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No.43686の一覧
[0] ブラッククロニクル・ホワイトアポカリプス[994](2021/01/31 01:43)
[1] 序 ヤキュヌバキににて[994](2020/11/24 13:16)
[2] 朝議、忍び寄る気配[994](2020/11/24 20:22)
[3] フィアセラ・トーディス・ルーゼン[994](2020/11/25 03:34)
[4] 知識の蛇[994](2020/11/26 15:50)
[5] 銃か剣か[994](2020/11/26 20:56)
[6] No7.Chariot[994](2020/11/27 20:03)
[7] God children[994](2020/11/29 03:49)
[16] Because we are Legion,colony. 我らはレギオン、群団であるが故に。[994](2020/12/02 14:41)
[17] 人生を賭ける価値は?[994](2020/12/02 14:58)
[18] BackGround Leaders 背景の主役達[994](2020/12/02 22:08)
[19] 集合家族[994](2021/02/01 02:33)
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[43686] 朝議、忍び寄る気配
Name: 994◆1e4bbd63 ID:d10f212d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/11/24 20:22
衛兵が付いた、神秘的な広間に側近の声が響く。

「カイセス・ゲイルス・ルーゼン皇帝、御入室!」

窓から入り込む朝日で輝く国章を筆頭に、集まった臣下、あるいは省ごとの旗印が集合していた。
臣下はもれなく腰を折ってひれ伏し、部屋の最奥、階段で高台となかった玉座の傍に控えた側近までもがひれ伏す。玉座の後方にある廊下から鈴の音色が入り、隔離するカーテンが護衛に捲られる。間もなく杖を突く音が代頭し、宝石を削り出した文字通りの玉座に腰かける。

「支臣4名、専属3名、大臣14名、補佐14名。朝議の招集に応えております」

檻の国章と向かい合う玉座に左腕で頬杖を突いた皇が右手を上げる仕草で了承する。

「これより朝議を始める。面を上げよ!」

臣下が頂くのは27歳の若々しい皇、豊かな金の短髪に王冠は無く、緑の目は自信に満ち足りていた。体には白の一枚布を巻き、あせた灰色のサンダルは太い繊維で編み込まれていた。

「て」
「帝軍大臣、我の帝国に危機が迫っている。見立てはどうだ?」

定期報告と口を開きかけた側近を遮る、皇直々の質問。大臣の列から、国章を槍襖で守った旗印を背にした大臣が赤絨毯へ進み出た。

「まだ猶予はありますが、こちらも支臣を動かす必要がございます。リクラフィア共和国が、3000からなる軍隊を連れて緩衝地帯、エハッドバスユに向かっております。ただ、まだ国内のため緩衝地帯に到着するまでには4日あります。しかしながら、その間に傭兵などを加えて軍勢は4000程度に増えると心得ます。それに中にはリシールが3人混じっているとのことです」
(エハッドバスユの先はどちらも、海に面したラーエルダイアとリルエノラだったか。どっちも貿易で人がにぎわっていたな)

支臣の1人、アディヴェム・ジーンの脳裏を賑やかな町の情景が駆け抜けていく。想像もできない異国の服が行き交う道路、値切り交渉をする商人、サイコロ賭博に一喜一憂する男達、異文化のるつぼとも言える町。

「厚労大臣、守衛大臣、財庫大臣!」

人々のシルエットが入った緑十字、槍を持った兵士のヒューマンチェーン、片側の扉が開いた金庫と金貨。該当する大臣が帝軍大臣に並んで会釈をする。

「まずは臣民を逃がし、帝国軍団で攻撃に備える。厚労大臣は先行して触れて回り、帳を使って財産と家族形成を確認し必要なら書き足させろ。おそらく言わずとも逃げ出そう、守衛大臣は2町は当然、周辺の衛兵に指示して、逃げ出しの手伝いと道中の安全確保に動け。そして帝軍大臣、当然だが2つの港町を敵にくれてやる気はない。すみやかに現地の帝国軍と皇帝騎士団を動かして港防衛にあたらせろ。海路を使われるかもしれない、場合によっては港は木っ端微塵になるほど破壊してもかまわん。時を稼げ! 間に合えば出来たての皇帝騎士団と輩も回す。最後に財庫大臣、おそらく必要ないだろうが、一番かかるとすれば修復費用だろう。見積もりを出せ」
「仰せのままに」

皇が矢継ぎ早に指示を与えると大臣が下がり、補佐が朝議の間を去っていく。

「レドヴィア、ァリウス、アディヴェム」

玉座を守るように、下り階段の踊り場の両端で向かい合う女性が呼びかけに応じる。

「はい」

廊下に面した鞘に差した剣に両手を置き、燃えるマグマを彷彿とさせる色合いの鎧。騎士然としたレドヴィア・エレナス・シャンセータ。

「ん?」

金の杖を突き、黒で揃えられた三角帽にも服にも蕾を思わせる帯がとぐろを巻く。魔女然としたァリウス・リチュール。

「レドヴィアとアディヴェムでリシールの足止めとする。レドヴィアを指揮官、アディヴェムを補佐とする。レドヴィアは輩を率いて帝国軍団と合流し前線で戦闘しつつ指揮、アディヴェムは横で待機だ。レドヴィアはリシールを倒し、敵を殲滅しろ。レドヴィアが致命傷か、もしくは放置すれば死ぬ事態以外は救助も、指揮の代行もアディヴェムはするな」

皇の言葉にほとんどの大臣が目元をほころばせる。

「やっていいのは進軍を戸惑わせる程度の迎撃だ。ァリウスは魔法で送れ」
「了解しました」
「わかったわ」

レドヴィアとアディヴェムは左手を胸に当て会釈し、ァリウスは手で帽子のつばを掴んで杖で床を突く。

「時間は十分ある、各人抜かりなく備えろ。それでも敵は先手を行く。これで応急的にこの話は解決だ」
「外渉大臣、申し上げたき事がございます」

国章の顔持つ人が空白の顔の人と向き合った旗印から進み出る。

「私の力が足りず、共和国の進軍を止められなかったこと、ご容赦ください」
「赦す。帝国はあの国に輸出している物は無い。悔しいことだが、植民地の犠牲の上に成り立っているあの集合国家に、交渉材料を……弱点を持っていないのだからな」

深々と頭を下げる大臣への返礼は進むごとに怒りが露わになった。

「ああ本当に、悔しいな! 帝国が、これだけの力を持ちながら。ぬけぬと、民を困らせているような、あんな野蛮な国家1つ。なんともできないことだ!」
「……失礼を申し上げます。殲滅をも辞さないことを交渉材料にすべきかと存じます」

願い出る様に礼をしたまま固まる大臣の言葉に皇の右眉がはねる。臣下の半分が嫌そうな、何か言いたそうな表情を浮かべた。

「それをするには民が足りない。共和国は広大だ。殲滅したところで支配する民がいないのではあれば、共和国が、共和国以外の国になり替わるだけの話だ。根本的に変わっていない。昔とは事情が逆なのだ」
「承知いたしました。では戻らせていただきます」

元の位置に戻ってはじめて、大臣は顔を上げた。

「交整大臣、道路の整備について報告がございます」

都市のマークを繋いだラインのサークルから大臣が進み出る。

「ルーゼン帝国に従う、40ヶ国との交易道路を整備し終えました。次はいかがなさいますか?」
「では津波対策に、港町を空中に持ち上げる計画を進めよ」
「かしこまりました」

祭壇に乗った玉石の冠をバッジにした大臣がすれ違う。

「皇佐大臣、令器を探すアディヴェム・ジーンの旅に疑問を投げたくございます」
「続きを聞かせよ」
「アディヴェム・ジーンは1年間、南東方面を中心に捜索しております。が、令器を持つ者を発見できておりません。重ねて言うなら、6年前にイーヴィ・カンセを発見したのも帝都内。ラーゼベッセを危険に晒してまで、支臣の1人を外に出すのは人材と資金の無駄だと存じます。交換に自由を捨てたのですから止めておくべきです」

白髪と白髭を生やし、顔の多少赤い大臣が頭を傾ける。そこへ反対意見がとんでくる。

「異議があります」

朝議の13人を空から見張る目を胸にとめた大臣が歩を運び、皇佐大臣に並ぶ。

「監査大臣、無駄ではないと存じます。アディヴェム様は衛兵も軍も配置されない村にも足を運び、襲い掛かる山賊や魔獣を殲滅し、手助けを待っていたのでは手遅れになるような事態も回避しております。手法については問題がありますが、地方では噂が広がり、山賊や魔獣の被害も前より少なくなっております」
「今のところ変更する気は無い。アディヴェムはそうやって帝国に忠誠している。下がれ」

監査大臣が一礼し、皇佐大臣も倣って引き下がる。

「生活大臣、魔性石についてお話があります」

金貨で作られた折れ線グラフの旗印。

「出回る魔性石が少なくなり高騰を招いております。鉱山から切り出す許可をいただきたくございます」

皇は間をあけて返事した。

「高騰を理由に許可を与えることはできない。ナイフと同じで、場合によっては致命的な脅威になりうる」
「かしこまりました。では国外から買い付け、しばし賄います」
「そうしろ」

それ以上大臣が声を上げることは無く、側近が先へ進めた。

「ではレギオンについて話す」

大臣が狼狽えてどよめいた。

「侵略もされいない段階で、帝国は動揺しない」
「輩の募集はレドヴィア10名、ァリウス、イーヴィは0名、ァディヴェム2名。応募者はレドヴィア11.2倍、アディヴェムは等倍となっております」

皇が言うとざわめく大臣を無視して側近が告げる。その人数にアディヴェムは困惑した。

(心当たりは無いが……、物好きもいたものだ。隕石でも降るんじゃないか?)
「レドヴィアは5倍に調節しております」
「皇帝騎士団は通常通りか?」

皇が確認を取り、側近が頷く。

「はい、仰せの通り100名です。レギオンの始まりは例年通り、日時計が12時を差した頃です」

定期報告に移って政治が始まり、大臣同士、あるいは皇との論争になった。
それも鐘の音が7時を知らせると終わりを迎える。

「時間か。では皆、仕事にかかれ。帝国万歳」
「帝国万歳!」

挨拶をするように軽く右手を上げた皇に続いて臣下が唱和する。皇は柄頭に真っ黒な石の嵌った杖を握って立ち上がり、玉座を去った。

(批判は意外と少なかった)
「手形をお忘れにならないように」

出口で注意喚起する衛兵から手形を受け取る。アディヴェムは自身の名前と、専属であるマキニヤ・ミスティエルが彫られた手形を仕舞い、自らの殿へ帰った。


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