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閣下が最近、ごきげんです。
理由はいろいろあるんですが。
たとえば今月、河本の後任として、関東軍参謀に板垣征四郎大佐が着任しました。
閣下とは漢口で一緒だった以来の再会で、とてもウマが合うんだそうです。
二人で毎日、満洲占領大作戦を論じ合ってるみたいですよ。
それはそれは、楽しいでしょう。
兵の数だけでいえば、関東軍と、旧奉天軍=東北辺防軍は20倍くらいの戦力比あるんです。その劣勢を覆すべく、どう指揮して攻略していくか。
ゲームとしてはこれ、なかなか面白いです。
なお、奉天市は先月、瀋陽市と改称されましたので、奉天軍という呼称は名実ともに、なくなりました。奉天省も、今は遼寧省です。
いかに精鋭集団といえど、駒が足らなくては広大な土地の制圧は難しい。
不用意に前線を押し上げれば、背後や脇からすぐに包囲されます。
大戦略でもゾンビものでも、そういうシチュエーションよくありました。一手一手が貴重なので、中枢は迅速かつ適確な指示を出し、部隊は遅滞なくこれに従う。
練度の高いチームプレイが要求されます。
純軍事的に大変おもしろい思考遊戯ですが、このゲーム、さらに先があります。
閣下が最近お付き合いしてる、地元の青年組合。正式名称は、満洲青年連盟。
ここの人たちが実に面白いことをやってるんです。
独立国家「満洲」シミュレーション。
日本人が日本国内で暮らしてる限り、政治なんて興味なくても生きていけるものですけど、外地へ移民してる人たちにとっては政治・国籍・言葉・文化・宗教・結婚・育児・教育に自警組織まで、ひとつたりと考えないではすまされない要素です。
ましてここ、中国では、国政も地方政治も激変の時代が続いていました。
孫中山の三民主義、張作霖の圧政、蒋介石の独裁なども自分たちの生活を支配する重要な問題として見つめていた日本人移民者たちが、では、満洲に理想国家を建設するならば一体どのようなものであるべきか、ということを考えはじめたんですね。
閣下からもらった資料によると、もともとは昨年春、大連新聞社が始めた企画だったそうです。
満洲全土を20区画に分け、90名の青年議員を紙上にて公選。5月、大連にて模擬議会を開催。
総理大臣・立川雲平氏はじめ、14閣僚と警視総監ほか役職を決めて、青年議会設立趣意書を起草します。
提出された議題としては、
銀行の設立。商業学校および畜産学校の設立。裁判制度の統一と司法権の独立。健康保険制度の策定。日満商工協会の設立。中小工業の振興および失業の救済。土地所有権の確立。等々。
これらは現在、満洲には存在しない。という切実なる訴えでもあります。
構成員はオール日本人ですし、もっと言えば男性ばかりですけど、金持ちのおじいちゃんとかをお飾りするではなく、立候補による青年議会として企画したことは評価しましょう。
11月に第二回議会が催されました。私このときの大連新聞リアルタイムで読んでるはずなんだけど意識してなかったな。青年たちが無我夢中で白熱してるので新聞企画から発展的解消することにして、満洲青年連盟という仮想国家となって独立します。
立国宣言の冒頭はこんなです。
「満蒙は日華共存の地域にして、その文化を隆め、富源を拓き、以て彼我相益し、両民族無窮の繁栄と東洋永遠の和平を確保すること吾が国家の一大使命なり」
議員さんも熱量の高い方ばかりで、議事録読むと、野次まくりの取っ組み合いの、さながらプロレスですけど。
関東軍は手ぬるいぞ!と陳情活動へ来られたのを、閣下がつかまえて、話を聞いてみて、意気投合したみたいなんですね。
「わかった軍事はこっちに任せろ、政治はお前らにまかせる」
みたいなノリを感じます。
中国4億人の命運を握る南京政府の蒋くんに、こんなアットホームなやりとりを求めるのも場違いかなとは思うのですが。
でも、このくらいの距離感の国家運営って、ある意味、理想型のような気もするんですよねえ。