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No.43686の一覧
[0] ブラッククロニクル・ホワイトアポカリプス[994](2021/01/31 01:43)
[1] 序 ヤキュヌバキににて[994](2020/11/24 13:16)
[2] 朝議、忍び寄る気配[994](2020/11/24 20:22)
[3] フィアセラ・トーディス・ルーゼン[994](2020/11/25 03:34)
[4] 知識の蛇[994](2020/11/26 15:50)
[5] 銃か剣か[994](2020/11/26 20:56)
[6] No7.Chariot[994](2020/11/27 20:03)
[7] God children[994](2020/11/29 03:49)
[16] Because we are Legion,colony. 我らはレギオン、群団であるが故に。[994](2020/12/02 14:41)
[17] 人生を賭ける価値は?[994](2020/12/02 14:58)
[18] BackGround Leaders 背景の主役達[994](2020/12/02 22:08)
[19] 集合家族[994](2021/02/01 02:33)
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[43686] No7.Chariot
Name: 994◆1e4bbd63 ID:25990ee9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/11/27 20:03
「これはこれはアディヴェム様、マキニヤ様もご機嫌麗しく」

大仰なセリフから慇懃な礼を想像できる。実際は首も腰も無いため、腕を頭の下にもっていく礼だ。

「社長、頼んだものできてる?」
「当然でございます。どうぞこちらへ」

金属とも陶器ともとれる頭に腕を生やした社長は宙に浮いて、滑るように宇宙色の部屋を移動する。

「まずはこれ、中距離対応型カタールでございます。剣、バックラー、銃を統合しております。銃口は刃と同軸に固定されているので、切っ先を向けた方向にしか撃てません。どうぞ腕を入れてみてください」

通常のカタールに盾を付けたためやや大型になった、文字の浮いた真っ黒なカタールにアディヴェムが腕を通す。他の指は滑らかな谷に収まるのに、丁度人差し指のところだけは谷が浅い。

「使ってみたい。的を持ってくれ」
「おやすい御用で」

30mほど離れて社長は、波打つ円を描く的の板を頭上に掲げる。

「いいですか、対象の少し左へ切っ先を向けるのです。あ、お見事」

的の中心から1円分右に着弾する。

「悪くなさそうだ。弾は交換できるか?」

黒い長机に戻し、別の武器に手を伸ばす。

「できます。尻に突っ込めばいいんですよ。そんなことしなくても、エレメンタルソードとして機能しますから、間合いに入ることを許しませんよ」
「なるほど、でこっちはどうだ?」
「削岩ドリルビットをたくさん付けました。どれか1つが刃こぼれしたところで大したことありません。なにしろ刃ほどデリケートでもありませんし、交換前提に作ってます」

サザエの殻を3つ集結させたようなビットが無数、刃の代わりに生えたバックソード。切っ先さえビットに変えられたそれに、到底切る姿は想像できない。

「摩擦で切断すると言うより、スパイクに引っかけて引きちぎるという方が正しい表現な気がします。あ、ちゃんと回転するんですよ、ロマンがあるでしょう」

アディヴェムが右手でスイッチを押すとビットと支えが高速回転し音を立てる。

「こいつに巻き込まれたら間違いなく使い物になりませんよ。アディヴェム様は祭りに使うブドウジュース作りのお手伝いか、それとも魔獣の肉でも叩きにいくんですか?」
「肉叩きか、的確な表現だ。だが叩く目標は都市だ。うまくいったら大型化して、建造中のクロセルに装備させる」
「なるほど。ですが都市サイズの温泉というのは、源泉が枯渇しそうですね」

笑い出しそうな声色の社長は、机にメモを取った。

「なにか変わったことはあるか?」
「昨日の今日では変わりませんよ。トリニティファクトリーのラインは順調すぎて、モニターはいつも同じ風景なんですよ。スティアさんからまわしてもらう外の様子の方がよっぽど変化があります。こうやって突発的な仕事があるとうれしいくらいで……。そういえばなぜ、人間に弾を作らせたのです? ここで作った方が正確確実情報漏洩も無い。これ以上無い安全なのに、なぜ金を払ってまで外に出したんです?」

絶対に答えてほしいとばかりに近づき、真円の目でアディヴェムを見据える。表情の読みとれないガラスの目では疑っているのかも不明だ。

「信頼の証明、が理由だ。戦争が続く限りは軍人の時代だ。では平和になったらどうだ、カイセス皇の念願叶った統一平和だ。戦争はしばらく無い、賊も衛兵で事足りる。そうなると次は、金を支配する商人の時代だ。マクスはやり手だ、今つながっておけばいざという時、伝手を貸してくれるかもしれない」
「お言葉ですがアディヴェム様。帝国が貴方を解任するとは思えません。よっぽど恩知らずの暗君でなけば、功績がそれを許さない」
「俺はいいんだ、世界を旅するのが夢だから。どこに行っても帝国なら、大臣だって文句は言わない。皇だって同行したがるはずだ」
「直接統治、ですか。なら部下の方ですか、考えているのは」

考えるように社長は顔の下に拳を当てる。

「それにな、必ず盗もうとする奴がいるものだ。大体は楽して金がほしい有象無象の連中だ。だが、使命をおびた奴だって中にはいるだろう。じゃあそいつに指示している奴はどの国の役職付きだ?」
「そちらが本音ですか、合点がいきました。ですがひどい話だ。囮の本音を信頼でラッピングする。最後には部下まで押しつけられて」

社長は演技ががった、大げさな動作で顔を押さえてみせる。

「マクスはそれでも受け取るよ。その先を読んでいるから」
「商人はそういうものでしょう。でないとやっていられません」
「ところで生産量はどうだ?」
「呆れかえるほど順調です。見に行きましょう」

アディヴェムが机の武器を風景に入れ始めると、社長は離れて別の武器を取り出す。

「肉叩きを作っている時に思いつきました」
「わかった」

ビットを先端に取り付けたカタールを受け取り、部屋を出る。

三位一体を司る、基地、兵士、武器と名付けられた工場。
規格化された内部は、生産ラインである一本の柱を中心に、完成品を移動させて格納する作業が絶え間なく続いていた。その行き先と言えば、工場をつなぐ、今アディヴェム達が移動している廊下の下だ。

「他の駒兵は順調ですが、キングはやはり時間がかかりますね。全長2kmというのは長すぎますし、修理、生産、格納、住居。高機能と言えば聞こえは良いですが、失ったときのリスクは震えるものがあります。魔性石で建造しないのであれば、私はラインを動かさないですよ」
「俺の家族に昔、葉巻が好きだったやつがいる。勇猛果敢で強かったんだが、毒を受けたせいで左足は太ももから下、左手は薬指と小指を失った。看護するのが嫌だったのか、妻には逃げられた、離婚だ。葉巻を吸うようになったのはそれからだ。まるで抜け殻だったよ、死を待つだけだった」

透明な廊下の下では人型が訓練をし、できあがった武器が次々にコンテナへ納められ、積み上げられていった。

「ああ、マグナさんの話しですか。おかげでヨルムンガンド計画を実行できましたし、エイル計画、フェニックス計画を発足できました。アディヴェム様には都合良かったのでは?」
「確かに、あればかりは囚人で実験するのは危険だった。だが戦争さえなければ、性根がどうであれ一度は愛した女性のはずだ。逃げられる事は無かった」
「恋は病ですよ、まともじゃありませんね。まだ政略結婚の方が理性が残っています。それより大事なのは、戦争はまだまだ続きそうってことですよ。大国は残り8ヶ国、それも八咫と冒険社が黙っていれば、という話ならではですけど」

社長は大きくかぶり振る。長い廊下は突然、その終着地点の扉に達する。

「あなたの仰りたい事はわかります。巨大建造物で威嚇、あとは外交交渉で譲歩させ、同盟を組む。これなら戦争は起きませんし、兵士もその親も、うれし涙くらいでしょう、涙を流すのは。タダ」

社長は最後をあからさまに強調する。

「最近私はこう思うんです。動物園の猿の方が、まだ理性的だと」

前置きして、今まで前を見ていた社長が左を見る。

「体が大きく、力が強い者がリーダーになり、周りはそれに従う。彼らを動かしている理屈の1つです。人間はどうです? 皆口々に感情論をぶん回して、正義を悪に装い、責任が発生すれば言い訳して逃げる。挙句の果てには、時期も時間も場所も、相手も歳もお構いなしにズッコンバッコン。発情期がある動物の方がよっぽど、節操というものがある。そんな人間が、途方も無い力を手にして、平和に邁進できますかね? 責任のせの字でも、負おうとしますかね? ただ文句を言っておしまい、という姿しか私には想定できません。貴方もそうとしか想像できないから、わざわざ安全装置を拵えて、黙ってサインに渡してしまうのでしょう? 失敗作に落ちぶれた人間に、それ以上、他の生物の生きる権利を侵害させないために」
「そうだ。人の傲慢を挫けるのは恐怖しかない。だからキングが必要だ」

アディヴェムが扉を開け、工場へ入る。
迷宮の様に終わりも見えない、途方も無く長い巨大工場。天井に埋め込まれた生産ラインからあちこちに部品が配送され、中央に戻されて区画単位で組付けられる。

「形、という段階は90%ほど完成しております。残り10%も間もなく終わるでしょう」
「計画通りか。これからブランドをして、テストして、補正する。初陣までは時間が有る、順調順調」

丘のような弧を描く巨大な尻尾、背負われた8個の道路、右側に見える3本脚、外装を取り付けられている最中のそれがいかに長く巨大か、落下防止柵越しに見てもよくわかる光景だ。

「使わないことが一番だとは思うんですがねえ」
「それはその通りだ。なにしろ誰も泣かなくて済む。口喧嘩で終わらせてくれるのが一番いい」
「お帰りになりますか?」
「帰ろう」

社長が出口に案内すると最初の部屋に戻る。

「その内客が来る。皇様だ」
「視察ですね、畏まりました。備えておきます」

社長は出迎えたように礼をしてアディヴェム達を送り出した。


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