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「シベリア出兵、ですか?」
聞いたことはあるか?
時事問題だから、お前に分析してもらうには、新聞を四年間分持ってきて、読んでもらうことになるが……
こら、そう露骨に厭そうな顔をするな。
お前が新聞嫌いなのは、もう十分わかっておる。
分厚い専門書でも辛抱強く読むお前が、新聞や雑誌には興味を示さん。むしろ拒絶反応を示す。興味深いがな。
「モヤモヤするのです。新聞は、読めば読むほど、わからないことが増えるのです。気になるのです。本でしたら、一応の区切りがあります。狩りにたとえれば、囲いのある中で追い込んでいく。そんな捕まえ方をできるのですが、新聞は、つかみどころがありません……」
なかなか面白いがな。まあいい。この歳でそこまで言えることが驚異だ。無理強いはすまい。今はな。
そうだのう。
欧州大戦へ送り込んだ観戦武官や駐在武官が、いまも続々と帰還しておる。
その報告書さえ手に入れられれば、お前に解きほぐしてもらいたいものだが。
三宅坂の参謀本部でさえ、まだ研究しとる最中だからな。
本命は、ロシアだ。今は、ソ連か。
正直、わしもあの国で何が起きているのか、よくわからん。アカが天下をとってからは尚更だ。
参謀二部にはロシア班があるが、クセの強い連中ばかりが雁首揃えていると聞く。
なんとか、儂が準備できる資料をかき集めて、それだけでも読んで、要約してもらうか……
こら、そんな泣きそうな顔をするな。