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No.43666の一覧
[0] 異世界Z.O.E[FFR31-MR](2020/10/01 13:39)
[1] 異世界ZOE 0-2[FFR31-MR](2020/10/01 13:41)
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[43666] 異世界Z.O.E
Name: FFR31-MR◆4ceb37e8 ID:b136a3f3 次を表示する
Date: 2020/10/01 13:39
---転移したとある異次元の惑星にて


『おはようございます。戦闘行動を開始します』
 抑揚のない平坦な声に、薄らと目を開ける。僕の目覚めを感知したのか、スリープモードから復帰したADAがディスプレイを賑やかにする様子を視界に捉える。この光景もまだ三度目であるはずなのに、何故だか妙に見慣れた感がある。
 メタトロン製のシートには樹脂が合成されているらしく、見た目に反して柔らかみがある---背中からふくらはぎまでをしっとりと包み込むこの低反発な感触にも馴染んできた気がする。
 戦闘支援ユニットが操縦者であるフレームランナーの五感を支援するためには必然、コミュニケーションが必要になるらしいので、朝の挨拶としてさっきのは適しているように思う。これまでの三回---いや、バフラムのオービタルフレームに襲われた時を入れれば四回、ADAのおはようございますを耳にしたことになる。
 …確か、ラプター、だっけ。戦う初っ端からおはようございますも無いよな…。
 他にもその戦闘支援は多岐に渡るそうで、目前の視界下部を占めるディスプレイへの文字表示による視覚的な支援であったり、MPR---メタトロン知覚範囲による機体表面距離数百メートルの物質知覚をランナーにフィードバックする感覚支援であったりする、らしい。らしいというのも全てADA談なのだから事実でしかないはずなのだけれど、他にも姿勢制御だとかウーレンベックカタパルトの制御だとかそこそこ重要な…いやかなり重要なことを延々説明された気がするが、僕がそういう曖昧な記憶の仕方しかできなかったのにはそれなりに理由がある。
 右手側のサブディスプレイが刻む機内時間をちらっと見る---たぶん五時間も寝ていない。
 ジェフティに課せられた使命(ミッション)。
 ADAというプログラムの根幹に根ざす、独立型戦闘支援ユニットとしての存在意義。それを否定されることは、己自身を否定されるのに等しいと。
 お前はいらない---そう言われるのと似ているんだと、思いあたって。
 メタトロンに近似した組成の岩石群の中でも、一際背が高く遮蔽性の高い地形を一先ずの拠点と定めていた影響で、こちらの時間で夜が明ける時間帯にあってもコックピットから見える周囲は薄暗い。
 直上には、異なる色彩に輝く二つの円形。浅い眠りに落ちる前に見た時には三つ浮かんでいたそれは、地球人にはお馴染みの月という衛星と同質に見える。
 目の前のディスプレイを止めどなく流れている、おそらくジェフティのコンディションチェックパラメーターであろう数値の群れに目を向けて、瞑目する。
「ADA。僕は、」
 演算処理に伴う電子音が微かに聞こえるコックピットに、自分でも思いもよらないほどはっきりと、僕の声が響いた。
「僕は君に、自爆なんてさせないからな」
 決然と、なんて僕には似合わない表現だろうけれど。それでも僕としては決然とADAにそう告げた。
『それは命令ですか』
 Spec in. Ready. と表示が明滅したディスプレイを注視する。
「いや。あくまで僕から君へのお願いだよ」
『請願の意図不明。また、そもそもその要請にはお応えできません』
「…どうして」
『システムの都合上かつ合理的見地から異なる十一の理由が述べられます。第一に、あなたはシステムによって登録された正式なフレームランナーではありません。第二に、現状を整理すると、ジェフティに課せられたミッションの達成を機軸とした段階的な状況遷移において、system initializeゆえにオートパイロット機能がアンインストールであるジェフティと、未知の環境下でジェフティに搭乗していることで身の安全を確保できるあなたと、お互いの利害が一致したことによる協力関係にあるに過ぎません。第三に、仮に言語化により命令性のあるオーダーが下されたとしても、先に述べた通り登録ランナーではないことから』
「---なるよ!」
『は?』
「僕が君の---ジェフティのフレームランナーになる。それで文句はないだろ?」
 それは昨夜からずっと考えていたことだった。こういう問答になるであろうことはいくつかの想定のうちの一つ。ADAを納得させるには---プログラムに必要とされる正規の手順を踏むとなればこの流れの場合、フレームランナーに登録してもらえればジェフティを自爆させるなというオーダーも"合理的"には通るはずだ。
『理解不能です。今から六時間五分三十二秒前、あなたはジェフティに搭乗し続けることに否定的な発言をしていました。今回の発言と矛盾しています』
「それは…」
 論理の破綻。言葉に詰まる。
 合理的であれ---ADAをADAとして規定する合理性というcodeはしかし、もう一つのcodeとセットであったことを僕は忘れていた---つまるところそれは、"論理性"である。
 実際のところ、最初と、一昨日の巨人たち---ギガスとの戦闘で、ジェフティに---オービタルフレームに乗って戦うことで僕に蓄積されたのは恐怖ばかりで。アンティリアにいたころ流行っていた地球型LEV操縦体験に参加した同級生たちのレビューを一番賑わせていた"高揚感"なんて一切感じられなかった。バフラムのラプターは無人機たったけれど、原因不明に迷い込んだこの惑星の兵器は、ギガスは、有人機だったのだから。
 搭乗者同士の命のやり取り。
 自分の生存権をかけた争い。
 お互いの都合と立場、そして価値観の相違から発生する闘争に否応なしに巻き込まれる無力な人々…この惑星の人々が、僕の知る限りの人類には持ち得ない摩訶不思議な力を行使できるとはいえ、言うなれば家や畑、家畜や動物、森や川でさえも…兵器が通った後に残ったのは、ガレキの山と、ナニかの血溜まりだった。それだけしか残らなかったんだ。
 だから。
 この惑星でのこれからについて淡々と見解を述べるADAに、昨夜の僕は、ジェフティに乗り続けることへの不安を吐露したのだった。
『再三になりますが---強力な波長であることが前提ではありますが、メタトロンは人間の意思的エネルギーと共鳴するという特性を持つことから、その結晶体とも呼べるジェフティのコントロールには一貫してクリアな思考ルーチンが必要です。これはシステムにもランナーにも当てはまることであり、顕在化している矛盾思考はジェフティの機能保全にリスクを抱え込み、ひいては搭乗者の生存率低下に直結します』
 …正論だ。未知の要素しかないこの惑星で、僕らの生存は、ジェフティのパフォーマンス如何にかかっている。
 それでも僕は、歯を食いしばってこう言うしかない。
「…それでも僕は、ランナーになりたいんだ」
『理解不能です。何故そこまでこだわるのですか』
 その問いに即答できるほど、僕の舌はよく回るほうじゃなかった。ふっと降りてきた静寂にADAの電子演算の音が漂う。
 なんとなくだけど。逡巡する僕の言葉を、ADAは待ってくれているような気がして---"ただのプログラム"にそんな雰囲気を感じるのはおかしいのかもしれないけれど。僕は、プログラムなんだから当たり前なのかも知れない、非人間的な思考で合理的に物事を判断する、それでも今ここに至るまで僕を助けてくれたこのプログラムに、そのこだわりというやつをきちんと話すべきなのかも知れない。
「…僕はアンティリアでは、移住組だったんだけど…」
 そう独りごちたコックピット内に遮る声はなかった。
「…ADAは、知ってるかな。地球や火星からすれば、木星に、つまりアンティリアに行った、僕らのような人間がなんで呼ばれているのかを」
『エンダー、でしょうか』
「さすが…正解」
 その話は今必要ですか、くらいのことを言われるかと思ってたけど、続けてもいいらしい。
「特別頭が良かったわけでもない、特別友人に恵まれていたわけでもない、ただ普通の子どもだった。いつも一人ぼっちの、そんな子ども。それは木星に来る前も後も、変わらなくて。そんな普通の僕でも、両親がいて、学校に通って…父さんも母さんもそんなに家にはいなかったけど、普通に暮らせる家があって。でも」
 そう。普通でも、たとえ普通の子どもだったとしても。
「アンティリアに行くことが決まった日、久しぶりに父さん母さんと食事に行った。嬉しかった。それまで家族で出かけることなんてほんの数回あったかどうかも知れないのに。それなのに」
 膝の上で組んでいた手が、震える。あの日食べたものの味は思い出せないのに。今も耳にこびりついて離れない、両親の声。言い争う、声。
「喧嘩してたんだ。僕を父さんと母さん、どっちが連れて行くのかで。木星に行く父さんか、地球に残る母さんか。…ははっ、ちがう、ちがうな。押し付けあってたから、喧嘩になったんだ。子どもの僕を、役に立たない僕を。学校でも家でも、僕はいらない子だったんだ。父さんと母さんでさえ、僕のことはいらなかったんだ。アンティリアに行ったって、どこに行ったって、僕は、いらない人間だったんだっ」
 僕がいなくても誰も困らない。
 僕が死んでも、きっと誰も悲しまない。
 心の内を、そんなことばかりが占めるようになっていた。
 そんな毎日に、急にこんな、大きな変化が起きるだなんてね。
「---それでも僕は君と、ジェフティと出会って、偶然だったしなし崩しみたいな感じだったけどバフラムのオービタルフレームと戦って、怖かったけど、君たちのお陰で生き延びて。今だって知らないところに来ちゃって、訳わかんなくて、よく分からないことに首を突っ込んじゃったりして僕自身も、君たちも危険に晒してしまって、迷惑をかけ続けてしまってる。情けないかも知れないけど、オービタルフレームに乗ってるってだけで、怖いし、大きな、自分にはコントロールしきれない力が手の内にあるのが、怖いんだ。でも僕は、それでも」
 ---現状、ジェフティを操作できるのはあなたしかいません
 ---改善を要求します
 ---もっと訓練しましょう
「嬉しかったんだ」
『うれ、しい』
「君たちに必要とされたのが、嬉しかったんだ」
 今まで、いらない人間だったんだ。これからだって、そうだったのかも知れない。君たちに、出会わなければ。
 これまで感じたことのなかった不思議な気持ちに後押しされて、僕はさらに言い募る。
「何も分からない僕に操縦の仕方を根気よく教えてくれた。感謝もしてる」
『わたしは戦闘支援ユニットです。初心者をサポートするのは当然です』
「そうかも知れない。でも僕はまだ学生で、戦うのが怖くて、効率も悪くて…それでも君のお陰で今も生きてる」
 膝の上で握っていた拳を胸にあててみる。シャツ越しに伝わるほのかな温かさと、心臓の鼓動。ひんやりとしたシートに全身を預けると、鈍く感じるジェフティの駆動が心地いい。
「ありがとう、ADA。僕を助けてくれて」
『…』
「ADA?」
『…わたしは…、わたしはプログラムとして、ジェフティの機能保全のために最適な戦闘行動を演算し、それらを選択してきたまでです。想定外の現状において互いの利害が一致する、合理的な選択肢を』
「そうだね。でも、僕の利害も考えてくれていたんだろ?案外面倒見がいいよね、君って」
『わたしは戦闘支援のためのただのプログラムです。そのような機能は実装されていません』
「ははっ、わかった、そういうことにしておくよ」
『どういうことでしょうか』
「…とにかく、ADA。僕は…僕は君たちに必要とされたいんだと、思う。いらない人間だった僕を、必要としてくれている君たち…ミッションの達成には、今のところは、僕は、必要だろう?」
『…しかし、あなたは、ジェフティは自爆させない、と』
「僕を必要としてくれる限りは、ね。だって、僕が乗ってる時に自爆されたら困るし」
『自爆シーケンスは搭乗者の事前待避が前提として設計されています。その心配は無用です』
「ははっ、そうなんだ。…だったらなおさら、そうなる前に、アーマーンを止める。そうなれるように、ジェフティのフレームランナーとして操縦技術を磨くよ。僕も君も、ジェフティも生き残るために」
『私は…命のないただのプログラムです。私を守るような行動は非常に…非論理的です』
「…互いの利害の一致」
『え?』
「僕が君を自爆させないのは、僕自身の命を守るためだ。そのためにジェフティの操縦を上手くなる。そうすればアーマーンを止められる確率も高くなる」
 まあ、まずはこの惑星から脱出しなきゃならないけど。
「アーマーンもクリアできて君も生き残って、僕も満足。ほら、利害が一致してるだろ?」
『それはいささか…いえ、控えめに言っても強引なLogicです』
「ええ、そうかな〜」
 我ながらこれ以上にない合理的提案、ってやつだったのに、合理主義者の化身であるADAのハードルはさすがに高いな…などと思いながら、僕の言葉を最後に、話す者のいないコックピットに再びの静寂が訪れた。
 聞こえてくるのは僕自身の息遣い、そしてADAが実行する電子演算のノイズ。
 不思議と穏やかな心持のまま、ADAの言葉を待っている。
『---右手か左手、どちらかでコンソールを握ってください』
「えっ?」
『ジェフティとのreactableを出来るだけイージーにするため、利き手を推奨します』
「っ。それじゃあっ」
『感情的成分を主に全てを理解できたわけではありませんが、あなたのLogicは理解しました。登録情報をシステムスペックにマッチアップさせるため、あなたの遺伝子的情報が必要になります。握られたコンソールから射出される接触針による採血にて、あなたの遺伝子的情報をメインメモリにコンバート。システムで規定されていた情報に上書きすることにより、ジェフティの正式なフレームランナーとして登録します』
「ADA…」
『入れ替わりにMtMを注入注射させていただきます。針は医療用注射針と同サイズですが、多少の痛みにご注意下さい。これまで採血などの注射を用いる医療行為により吐き気を催したり意識を喪失するなどされたことはありますか』
「いや、ないよ。その、ありがとう…」
『…利害の一致』
「え?」
『あなたとわたしたちの利害の一致による、当然の帰結です』
 なんだか言い訳がましく聴こえる、ADAの平坦な声音に少し可笑しくなって。
「…ああ。そうだね」
『…』
 穏やかなため息と共に同意する。
『…それでは現状打破の第一段階継続の為、昨日の探索地と同じケプリの村へ向かいます。採血およびMtM注入は移動中に行います、宜しいですか』
「うん、わかった。さっさと情報を集めて次のステップに移ろう」
『了解しました。高速飛行mode ready。目的地到達まで、三百。スタート、マイグレーション。インディケイティッド、ディスティネーション。操縦はお任せします』
 フレーム可変とスラスターの圧力上昇の振動がにわかに伝わる中。不意にちくっとした右の手のひらの痛みに顔をしかめるのだった。これが、注射か。
 …多少どころか割と痛いんだけど。


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