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洮南まで、遠足します。
中東鉄路へ乗り換えるので、北満といえば北満ですね。
危険地帯です。
行ってみたい、見てきたい。
ええ確かに言いました。
かなり強硬に、行くべきでしょうと。
はい私は主張しました。認めます。
考えたら今まで、閣下のお使いで朝鮮総督府まで行ったりしたこともありましたけど、関東軍としての軍事偵察にメンバーとして加えられて、みたいな一段レベルの高いミッションは初めてです。
いいんですか?
北満偵察は、特務がこっそり、何度もやってたみたいなんです。
農業技術者だったり、土地ブローカーだったりのニセ身分証で、辺境を見て回り、警備状況や土地の高低差、河の深さ、拠点にできそうな建物の目星をつけておいたりとか。いろんな偵察を。
要員の一人、中村震太郎大尉が、6月9日、中東鉄路エレクテ駅を最後に、消息を絶ちました。助手と通訳含む計4名、全員。
その捜索を、関東軍の若手大尉、片倉タダシさんが命じられます。
石原閣下に言わせるとこの片倉大尉、いまいち頼りない。
細かいことばかり気にする性格で、嗅ぎ回ってるうちにバレたら二重遭難になりかねない。
かといって他の人を手配する余裕もない。
そこで、お前一緒に行ってやれ、と私にお声がかかりました。
二つ返事でOKしたわけでもないのですが。
面白そうだし。
図書館を一週間ほど、親の介護でみたいな理由をつけて休みをもらって。
行ってきます。
身分は隠して。
片倉は同じ会社の上司、私はその助手で通訳もできる小僧、という設定です。
片倉も中国語すこし話せますが、これもイマイチ頼りないと。私のほうが上手です。
捜索ルートと手順。東北辺防軍に誰何された際の想定問答や口裏合わせ。その他もろもろの打ち合わせを終えて、明日の朝、出かけます。
ホンモノのトクムの、マニュアルに基づいた隠密ミッションて、意外と地味でしたね。
スパイ映画のような面白みはありません。
遠足のしおりと大して違いません。
従って私たちは武器を携帯するでもなく、ギラギラした目で周囲を観察しながら歩くわけでもなく、できるだけ無害な民間人を装ったまま、駅や宿泊所で聞き込みをして回るという、そんな人捜しをしてきます。
ね、遠足でしょ?
そうはいっても敵地ですし、なによりも中村大尉たちの安否が気がかりです。
トーイチさんが以前、済南で遭難した時みたく、病院から本部へ連絡いれたハズが届けられてなかった、というオチならグッドエンドですけどもねえ。
さて、明日の出発までに、私なりにもうちょっと下調べをしておきましょうか。