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No.43687の一覧
[0] 極めて普通な異世界転生[星咲 ](2020/12/02 15:35)
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[43687] 極めて普通な異世界転生
Name: 星咲 ◆a47bcf92 ID:f8cf8733
Date: 2020/12/02 15:35
 俺はアレン。

 俺は暴走トラックに轢かれて、異世界に転生した。

 俺が転生した場所は、大陸最北端の北方山脈に位置する小さな村であるサイハテ村。

 名前通り、世界の果てに位置するような場所であり、短い夏を除いて、サイハテ村は常に深い雪に包まれている。

 俺は前世でも雪国育ちだったので雪には馴染みがあるが、まさか異世界転生先でも雪かきする羽目になるとは思っていなかった。

 俺は、先祖代々続く狩人の家系で生まれ育った。

 サイハテ村は、1年の大半を雪に包まれているため、農業によって育てられる作物は、雪の中でも育つユキシノ草などに限られ、食料調達の多くは狩りと交易に依存していた。

 異世界転生特典で、俺は才能溢れる天才として異世界に転生したので、俺は幼い頃から狩人としての才能を発揮し、いつしか「サイハテ村一の狩人」として称賛されるようになった。

 ただ、サイハテ村は貧しい村であり、狩人である俺が狩ってきた獲物は村人全体に薄く広く分配されるので、どんなにモンスターを狩ってきても俺が得られるのは村人からの敬意だけであり、手元に残る物質的な報酬はほとんどなかった。

 噂によると、冒険者としてモンスターを狩れば、モンスターを狩った報酬の大半は自分のモノとなり、冒険者として活躍して冒険者ランクを上げていけば、金も権力も名誉も女も思う存分手に入るそうだ。

 だから、俺は割に合わない狩人を辞めて、冒険者になりたいと思っていたが、残念ながらサイハテ村のような僻地には冒険者ギルドは設置されていないので、サイハテ村に留まっている限り、どう頑張っても冒険者になることはできない。

 冒険者として活動するためには冒険者登録が必要であり、冒険者として必要最低限の活動を行うだけなら、全国各地に点在する冒険者ギルド支部で仮登録を行えばOKだが、冒険者として本格的に活動するためには、冒険者ギルド本部のある迷宮都市オリエリルに行き、冒険者ギルド本部で本登録を行わなければならない。

 しかし、今の俺の場合は、迷宮都市オリエリルどころか、最も近い冒険者ギルド支部である、北方要塞都市グラーレに到達する目処すら立っていなかった。

 サイハテ村の領主は、トレリア王国王家の北分家であるノルトシュタイン公爵家であり、ノルトシュタイン公爵家は商業都市ビカルドからの収益で大きく潤っていることから、サイハテ村のようなどう頑張っても搾り取れないような小さな村に対しては寛容であり、サイハテ村の税金は免除され、年に一度モンスターを狩って入手したレアアイテムをノルトシュタイン公爵家に記念品として上納するだけの低負担で済んでいる。

 ノルトシュタイン公爵家は、月に1回行商人のキャラバンを送る費用を負担してくれており、そのおかげでサイハテ村は交易で食料を入手し、外界とのかすかな繋がりを維持することができていたが、残念ながらこのキャラバンに村人が同行することは認められていないので、このキャラバンに便乗してサイハテ村を脱出することはできない。

 だからと言って、自力でサイハテ村から脱出しようとすると、氷マナの極度に濃い極寒の大地と、絶えず吹き荒れ続ける猛吹雪と、大量出現する凶悪モンスターが行方を阻んでくる。

 現在、俺は狩人として、サイハテ村を拠点にしてモンスターを狩っているが、ホームグラウンドが近くであり、潤沢な補給を受けながら狩りをしているにも関わらず、何度も死にかける羽目になった。

 もし、自力でサイハテ村を脱出して、道なき道を旅して人里を目指したところで、間違いなく途中で野垂れ死ぬだけだ。

 ノルトシュタイン公爵家のキャラバンが使用している最高級馬車であれば、強力な結界が張られているので吹雪の影響を受けず、馬車の中はいつでも快適な温度で保たれているし、ノルトシュタイン公爵家の馬車並みの速度が出せれば大半のモンスターからは逃げ切れるが、残念ながら俺はただの平民であり、このような便利な移動手段にアクセスすることはできない。

 だから俺は、今日も内心では不満を抱えながらも、家業である狩人の仕事を続けていた。





 今日は、俺が村周辺を見回る日なので、俺は日の出と同時に目を覚ました。

 通常、モンスターは昼ではなく夜に行動を活発化させることが多いのだが、サイハテ村周辺はあまりに寒すぎるので、モンスターの多くも夜中は活動を停止し、日の出と同時に活動を開始することが多い。

 人だけでなく、モンスターにとってもサイハテ村周辺の気候は過酷なのだ。

「お兄ちゃん、おはよ。朝ご飯はもうできてるから、早めに食べてね」
 俺の妹であるリリアンが、俺に声をかけてきた。

 リリアンは、俺の妹であるが、人間ではなくスノーエレメンタルとして生まれた。
 サイハテ村の場合は、先祖がスノーエレメンタルと結婚して子どもを残した伝承もあることから分かる通り、村人の大半がスノーエレメンタルの血を受け継いでおり、時折リリアンのように先祖返りして、人間の両親からスノーエレメンタルが生まれることがある。

 リリアンは透き通るように輝く銀色の髪に、サファイアを嵌め込んだような美しい藍色の瞳を持つ美少女だ。
 身長は低いが、胸だけはとても大きく育っており、ふんわりとしたワンピース越しでも胸の膨らみが見て取れる。

 現在は、サイハテ村は真冬を迎えており、外は極寒の大地と化しているので、村人たちはほとんど家の外に出ることなく、暖かな家の中で過ごし、外出しなければならない場合は過剰に見えるほどモコモコに着込んでから行動するのだが、リリアンのようなスノーエレメンタルの場合は、寒さは全く苦にならないので、白ワンピース1枚のような軽装で行動することが多い。

 スノーエレメンタルは、扱い上は中立種のSSSランクモンスターであり、野生のスノーエレメンタルは人間に対しては気まぐれな態度を示すが、リリアンのように、人間の両親の下で生まれたスノーエレメンタルは人間に対して積極的に協力してくれるので、スノーエレメンタルが生まれた場合は村人みんなから愛され、守護者として敬意を集めることになる。

 モンスターは、強さに応じてSSS~Fランクに分かれるが、スノーエレメンタルはモンスター界の頂点であるSSSランクモンスターであり、サイハテ村周辺は氷マナの極度に濃い、スノーエレメンタルにとっての理想的な環境であることから、サイハテ村防衛においては、スノーエレメンタルであるリリアンは戦力の要だ。

 リリアンは内気で引っ込み思案な性格であり、他人と出会った時は俺の陰に隠れてしまうことが多いが、幸い、俺とだけは比較的スムーズに会話できるので、いつも俺の側で行動しており、俺が狩りに行く際もリリアンとペアを組んでいる。

 サイハテ村周辺では、常に吹雪や雪崩などによる遭難のリスクが存在し、出現するモンスター群も凶悪なので、狩人たちは最低でも2人ペアを組んで行動する。

 1人だとどうしても死角ができてしまうが、訓練された狩人が2人揃えば全方位を警戒できる。

 ただ、万全の準備を整えた狩人が、2人ペアで行動していても容赦なく死者が出るのがサイハテ村周辺の環境の過酷さを物語っており、先月も、年老いて引退間近だったビルロ氏が狩りの途中にダイアモンドドラゴンに遭遇し、最後の奉公としてサイハテ村から精一杯引き離して囮となってから死んだ。

 ダイアモンドドラゴンは敵対種のSSSランクモンスターであり、モンスター種の頂点に位置するドラゴン種であることから、いくら同じSSSランクモンスターと言っても、まだまだ戦闘経験の少ない未熟なリリアンで相手するのは荷が重い。

 ドラゴンというのは闘争本能が強く、現在生き残っているドラゴンはいずれも戦闘技術に長けた賢い相手ばかりであり、ドラゴンと戦闘する場合は討伐難易度が高すぎるので、基本的には誰かを囮にして、少数の犠牲は許容して村を守ることを重視することになる。

 俺は朝ご飯を食べ、装備品を整えてから、意を決して扉を開け、外への第一歩を踏み出した。

 俺は耐寒型ヘビーブーツで、高く降り積もった新雪の上を一歩一歩、踏み固めるように歩く。

「見て、お兄ちゃん! ほら、綺麗だよ……」
 リリアンは、空一面を覆い尽くすオーロラを見て歓声を上げていた。

 俺も、幼い頃はオーロラを見て感動していたが、毎年、冬になるとサイハテ村上空はオーロラに覆われるので、毎年繰り返すにつれて物珍しさが薄れていき、いつしかただの背景となってしまい、感動を感じられなくなってしまった。

「ああ、綺麗だね」
 俺もリリアンを見習って、七色に輝く大空を眺めた。

 楽しそうにはしゃぐリリアンを見ていると、俺も、幼き日の感動をいくらか思い出せたような気がした。





 俺とリリアンは、サイハテ村の外に出て、サイハテ村周辺の見回りを開始した。
 もうすぐ冬至祭なので、冬至祭に備えて、多めに獲物を狩っておかなければならない。

 サイハテ村の暮らしは基本的に質素だが、例外的に、冬至祭のシーズンだけは普段の節制を忘れて浮かれ騒ぎ、厳しい冬の到来に対して立ち向かうための英気を養うので、冬至祭の前までに蓄えを作っておかなければならない。

 時折、どうしても食料事情が厳しいシーズンでは冬至祭の規模が縮小され、酒もご馳走もない寂しい冬至祭を迎える羽目になることもあるが、そうした寂しい冬至祭を迎えた後は、サイハテ村全体がまるで葬式後みたいな物哀しい雰囲気に包まれてしまうので、できればここでひと頑張りして、立派な冬至祭を開催したい。

 俺たちは、いつもの見回りルートである山道を登り、狩人小屋を目指した。

 狩人小屋は、サイハテ村周辺に狩人が設置した拠点であり、狩人小屋内には物資が備蓄されており、小屋の中で休憩して寒さをしのぎ、体力を回復させることもできる。

 冬至の近いこの時期では、どんなに防寒対策を整えていても歩くだけで体力を消耗するので、狩人たちは、息継ぎするかのように、狩人小屋から狩人小屋を渡り歩き、狩人小屋で休憩して身体を暖め、また極寒の外に出る体力や気力を回復させてから再び見回りを始める。

 しかし、俺が狩人小屋の元に辿り着いたとき、希望の地だったはずの狩人小屋は粉々に破壊され、残骸だけが虚しく転がっていた。

「……え? 嘘でしょ……」
 リリアンは、破壊された狩人小屋を見てショックを受けていた。

 狩人小屋の防護具合は、場所によって様々だが、この、最初に立ち寄る狩人小屋はサイハテ村に近いだけあって頑丈な結界が展開されており、少々攻撃された程度では破壊されないはずだ。

 昨日の夕方の段階では、この狩人小屋が無事だったことは確認済みなので、夜中の間に、この頑丈な結界を破壊できるモンスターが攻撃して狩人小屋を破壊し、そのモンスターは恐らくサイハテ村周辺に潜んでいる。

 悪い知らせだ。

 俺は狩人なので、このような凶悪モンスターが出現した場合は対策する義務があるし、悲しいことに、現存するサイハテ村の最強戦力は俺とリリアンのコンビなので、俺たちがこの凶悪モンスターに対処しなければならない。

「リリアン。魔力の流れを辿ってくれ」
「……ん。北の方に向かってるみたいだよ」

「おいおい。マジかよ……」
 サイハテ村周辺は氷のマナが濃い銀世界だが、さらに北へ行けば行くほど氷のマナは濃くなり、人間が生存不可能なほど氷マナが濃い場所も存在する。

 これが、南向きの魔力の流れであれば他所から流れてきたモンスターである可能性が高かったし、他所から流れてきたモンスターであれば、この猛吹雪に耐えられずに離脱していくので比較的害は少ないのだが、北向きの魔力ということは現地所属の氷マナが濃い厄介なモンスターであることを示しており、このまま放置しておけば再襲撃してくる可能性が高い。

「……お兄ちゃん。私が一人で様子を見てこようか?」
「妹だけに無理はさせられないよ。妹を守るのも兄の仕事だ。一緒に行こうぜ」

「でも、危ないよ?」
「危険は承知の上だ。このままだと、俺たちだけじゃなくサイハテ村全体が危ない。最低でも、あの狩人小屋を破壊したモンスターの正体だけは突き止めなければならないよ」
 こうして、俺たちは魔力の流れを追って、北への過酷な追跡を開始した。
 


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