夏彦とは別れマンションの階段を上がると、俺の住む部屋が見える。
スクールバックに入っていた鍵を探しだして玄関の鍵穴に差し込むと同時に、隣の玄関が開いた。
栗色のポニーテールを揺らした女性が、俺に気づいて笑いかけてきた。
「友ちゃん寄り道してたの?」
「あぁ、夏彦と話してたら遅くなっちゃって。まこはこれからバイト?」
「うん!やっと慣れてきたんだ~」
隣の部屋に住んでいるこの子は同い年の水田 まこと。
小中高全て同じで仲も良い、所謂幼馴染み。
最近飲食店のバイトを始め、1か月ぐらいはとても疲れている様子だったので俺も心配していたが、今はすっかり慣れて元気そうだ。
「あんまり無理すんなよ」
「ありがとう友ちゃん。それにしても今日はご機嫌だね」
「いや~実は明日、久々にらびりんずのライブがあるんだよ。ステージで踊るらびりんずを見れるんだ……!」
「そっか……友ちゃん好きだもんねぇ」
「彼女達は俺の光だからな、まこも一緒に行くか?」
「私は大丈夫かなー……楽しんできてね!あっ、私もう行かないと!」
「おぉ、頑張れよ!」
まことは俺のらびりんず語りに付き合ってくれている一人で、流石にうんざりなのかここ最近はどこかぎこちない振る舞いが増えている。
「そろそろマジで気を付けないとな……」
かっくりと肩を落として家に入った。
「ただいまーって、まだ誰もいないか」
俺一人の声が聞こえるだけの静かなリビングを抜けて、自分の部屋を開けた。
至るところに貼られたらびりんずのポスターを見るだけで、今日の疲れは一気に吹っ飛ぶ。
それだけ、俺にとって彼女達は大切な存在になっているのだ。
マイナーなグループだが、ファンの為に様々なグッズを展開してくれるらびりんずの想いに胸が熱くなる。
「俺にできることはこれぐらいだからな」
貯金箱に入っていたお札や小銭を机に広げてみる。
合計5万とちょっと。
両親の機嫌が良い時たまに貰えるお小遣いと、バイトでコツコツ貯めてきたお金を彼女達に使うことができる。
そう考えるだけで俺の表情筋は緩んでいた。