「ヤンさんからだ」
「どうしたんでしょうか、こんな時間に」
エリクセン准将は、いま現在タオ監査官と共に憲兵隊オフィスにいた。
「はい、こちらエリクセン准将」
「ヤンです、大変なことになりました。緊急立法が可決して、自由派を一掃する準備を完了されられました。このままだと、ワシントンの中の自由派が一掃されます」
「…、ちょっと待ってくれ、ヤンさん。その証拠はどこにあるのですか」
すぐにヤンは即答する。
「私の友人からの情報です。その友人いわく、民部省の役員と議員から聞いたとのことです」
「…、信用できないわけではありませんが、確実なのですか」
「疑われるなら、あと三分後に、つまりちょうど明日零時に政府から緊急会談が行われます。そこで、最高裁判所長官のミュンツァー卿が辞任されるはずです」
エリクセンは、タオにテレビをつけろと目線で命じる。タオは黙ってテレビを就けた。すぐにテレビ画面が映る。
「ヤンさん、ミュンツァー卿が辞任されたとして、それが緊急立法につながるのですか」
「知っての通り、執行閣の民部卿であるミュラー卿は執行閣の中でも良識派に属していて、比較的自由派に融和的です。ですが、今回ミュラー卿は更迭されるとのことです。いやそれだけじゃない、貴方たち憲兵隊の中枢も一斉更迭される可能性が極めて高いという情報があります」
「なっ…、本当ですか!?」
ヤンは、向こう側で頷いていることだろう。
「実は、Whisper上に憲兵隊の記事が大量に乗っかっていました」
「ああ、それは知っています。分かるようにやっていたましたから」
「その記事が、いま何者かによってかなりの量が削除されつつあります」
エリクセンは、タオに目を向ける。タオは首を振る。
「タオでもないとなると…」
「十中八九、政府関連者でしょう。裁判所や憲法としては憲兵隊が解散されれば困りますが、クーデター計画をなされようとしたというなら別です」
「なっ!?どうしてクーデター計画がバレて…」
ヤンは、つい大声で怒鳴りあげてしまう。
「バレバレです!!確かにここの情報だけ見ればクーデターとは分かりません。配置や訓練内容にしても、少し過激な程度でしたから。ですが、今までの憲兵隊や裁判所の動きを見れば嫌でもわかります!
…、すいません。ですが、すでにクーデター計画は露呈したと考えるべきです。ですので、いまさらクーデター計画をどうこうしようとも向こうには関係ありません。すでに未遂がある以上、憲兵隊を解散する必要があります。
ですが、憲法の規定上それはできない。それに、政府としてもあまり波風を立てたくないのでしょう。だから、クーデター計画だと疑われる記事を削除して、ただの不祥事と見せ掛けるつもりです」
「ならどうすれば!」
「緊急立法が施行される前に、第三秘匿ドックを襲撃するんです」
突拍子もないことを言い出した、とエリクセンは思った。ちょうどそれと同時にテレビから緊急会談のことが流れ出した。速報として、ミュンツァー卿辞任という文字が表示される。
「どうやら本当のようですね。で、第三秘匿ドックを襲撃する理由は?」
「私は今まで何度も秘匿ドックに何があるか調べていました。その結果、秘匿ドックには新型輸送船と改造駆逐艦が存在することがわかりました。それで脱出するんです、ワシントンを」
「それは構いません、ですがどこに脱出するのですか?」
ヤンは、少し間をおいてこう言った。
「廃棄された旧南極探索拠点、レイフ-O1です」
「レイフ-O1(注:読みはレイフオーワン)…、ですか」
エリクセンは、頷いた。
「分かりました、貴方を信じます。もっとも、第三秘匿ドックはかなり強固な拠点となっています。クーデター計画が露呈している以上、恐らくかなり強固な防御拠点となっていることが想定されます。
勝算は五分五分です、よろしいですか?」
「いま我々に、それ以外の選択肢はありません」
エリクセンは、承知いたしました、と返した。
通話は終了した。
「タオ、第三秘匿ドック襲撃作戦を行う」
「なっ…、なぜ今更」