来客が彼を我に帰らせる。心待ちにしながらけしてわかり会えない客を、彼は迎え入れる。もう見上げなければ顔もよく見えない相手に向かって少しの恨み言を言った。「…こんなに待たせて…それにその服は…!」そこにはもはや、サイズが合わない制服に身を包んだ少年はいなかった。立派な体躯を迷彩服に包んだ男がいるだけだった。「すまない…最近忙しくて…急いできたんだ」本来会うことも叶わない二人の時間はこのわずかな逢瀬だけなのだから。束の間、しがらみを服と共に脱ぎ捨てる。
柔らかな肌を訓練で硬くなった手が触れた。「っ…泣いてたのか?」涙の跡を見咎め尋ねられた。「あのときの夢を見てたんだ。」それ以上の会話はなされない。お互い永遠に平行線だ。同時に存在することでさえ短い文の解釈に拠っているのだから。交わらない二人の体は心を置いて、交わる事を求めていた。逞しい腕が細い体を抱き寄せる。応えて広い胸に頭を埋めた。「どうしてだろ…」彼はひとりごちた。人が争う事を何より悲しく思う彼にとって、武器は大嫌いなものなのにそれをたくさん扱ってきた手からはいつも確かなぬくもりが伝わりそのことが彼を一層悩ませるのだ。自衛隊の力強い腕が強く抱き寄せる。「…んっ」そうして胸に抱かれる時はいつでも、とても心地よく苦しい。全身が包まれることで体を傷や痣ごと感じるのだ。彼にとって自衛隊も守るべき国民なのに人を殺める武器を持たされ危険に見を晒しているのだ。
重ならない存在が一瞬交わりまた離れていく。夢よりも儚いそれは同じく儚い花のように夜に咲いては散っていく。