ土地でも、ああここ軍事施設だろうなって、ピンとくる。
地図と交互に見るだけで、戦略級シミュレーションが楽しめます。
んなこたさておき。
夏だもんな。夜中でも、羽虫や蝿にたかられます。
旅順や大連は、虫、少ない方ですけど、この辺はまだまだ、昆虫類の楽園ですね。
今世でも、初めて見るような、デカいミミズとか。
名前ついてるのかすら定かでないグロテスクな甲虫類とかに群がられながら、コソコソ進みます。
そうそう。この時代、軍事施設といっても、日本内地ですら、木造が多いんですって話でした。
守衛さんが鍵をジャラジャラと腰につけて施錠して回る。監視カメラも赤外線探知機もありゃしません。
忍者映画のような、足ひっかけると呼び子が鳴るみたいなのはありえるので、要警戒ですけど。
だからこそ、近づけるところまで近づいてみるかって気にもなれようもんなんです。
やっぱ一人のほうが行動しやすいなあ。
見えてきました。
歩哨います。退屈そうです。
しばらく観察。
見つからないよう、ぐるっと一回り。
照明ついてる部屋には、夜警の交代要員が控えているのでしょう。まっくらな部屋のどこかに、中村大尉たちは監禁されていると思われます。
フム。だいたいの目星はついてきました。
窓の小さな、あの辺がクサい。
中で、なにか人が動いてるっぽい気配を感じます。……ん?
オヤオヤ?
こっそり離れて、林の中から様子をうかがいます。
やっぱり。
脱走を試みてる風。
もうちょっと見てましょう。
ええい。虫がうるさい。じっとしてると、這ってきます。
小窓を無理矢理外して、1人出てきて、もうひとり。
ここで。
音を立てちゃって、歩哨に気付かれました。
笛が鳴ります。応援を呼んでます。
1人が戦い、もう1人が、後から這い出てくる仲間を手伝ってます。
夜警増えてくる。
あああ、殴られてます。丸腰だもんなあ。
1人は、抵抗しなくなりました。あとの2人も、よってたかって、殴られ続けてます。
あああああ。
やられちゃった、かな?
3人とも、倒れたまま、動かなくなりました。
奥にまだ出てこれなかった人がいるみたい。
彼は、助けてもらえるかな。微妙ですね。
夜警たちは、5人くらいですか。揉めてます。
殺しちゃったぜ、どうしよう、て責任を押しつけあってるようにも見えます。
いやお仕事でしょ。
素直に報告したらいいんじゃないかな。
それよか早く手当してあげれば?
息吹き返すかもしれないし。手は尽くしましたって言い訳も、できるかもよ?
んー、泣いてる子もいますかね。
様子を見届けたいところですが、そろそろ限界。帰ります。
遠回り、遠回り。
宿まで……何キロあるっけ。ああ、足が重い。
異様に汗が噴き出てきます。
なんか、気分悪い。
……あれ?漏らしちゃった。
なんだ?ちょ、ちょっと休憩。
う、うげっ。