結論から言ってオレの身柄は幹部の一人、『司』の宮司が預かるコトになった。
あの後にあった幹部会議では放逐の意見が半数を占め、オレもそれが良いんじゃ無いかと思ったのだが、その一方で強固な反対する意見や、様子を見たいという意見もあり、最終的には大宮司の鶴の一声で処遇が決まった。
因みに『司』の宮司は、オレと甲冑ウーマンの試合の審判をしていたヒトで、外見が大宮司の少し上に見えるお姉さんだ。あと、やたらとオレに半ズボンを履かせたがる趣味人でもある。
御老人によると、教団の法を司り、かつ、彼に次ぐ実力者で、教団の『法』と『力』の象徴たる大人物のようだ。
そのヒトがオレを常時監視するということで、ひとまず詮議の場は解散になった。
常時監視って事は、四六時中、妙齢の女性と一緒って事でもあり、それは倫理的に駄目だろうと主張したものの、大宮司も含めて幹部全員に“なんで?”という目で見られた。
いや、オレとしてはナニもするつもりは無いんだけどさ、このあたり文化に大きな断絶を感じる。ま、まぁ、兄やモルモットにされるよりはマシで少し安心した。
あと、どう考えても仕事に忙殺されているだろう立場のヒトなので、オレは凄く気が引けたのだけれども「何も問題を起こさなければ忙しくなりませんよね♪」という凄みの利いた笑顔を見せられて、顔を立てに振るしか無かった。
「今宵から我の■&“w~な世話をさせるつもりであったのだがな……『司』よ、くれぐれも頼むぞ。此奴を教団から逃してはならん。私欲も大いにあるが、これは『大宮司』としての判断だ」
「判っているわ。貴方がそこまで強く主張することなんて、教祖様以外の事ではそうないもの。大事に預からせて貰います、そう……とても大事に、ね」
「あのな……我がL~%*である事を忘れるなよ。ほどほどにしておくがよい」
なんだかとても凄く妙な視線を感じるのだが……気にしないでおこう。
というか、昨日の怒濤の如きイベントに続き、今日も早朝から深夜までイベント続きで疲れ果て、気にする余裕が無い。
割と楽しみにしていた異文化料理も、結局はいつものヒールゼリーで三食済ませることになってしまったし、今日はもう風呂に入ってゆっくりと眠りたいのだ。
そう、山から下りて有り難いと思った事の一つが風呂だ。
たっぷり湯を張った浴槽に体を沈める以上の贅沢がこの世にあるだろうか? いや、ない!(断言)
山頂ではお湯を沸かし、湯に浸したタオルで体を擦る、頭から湯を被っていたから衛生はちゃんとしていた。あぁ無論、ガチャで出た石鹸とシャンプーを使っていたとも。綺麗好きな日本人なのだから当然だ。
しかしながら湯に浸かるという行為は流石に無理で、昨日、衛士宿舎の大風呂に案内されたときは感動で泣いてしまった。
風呂に入るときまで甲冑ウーマンが付いてきたことは残念だったけど、スーパー銭湯で偶に出没する検温オバチャンだと認識を変えてしまえば気にもならない。
やたらとオレの裸体を凝視していたような、色々と体液を流していたような気はするが……監視役って大変だなぁと素直に同情した。
だから、『司』宮司に宛がわれているのだろう大きな部屋の中、そこに設置された豪華なバスルームで素っ裸になり、彼女目の前で温水シャワーを浴びていても全く気にならない。
逆にオレの裸体を見せつけることを申し訳なく思う。
これが彼女にとっての思い人や、男性アイドルの裸であれば良いのかもしれないが、今のオレは監視が必要な危険人物だからなぁ……。
「スミマセン、こんな立派な風呂を使わせて貰って。オレの監視役になったばかりに」
「いえいえいえいえ……これは素晴らしいや、っごほん、とても大事な責務ですので! 貴方が気を病むことは全く、これっぽっちもありません!!」
むぅ、そうは言うものの今もバスルームの外で監視している彼女の苦労を思うと慚愧の念が湧く。
全ては今も左手首にある妖怪時計の所為ではあるが、それを付けているのはオレだ。
少なくともこれを所持すると決めた、記憶を持っていった頃のオレには責任があるし、結局のところ今のオレに責任が帰結する。
本当に、胃潰瘍になりそうなくらい胃が痛い――ヒールゼリーを食べれば快復してしまうが。
「気を病む必要はありませんよ。それどころか、あの子の我が儘に付き合って貰って感謝しております。貴方がこの地に留まる絶対的な理由は無いのですから」
「それは……まぁ、そうですね。けれど、場合によっては命を懸けてもいいくらいの強く留まりたい気持ちはありますよ」
「その理由をお聞きしても? ――いえ、話しなさい。大宮司のL~%*であろうとする者よ」
「……あなた方が御神体と呼んでいるものです」
あの自重で全てが崩壊していなければならない筈の超巨大構造物。
現代日本に生きていた人間であれば知りもしないはずなのに、アレを初めて見たとき勝手に口から出た『超弩級星間航行船14番艦、紀伊』という名に、無くしたオレの記憶が絡んでいると直感した。
普通に考えるなら、アニメかゲームとかで覚えていた適当な宇宙船の名前だと一笑に付すものだが、あんなのどれだけ金を掛けたところで描けないし、現代人類の想像できる域を超えている。
だってさ、視界を越えて機体が続いていて、明らかに地面から浮いているんだぜ? そんな物理的な矛盾だらけの存在、まともな技術者が見たら理性やら認識が崩壊して廃人になるわ! 実際になりかけたわ!!
だが、どれだけ今まで学んだ物理を否定されようとも、現実にあるモノに目を背けて思考停止するヤツは技術者ではない。
そこにある新しい技術をモノにする。
改善してよりよいモノを作り上げる。
それに着想を得て全く新しいモノを創り出す。
それが技術者や研究者という人種であり、オレもその端くれなのだ。その証拠にあの変態構造物を見てからオレの体は火照り、勃起し続けている。
アレを放り投げて日本に帰るという選択肢はオレの中からとうに消えていた。
とにかくだ。学ぶにしろ、思い出すにしろ、近くに居られた方が何かと都合が良く、今のところアレに一番近いのは教団の幹部なのだ。
「だからね、あなた方からすれば凄く不純な理由かも知れないが、大宮司サマのお側仕えという立場を手放すつもりは無いよ」
髪をシャンプーで洗い、体を石鹸付で泡立てたタオルで擦り、体の汚れを落としつつ動機の話したオレは、その言葉で説明を締めた。
本心を隠すこと無く全て晒した。これを否定されたのならこの地を去るしか無いという覚悟で話した。
それを引き出されるだけの重みが彼女の質問にはあった。
さて、教団幹部という立場にある彼女の裁定は如何に?
体に残った水気を払い、髪をオールバックに纏め、生身の全てを曝け出して『司』の宮司の前に立つ。
「か……カッコイイ、すごくオトコノコしてる、もうむり」
「――は?」
突然仕掛けられた完璧な足払い。
鋭すぎるそれに対応出来るわけも無く、オレは床に頭を強かに打ち付けて意識を失った。