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No.43568の一覧
[0] 俺ら素人がホロウと戦うのは間違っている(俺ガイル×BLEACH?)[シウス](2020/05/26 21:36)
[1] 1話:意外とホロウにも重い過去がある[シウス](2020/06/01 23:45)
[2] 2話:人が悪霊になる理由[シウス](2020/06/14 16:38)
[3] 3話:初めての惨劇[シウス](2020/06/24 23:29)
[4] 4話:忘れていた過去との対面[シウス](2020/07/11 00:07)
[5] 5話:駅に潜む悪霊[シウス](2020/07/28 22:00)
[6] 6話:夏休みが始まる  [シウス](2020/08/16 11:20)
[7] 7話:肝試しにありがちなこと[シウス](2020/08/19 22:55)
[8] 8話:異常事態発生(前編)[シウス](2020/08/31 22:58)
[9] 9話:異常事態発生(後編)[シウス](2020/09/22 23:19)
[10] 10話:人里離れた地のホロウ[シウス](2020/10/19 22:24)
[11] 11話:幽体離脱させる道具を持つ者[シウス](2020/11/18 23:27)
[12] 11.5話:ろくな番組やってねぇ……[シウス](2021/01/25 21:54)
[13] 12話:夏祭りにありがちな[シウス](2021/01/24 22:55)
[14] 13話:リアル脱出ゲーム 前編[シウス](2021/03/07 23:23)
[15] 14話:リアル脱出ゲーム 中編[シウス](2021/03/28 15:47)
[16] 15話:リアル脱出ゲーム 中編2[シウス](2021/04/21 22:52)
[17] 16話:リアル脱出ゲーム 後編[シウス](2021/05/11 23:21)
[18] 17話:日常に混じる異変[シウス](2021/06/28 22:18)
[19] 18話:音を立てて崩れる『日常』[シウス](2021/07/25 19:47)
[20] 19話:戦争[シウス](2021/09/12 23:06)
[21] 20話:最終決戦[シウス](2021/11/28 21:28)
[22] エピローグ:こんな未来も悪くない (完)[シウス](2021/12/05 15:51)
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[43568] 19話:戦争
Name: シウス◆60293ed9 ID:ae6c1002 前を表示する / 次を表示する
Date: 2021/09/12 23:06
 
 19話:戦争
 
 
 ――ゆかりサイド――
 
 
 アジトの最深部にて。
 
 
『―――なぁ、姫ちゃん』
 あたしは牛猪ホロウ、太助の声に振り向かずに答えた。
「……何よ?」
 
『俺達が「やろうとしてる事」って、間違ってんだよなぁ……?』
 
 不安そうではなく、どこか虚無感のある声に、あたしは鼻で笑って答えた。
「はんっ。何を今さら。……安心しなよ、幽霊やホロウになってから行なった悪事では、地獄行きにはならないからさ。……地獄にすら入れさせてもらえない―――『罪を償うことすら許されない』の間違いかもしれないけどね」
 すると離れたところに立っていた、トカゲ人間が鎧を着たような外見のホロウ―――末吉が、壁に背を預けて腕を組んだまま言う。
『まぁ間違い無く悪事だよな。ここはもう俺達が生きてた時代じゃねぇ。……だが俺達の国が別の国に滅ぼされて、更にはその土地に好き勝手に町を作られるのが腹立つだけだ』
 そう言ってから、拳を握り締めて俯く。どう見ても、自分が言っている事に納得している様子ではなかった。
 続けて着物姿で二足歩行型の猫型ホロウ―――ううん、半虚デミ・ホロウとなっても、人間だった頃と全然体格が変わらない絹ちゃんが、猫耳をピクピクさせながら、怒ったような口調で言う。
『……今のこの町だって嫌いじゃないよ。でも町の持ち主がここにいるのに、好き勝手されるのは駄目だね。思い切ってぶっ潰してやるんだから! あの夕日の見える丘も、ビルの屋上から見渡せる夜景も、みんな……みんなぁッ……」
 絹ちゃんを抱きしめると、彼女は声を上げて泣きだしてしまった。
『お前は優しい子だね、絹』
 そう言って、彼女を背中からも包み込んだのは、巫女服を纏った狐のデミ・ホロウ―――たえだった。
 
 
 ―――優しいのはアンタもでしょ? と内心で吐き捨てる。けど……それはここにいる全員もだろう。
 
 
『喉元過ぎれば何とやら、だぜ? ……いつかこの「今」を笑って思い出せるようになるさ』
 と、ちょっと良い事を言ったのは―――それはそれは緑と青のグラデーションの激しい、ニワトリの頭を持った人型ホロウだった。腕が翼になっているのではなく、腕とは別に背中に翼がある。その上に鎧を身に着けている。こいつと太助、末吉の鎧は、あたしが自前の能力で作ったものだ。仲間の女達の衣服も同じく。
 こいつの名前は権兵衛ごんべえという。あまりにケバい格好の理由は、生前にどこかの大陸に住むとされる孔雀という美しい鳥を、頭の中で『カラフルなニワトリ』と勘違いし、美しい孔雀になりたいと強くイメージしていたのが原因だそうだ。
 そんな外見をしてるからか、権兵衛が深みのあるセリフを吐く度に、
『まぁーたチキン野郎が何か言ってる』
 と、河童の姿をした女―――弥生やよいが、いつも通り笑い飛ばした。常に彼女は権兵衛に対してだけ平常運転だ。
『俺はチキンじゃねぇ! にわ…孔雀だっつの!!』
『今「ニワトリ」って言いかけたよな?』
『言ってた』
『ぐすっ……絶対に言いかけてたもん……』
『だってニワトリじゃん?』
『ってか生前、母ちゃんに怒鳴られるたびにすぐ土下座してたんだから本物のチキン野郎じゃん』
『お前ら―――っ!!!』
 
 
 生前とほぼ変わらない風景。
 生きていた頃の―――故郷が戦火に飲み込まれる前と、全く変わらない会話。
 一国の姫でありながら、歳の近い家臣の子供達と幼馴染みとして過ごしてきた絆。血の繋がりは無くとも、彼らは親友どころか兄弟姉妹といった間柄だった。
 
 
 長い歳月をかけて霊力を集め続け、去年の9月にとうとう目標量の霊力を集めるに至った。
 その頃になってようやく、あたし達が封印される前に比べて、町が異常なまでに様変わりしたという『変化』を楽しむ余裕が出てきたというのもあった。
 だから守り神様の復活を、せめて1年間だけ、この町を楽しんでから行なうことにしたのだ。その守り神様自身も、今の現世を楽しんでみたいと言うなら、その後の『大災害』をもう少し延期することも考えていた。……もう、そんな余裕なんて無いけどね。
 あたし達が封印されている間の記憶は無い。完全に時間が止まった状態だった。
 だからだろうか? 世界そのものが変化されつくしたにも関わらず、もっと発展した先を見たいと思ったのは……。
 
 
 ―――本当は知ってる。あたし達の国を滅ぼした国は、別の戦で滅ぼされ、それをした国もまた別の戦で滅びた。文字通りの戦『乱』の世だった。何なら今から数十年前の大戦で、この国は原子力爆弾だの東京大空襲だので、敗戦した事もあるくらいだ。そして国が滅びても、国民までは滅びないのが世の通例だ。もしかしたら今の千葉にも、あたし達の国民の子孫がいたのかもしれない。
 
 
 もしも―――もしも封印されている間、身動きができずとも現世の変わり行く様を見ることが出来ていれば―――あたし達も守り神様も、地震や津波なんていう恐ろしい考えを改めていたかもしれない。
 あたしを含め、ここにいる皆も内心では惨劇を起こしたくないという思いは、確かにある。
 ……でも一方で、この町を滅茶苦茶にしてやらなければ気が済まないという『怒り』もまた、確かにある。
 もう止まらないんだ。せめてもう少しだけ、みんなが考えを変えるだけの時間さえあれば―――。
 
『姫ちゃん、こっちは準備はOKだ。いつでも起動できるぜ』
 
 トカゲの末吉が言い、全員がこの場所から全神経を集中させ、巨大な術式を展開させた。
 守り神様に霊力を注入するための術式ではない。―――このアジトを防衛するための術式だ。
 太助が祈るように呟く。
『頼むから「地上からの侵入」だけは防いでくれよぉ……。せめて封印解除の霊力注入が終わるまでは……』
 
 
 
 ―――あたし達の封印が解けてから今日までに比べれば、圧倒的に短いはずの『その時』は、かつてないほどに長く感じられた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――海老名姫菜サイド――
 
 
 総武高校を遠目ながらにも見ることができる、デパートの屋上での作戦会議中。
 ヒキタニ君と戸塚君が、紫なる女幽霊と接触中に戦闘に巻き込まれた、その2日後。―――本当は当日中にでも突撃しに行きたかったけど、充分な人数を揃えるのと、きちんとした作戦会議を欠かす訳にはいかない。
 
 
 
「全員、飯は食ったな? きちんと動けるな?」
 隼人君の指示に、みんなが頷いた。今の時刻は13時だ。
「酒井さん、七不思議の連中のアジトって、本当にあれで合ってるんですね?」
 酒井と呼ばれたのは、身長4mほどのガンダムのような外見をしたホロウだった。仮面は見えないけど、全身が一種の『身に纏うタイプの能力』らしいから、その中にあるのだろう。酒井さんは頷いた。
『間違いないな。俺の偵察用ロボットが調べた映像は見ただろう?』
 そう言って、彼の手に止まった羽虫のようなメカに目を向けた。
 この能力の恐ろしいところは、このメカを数百匹も同時に拡散させ、『それ』が見た光景をモニターに表示できるというものだ。そのモニターというのも、酒井さんの能力でいつでも虚空に出せる。モニターというよりはホログラムを空中投影するタイプの奴だ。生前はSFロボットものの熱血ファンだったらしい。
 
 
 そして見つけた敵のアジトとは、総武高校の超広大なグラウンドの中央だった。
 
 
 総武高校は1つの学年だけでも300人、全校生徒で900人を誇る巨大な学校だ。よって体育祭などをするためにも、グラウンドは異様なほどの広さを持つ。
 その中心にアジト―――正しくはアジトの『入り口』だ。
 グラウンドの中央に直径2mくらいのフタがあり、それを開くと螺旋階段のようなものが数mだけ続いているという。
「……ねぇ、それって霊子とかで作られただけで、実際のフタの下はグラウンドの土しかないんじゃないの?」
 と、さがみん。
 もし彼女の予想通りだとすれば、私達じゃお手上げだ。
 けど酒井さんは首を横に振った。
『俺も最初はそう思って、自前の能力で解析してみた。結論だけを言えば、生身でも通れる。……信じられない事に、あれは「どこでもドア」みたいに離れた空間へと通じている』
 いろはちゃんが首を傾げる。
「離れた空間って、一体どこに?」
『―――グラウンドの地下10km近くほどにある大空洞だ。映像を見せよう。いくつもの人工物がある。これこそが奴らのアジトだ』
 空中に大きなホログラムが現れた。今度はモニター型ではなく、ポリゴンによる立体的な構造が映し出される。
 
 
 ―――それを一言で表現すれば、巨大な螺旋構造だった。
 
 
 螺旋階段の『階段』の部分を坂道に変え、しかもワゴン車が2台並べるほど幅を広くし、そのまま螺旋を描いて下へと続いていく。まともに歩けば何kmあるか分からないほどの距離だ。しかも坂道の左右には手すりなどは無く、下手に踏み外せば100mほど下まで一直線に落ちる事になる。
 次に目についたのは、これらの螺旋構造の上の部分だ。グラウンドにある入り口から入ってすぐに、直径10mくらいの円盤型の広場あり、その広場から外へ向かうようにしてドアと、その奥に小部屋のような空間が7つある。
 ゆっこが口を開いた。
「この小部屋は?」
『言っても良いのか? 1つ1つが、七不思議の連中のプライベートルームだ』
 と、素っ気無く答え、ホログラムでの映像が鮮明に浮かび上がった。
 フィギュアばっかりが綺麗に並べられた部屋。
 漫画の本棚がずらりと並んだ部屋。
 裸の女のポスターがあちこちに貼られ、バーベルなどの筋トレ用品が散らばった部屋。
 浴衣や女性用のブラやショーツが散らばった部―――
 
 
「「「………………」」」
 
 
 女性陣(人間・ホロウ混成)の冷たい視線が集中し、酒井さんは即座に叫んだ。
『言っても良いのかって聞いただろ!? それにポスターの部屋と下着が散らばってた部屋、大岡も戸部もガン見してたじゃないか!!』
「ちょ……冤罪だべ酒井さん!?」
「そうっすよ! ちょっと際どい下着があったから驚いただけっすよ!!」
「……そういうのは良いから、次の質問をしても良いかしら?」
 と雪ノ下さんが冷たく言う。けど今のやり取りのお陰で、緊迫状態が続いていた空気が少しだけ和らいだ気がした。
「螺旋構造の最下部、直径30mくらいの円盤状の空間になっていて、中心に高さ5mほどの柱が立っている。―――この柱の中にヴァストローデが封印されていると考えて、間違いないんですね?」
『ああ、恐らくはそうだ。連中がここで祈祷を捧げていると思しき映像もあった。……それと中の状況だが、ヴァストローデによる高レベルの霊圧が漂っている。物理的な害は無いが、強烈な圧迫感や恐怖心を感じさせると、あらかじめ言っておくぞ。その余剰の霊圧が、あのフタが閉まった状態でも小型ホロウ1匹分ほど漏れてきている。斉藤とかいう女の地図に乗っていた「7匹目」の正体はそれ・・だろうな』
 段々と色々な謎が解けてきた。
 内部の構造も酒井さんを通して知ることが出来たし、後は如何に迅速に強襲するかだ。
 ―――けど……。
 
 
「……その知性種のホロウ達、殺さないと駄目かな……」
 
 
 そう呟いたのは戸塚君だった。
 七不思議に関係するホロウ集団が、善人か悪人かは、現時点では全く分からない。紫さんという幽霊に会った比企谷君でさえ、まだ『紫さん』にしか会ってはいない。何となく優しい心をもってそうな紫さんの仲間なら、それなりに人格面もまともそうな気はするけど、もしかしたら大悪党という可能性もある。
 戸塚君が気にしているのは、知性種を―――『知性のある存在を殺すのは殺人と同義』という点だけだろう。その意味でなら、ここにいる全員がすでに『人殺し』だ。
 そりゃ必要があれば、私だって躊躇無く、何なら惨たらしく殺すよ。
 千葉村で会った蛇型ホロウや、青鬼の館を作ったホロウなどが、その典型例だ。
 でも……どちらも殺害後に地獄の門が開かなかった事を考えると、あそこまで歪んだ性格になったのにも事情があったのだろう。そう考えれば、紫さんにだってこの町を壊滅させることに、譲れない理由があったのかもしれない。
 
 
 ―――けど、私達にだって譲れないものはある。
 
 
 比企谷君が、戸塚君の肩を叩いて言った。
「心配すんなよ、戸塚。向こうは知性種とはいえ小型ホロウが6人。超能力っぽい力を持った紫さんを含めても7人だ。対するこっちは炎剣使いが16人に、毒槍使いが2人。そして仲間のホロウがこんなにいる。敵を1人1人ボコって動けなくして、あいつらの目の前でヴァストローデが封印された柱を取り上げりゃ、連中もこう思うだろ? 『ああ、こりゃもう仕方ないな』って。少なくとも紫さんなら、そう思うだろうよ。んで柱は、後で電車の屋根にでもくくり付けときゃ、その内死神が結界地の外で見つけてくれるだろうよ」
 戸部っちが、げんなりした表情で言う。
「ヒキタニ君、そりゃないわー……」
 
 
「ああ、酷いだろうな。―――――でも誰も傷つかない方法でもある」
 
 
「「『『…………』』」」
 人間もホロウも、誰もが沈黙する。やり口はえげつないけど、確かにそれが一番平和的な解決だ。その次ぐらいの案でも、私達の武器で斬り、強制的に成仏させるのが精々だろう。
 やる事は決まった。後は決行するだけだ。
 幸いなことに、今日からお盆休み―――夏休みの学生にとっては何の意味も持たないけど、会社員や学校の先生、あるいは夏休み中に部活をする者にとって、約1週間ほどの大型連休だ。校門は閉じられ、校内に人影は一切無い。侵入したとしてもグラウンドまでだから、仮に見つかっても大きな処罰は無いだろう。
 私達はデパートを後にし、総武高校の裏(校舎側の門が表で、農道に面したグラウンド側が裏になる)の、金網で出来た門をぞろぞろと人とホロウの混成軍となってくぐった。
 
 
 
 
 ―――瞬間、世界の色彩・・・・・が変わった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――葉山隼人サイド――
 
 
 何が―――起こったんだ?
 俺達がグラウンドに踏み込んだ瞬間、学校の敷地内にある全てが白黒写真のような色彩・・・・・・・・・・・・・になった。
 
 
 
 否、敷地内どころか、フェンスの向こうにある光景すら白黒になり、車が馬鹿みたいに沢山走っていたはずなのに、今は人も車も一切見当たらない。当然ながら空も白黒になっているが、恐ろしい事に太陽だけは漆黒に塗りつぶされており、一切の光を放っていない。―――なのに明るさや気温は、今までより微かに低いだけだった。
 唯一カラフルに見えるのは、この異次元めいた空間で異物にしか見えない俺達だけだ。
 
「なに…これ……」
 
 結衣が声を震えさせながら呟いた。
「みんな、気をつけるんだ。敵だって『俺達が敵だ』っていう事前情報を手に入れてるんだ。どの角度からどんな攻撃が飛んでくるか、予想もつかないぞ」
 と俺が注意を促した瞬間だった。
 
 
 
「―――来ちゃったんだね」
 
 
 
 若い女の声が響いた。
 グラウンドの中央を見ると、そこには6匹のホロウと、俺達と歳の近そうな着物姿の女の子が立っていた。たぶん彼女が紫さんという人だろう。元はこの地にあった城の姫君らしい。
 紫さんは言った。
「……今ならまだ間に合うよ。あんた達ほど霊力を持った存在なら、手で触っただけで常人を『霊が見える人』に変えることができる。なら助けたい人だけにでも霊の存在を教え、この町から1人でも多くの人を逃がして。でないとあたし達は……」
 言いながらも肩を震わせている。
 本心では、こんな殺戮めいたことなんて、したくはないのだろう。
 一方で、どういう価値観があるのかは知らないが、この町を壊滅させなければ気が済まないような『何か』があるのかもしれない。
 だから俺は言った。
「悪いけど、それじゃ救いきれないね。助けたい人間は多すぎるし、それをする時間も無い。加えて言えば、俺達だってこの町が大好きなんだ」
 紫さんが唇を噛むのが見えた。
 仲間達も口々に説得を試みる。
 
 
「ねぇ。そんなにこの町を壊したいなら、どうして『逃げろ』だなんて言うの? どうしてそんなに辛そうな顔をするの? 本当は……本当は壊したくないって思ってるんでしょ!? 顔見てたら分かるよ!! 自分に正直になろうよッ!!!」
 
 
 結衣が涙ながらに、真っ直ぐすぎるくらいの思いをぶつける。
 紫さんが、握った拳を震わせるのが見える。
 続けて川崎が、
 
 
「あたしもね、前に復讐で人を殺そうとした事があるよ。……人っていうよりは知性種ホロウだけど、ある意味じゃ人間だしね。戦国時代を生きたあんた達からすれば笑い草だろうけど、この時代での『人殺し』の意味は重たい。そしてあたしは、そいつを殺した。……結果的にそいつは救われたみたいだったけど、あんた達はどうなの? 地震と津波でこの町を潰したって、また時が過ぎれば別の誰かが、ここに町を作ることになる。その度に町を―――罪の無い人の命を奪うっての?」
 
 
 これには紫さんどころか、その仲間のホロウ達にも動揺が走った。
 一国城主としての縄張り意識から、町を壊す―――となれば、彼らの国が滅んでいる以上、この土地が復興したとしても、結局それは『再び縄張りを荒らされた』でしかない。ただでさえ一度の惨劇を躊躇っている彼らの良心が、それに耐えられるとは思えなかった。それくらい、予想してただろうに……。
 
 だが、それでも最低1回は、惨劇を起こさないと気が済まないという可能性だってある。
 
 すると紫さんの隣にいた、小柄な猫人間型のホロウが、女の子らしい声を張り上げた。
『もういいっ! せっかく長年かけて頑張ってきたのを無駄にしないでよ!! みんな、こいつらの話を聞いちゃ駄目!! もう勝つか負けるか、戦いあるのみなんだから!!』
 その言葉に、紫さんが頷く。
 
 
「そうだね……そもそも間違ったことをしてるって『分かってて』やってるんだ。―――みんなッ! 守り神様が復活するまで絶対死守だ!! あの時焼け落ちた城は守れなかったけど、今度こそあたし達の城を! 居場所を!! あたし達だけの力で守り抜くんだッ!!!!」
 
 
『『『『『『応ッ!!!!!!』』』』』』
 
 
 鬨の声が響き渡った瞬間、グラウンド中央にある地下への入り口付近の砂が隆起し、身長1.7mくらいの、まるでドラクエの泥人形のような奴が何十―――いや何百と現れた!?
「あれは―――初めて戦った大型ホロウの能力!?」
 相模が叫んだ瞬間、紫さんの声が響いた。
「違うね! あれはグラウンドにあたしが仕込んでいた術式を、あの大型が特殊能力で部分的かつ一時的に乗っ取っただけだ! 本来はあたしが守り神様に与えて頂いた、一個人には大き過ぎる力の一旦だ!! あたしの創ったこの結界の中・・・・・・でしか使えないけどな!! あんたら超能力を使うんだろ!? この結界のお陰で外からは見えないようになってるんだから、遠慮無く暴れな! ……もっとも、その泥人形は比喩でも冗談でもなく、本当に『無限』に湧いてくるけどね」
 
 
 ―――まずい! ここにきて物量作戦で時間稼ぎか!?
 
 
 試しに近づいてきた泥人形に切りかかってみた。
 あの頃に比べれば能力の扱いも、武器を用いた格闘術もかなり熟練したから一瞬で倒せるけど、泥人形のスペックもかなり上がってる! 膂力、速力、防御力が1.5倍くらいだ! 何が厄介かと言えば、ただ物量が多いだけでなく、スペックが中途半端に高いものだから1匹斬り捨てるまでのラグが積み重なれば、どれだけ効率的に敵を倒しても、すぐにこの物量で穴埋めされてしまう。
 ……幸いにも致命傷になるような武器は使ってこないけど、数が半端無くて目的の場所まで全然近づけない!! 絶え間なく嵐のように飛び掛ってくるので、力自慢の坂東さんや高橋さんが勢いに任せて突っ込もうとしても、まるで砂浜に杭を刺そうとするかのごとく、すぐに勢いが殺がれる。
 
「は…隼人っ! これはさすがにヤバいんじゃね!?」
 
 優美子の焦った声が響く。
 確かにヤバい。こんなのを相手にしていたら、あっという間に体力を消耗するし、そもそも敵がヴァストローデを復活するまでの時間を稼がれてしまう。
「葉山! 一旦退却して、作戦から練り直さないとジリ貧だ! むしろこれ以上時間をかけると退却すら出来ないぞ!!」
 と叫んだのは、この集団の中で本人も無意識の内に副リーダーをしている比企谷だ。戦局を見てくれてるのは助かるけど、かといってここで余計な時間をかけるのも、ヴァストローデが復活しそうで怖い。っていうかどのくらいの時間で復活するんだ? あのタンブルウィードが『3日したら本体が来る』って言ってたらしいけど、その時まで復活しないという意味だったのだろうか? ……そもそも本体が来るかどうかも分からないけどね。
 どうする? タンブルウィードの言葉を頼るか、それとも自分達だけで攻めるか……。
 紫さんが叫ぶ。
「逃げ出すんなら今の内だよ! もうあたし達は止まれないんだ! さっさと身内に声かけて逃げ出しちまいな!!」
 この期に及んでも、まだ『勧告』で済ませようとする敵には感服する限りだ。
 
 ―――諦めるつもりは無いが、比企谷の言う通り、まずは作戦の練り直しだ。
 
「全員後退! 作戦を立て直す!! 俺が殿をするから出口を目指して―――」
 
 
 
 
『―――その判断はまだ早いよ!!』
 
 
 
 
 と叫びながら空から降ってきたのはタンブルウィードだった。
「ちょっ……君は!?」
『みんなが僕の本体が来るまで待たないつもりだったから、僕も本体の力が充分に溜ってない状態だけど動く事にするよ。ここに着くまで後1時間くらいだけど、みんな持ちこたえて! もちろん応援も呼んできたから!!』
 直後、空からタンブルウィードが何十匹も降って来た。
 そして1匹1匹が長い触手で泥人形を何体も絡め、一瞬で消化吸収し、また別の泥人形に襲い掛かる。
 ……何気に恐ろしい戦い方をするタンブルウィードだが、1匹辺りの戦力、あるいは泥人形への相性は抜群だった。
 しかし同時に、たったこれだけの戦力では足りないという思いもあった。
 
 
 
 
 
 
 ―――そう感じた瞬間だった。
 
 
 
 
 
 
「葉山! 戸部! 一色に山本!! 俺らをのけ者にするなんて酷いじゃねぇか!!」
 
 
 結界が金網に沿って存在し、あちこちの金網そのものに波紋が現れたように見えたかと思うと、その波紋をすり抜けながら・・・・・・・ぞろぞろと人間達が現れた。―――って、同じ部活の山崎!? それどころか総武高校のサッカー部のメンバー全員がいた! いや陸上部の男女もいる!? どっちも受験で引退したはずの3年生どころかOBまでいるぞ!?
「―――って、そもそも皆なんで泥人形が見えてるんだ!?」
 思わず叫ぶと、山崎が口を開いた。
「あの枯草みたいな化け物―――タンブルウィードだっけ? ……から聞いたんだ。力を貸してほしいってな。あの枯草のお陰で、今じゃ立派な霊能力者だし、ああいった雑魚相手には人手がいるんだろ? ……俺らは超能力者ですらないけど、仲間じゃねぇか」
 
 
 ―――あ。
 
 
 ……我ながら忘れていた。確かに命を懸けて戦い、背中を預け合った「仲間」は、同じ超能力者だけだろう。―――だが、たとえ命がけでなくとも、大きな大会を目指してトレーニングとチームワークを磨き合った山崎達もまた、かけがえのない本物の「仲間」なのだ。
「それって、もしかして……」
「俺ら、も……?」
 大和と大岡が呟くと同時、
「もちろん野球部とラグビー部もだぜ!!」
「お前ら超能力者を絶対に死なせないでくれって、あの蔓草のバケモンに土下座されたからな!」
「俺らテニス部も部長を支えっぞ!! 隣のバトミントン部も一緒だ!!」
 
 
 ぞろぞろ、ぞろぞろと、人が集まりだす。
 
 
 更には、
「よう中村。青鬼の館では世話になったな。覚えてるか? 柔道部主将の城山だ。比企谷も、柔道大会では世話になったな。同じ部の連中と、いつも縄張り争いしてる空手部や剣道部の男女全員、暴れたいってんで連れてきたぞ。全員を霊感持ちにしてくれたタンブルウィードとやらには感謝だな」
「もうじき解散しますが、我々現生徒会全員も、青鬼の館で城廻会長をお助けして頂いた恩を返すため、参上しました」
「私もお手伝いするよ。青鬼からは逃げてばっかだったけど、こんな雑魚っぽいのにすら背中なんて向けたくないもん」
 血の気の多そうな格闘系の部活に所属する者と、どこか忍者を思わせる生徒会の役員達。そして普段のぽわぽわした雰囲気からは想像もできないほど決意に満ち溢れた表情の城廻会長。
 元々大きな学校の、更には運動部に力を注いだ学校の生徒達だ。1つ1つの部活自体、人数が多い。受験生であるはずの3年生がいるどころか、どうみてもOBにしか見えない人間までいるし、更には部活無所属の生徒ですら100人近くも集まっている。
 そこで比企谷が、さっきから俺が気になっていたことを問いかけた。
 
 
 
「いや……っていうか、なんで俺らが超能力者だってのをバラしたの? 青鬼の館でも、わざわざヘルメット被ってたくらいなのに」
 
 
 
 タンブルウィードに対しての問いだ。
 それに対し、奴はあっけらかんとした態度で答えた。
『ま、君達が勝手に奴らに戦いを挑もうとしたからね。……それにバレたからといって、差別の目で見られることは無いよ。そもそも「霊が見える」ってだけで、充分に彼らも超能力者だからね』
 釈然としないものを感じるものの、言ってる事は間違ってない。
「戦力を集めてくれたことには感謝するよ。……でも彼らを徒手空拳で戦場に送り込むつもりかい? あの泥人形は、下手な斬撃より打撃の方が効くけど、それでも金属バットくらい装備させた方が良いだろう?」
 見渡してみると、誰もが武装すらしてない、動きやすそうな普段着だ。
 タンブルウィードは、表情の読めないドクロ顔から笑い声を漏らして言った。
 
 
『ふふっ……当然ながら配慮くらいするさ。―――全員、両手を挙げて!!』
 
 
 誰もがその声を疑わず、言われたとおりにした。すると次の瞬間、彼ら彼女らの手に、金属バッドや長い棒、特殊警棒に木刀、ラケットにナックルなどが現れた。同時に膝や肘にサポーターのような物も現れる。防具というよりは、それらもまた肘打ちや膝蹴り用の武器なのだろう。
 タンブルウィードは叫んだ。
『現世の道具っぽいけど、安心して! それらは絶対に壊れない!』
 
 
 その直後だった。
 
 
「なるほど……所属している部活に相応しい武器に、自動的に形が変わる、か……。でも俺らの場合、この『棒』は敵へ打撃が有効なのと、素人に扱いやすいように配慮した結果かな? どう思う洋平?」
「間違い無くそうだろうな孝実」
「ふむ……僕もあれから護身用にと思って棒術のサイトにアクセスしてたからね。こっちも棒が出てきたよ」
「あははっ、会長もあたしや千佳とお揃いだ! 超うけるー!」
「受けるかどうかはさておき、扱いやすくて敵に有効なのは嬉しいよね」
「雪乃ちゃーん! 花火大会の時に手が触れたのが運の尽きだね! あれから霊が見えるようになったお姉ちゃんも参加しちゃうよー!!」
 
 
 ……見覚えのある人間までいた。
「ちょっ……洋平!?」
 秦野さんが驚き、相模さんに至っては弟がいる以外にも、
「なんで孝実がここに!? それにかおりちゃんまで!?」
「あはは……ごめんね南ちゃん。小学校の頃に、あんな下らない事でケンカしちゃって。……でも南ちゃん、急に引っ越したから謝りたくても謝れなかったんだよ?」
「う……それはごめん……」
「でも青鬼の館では、助けに来てくれたんでしょ? あんな大きな蜘蛛みたいな化け物、やっつけてくれたんでしょ? ……だったらお相子どころか、差額の分だけあの泥人形をやっつけてやるっての」
「うん……ありがとう。それとごめんね? 小学校の頃の……えっと、何菌タッチだっけ? あんなことで殴りかかっちゃって」
「……比企谷菌を更に悪く言ったヒキガエル菌ですが何か? ってか相模、折本と知り合いだったのか?」
「って比企谷!? ごめん、あれヒキガエル菌だったんだ……。でも比企谷もあの館に助けに来てくれたんだよね? ありがと。あんたに告られたのが中学の頃じゃなく今だったら、簡単に落ちちゃったかもねー」
「ちょっ……ヒッキー!?」
「……比企谷君、それってどういう事かしら?」
「あの、雪乃ちゃん? お姉ちゃん、無視されるのはちょっと悲しいっていうか……」
「それどころじゃないのよ姉さん。今とても大事な話を―――」
「やあ比企谷君と言ったかな? どういう事か腹を割ってフェアで公平に拳で激しくミーティングを―――」
「……なぁ折本、こいつ今の彼氏なのか?」
「え? まさか、全然! 何それ超うけるー」
「ウボァッ!?」
 ……ややこしい人間まで出てきたせいで賑やかにはなったけど、戦う前から1人だけ負傷しちゃったじゃないか。精神的に。
 
 
「あーあ。こんなに集まってきやがって。一応はお盆休みで、立ち入り禁止なんだぞ、お前ら」
 
 
 とタバコを咥えながら、私服姿の平塚先生が現れた。その周囲には、運動部の顧問の中でも、鬼コーチと呼ばれるような面々が揃っている。もちろん全員が、さっきタンブルウィードから与えられた武装をしている。
「「先生っ……!!」」
 比企谷と俺の声が重なる。
「ま、この町が消えちまったら、仕事が無くなるどころか再就職先も津波で更地になっちまうからな」
 と実に男らしい笑みを浮かべて言った。
「ってか先生は酔うと超能力者になるって、別のホロウから聞いたんですけど?」
 気になってたことを訊いてみると、先生は目を輝かせた。
「マジか!? どんな超能力だ!? それを教えてくれたホロウは誰なんだ!?」
「能力はスクライドのファーストブリッドそのものが使えるそうです。教えてくれたのは……中学校に住み着いていた、先生に片思いだった同級生でしたね。階段から足を滑らせて亡くなったと言ってました。……本人は俺達が説得して成仏させました」
 
 
 先生は心当たりがあったのか、軽く目を見開き、そして悲しげに微笑んだ。
 
 
「そうか……ありがとう、あいつを成仏させてくれて……」
 そして平塚先生は顔を上げ、泥人形の軍勢を睨みつけ、大声で―――しかもスピーカーを使って叫んだ。
 
 
 
『ここに集まった者よ、よく聞け!! すでに聞いてるとは思うが、敵はかつて封印された、神にも等しき悪霊を復活させ、その怪物の能力で千葉を大地震で叩き潰し、大津波で押し流すつもりだ。
 
 
 ―――だが案ずるなッ!!
 
 
 敵が復活させようとしている怪物と、同等の怪物―――諸君らをここに導いた蔓草の本体が、今この地に全速力で向かっている。その怪物というのが、本人の言葉が嘘でなければ、未来から来た、ここにいる誰かの末路だそうだ。本人はその末路を食い止めるつもりらしい。よって諸君は、その怪物が来るまでグラウンドにて泥人形を戦い、一部の優れた能力者と仲間のホロウは、敵本陣に乗り込んで時間を稼げ!!
 
 これは怪しげな宗教の演説でも、こじれた妄想でもない、全くの現実だ!! この町の運命は―――大勢の命の運命は―――何の比喩でも冗談でもなく君ら勇者達の肩に乗っている!』
 
 
 
 
 
 そこで言葉を切り、大きく、大きく息を吸い―――某映画の名台詞を叫んだ。
 
 
 
 
 
『町を護れェ――――――ッッッ!!!』
 
 
 
 
 
 『『『『『『おおおおおおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおおぉぉぉぉッッッッッ!!!!!!!!!』』』』』』
 
 
 
 
 今や『軍勢』と化した人間達が、それこそ戦国時代のような―――いや、火縄銃すら無かったころの戦のように、鬨の声を上げながら津波のように突進していった。
 呆然とする俺たち超能力者一行に、演説を終えた平塚先生が声をかけた。
「これが我々にできる限界だった」
 
 
「格好良かったですよ、平塚先生」
 
 
 パチパチと拍手しながら現れたのは、タンブルウィードに与えられたであろう特殊警棒を持った、比企谷の妹だった。その隣には川崎の弟もいた。
「な……小町……?」
「大志……あんた……」
 呆ける比企谷と川崎にサムズアップし、2人は敵陣目掛けて走り出した。その2人に続くかのように、前に小町がつるんでた塾の友人が何人か続いていく。確か青木とか赤林とか、大志以外は全員苗字に色を示す字が混じってたから何となく覚えている。
 続けてタンブルウィードも、
『理想を言えば、自衛隊や警察組織に声をかけ、銃器で泥人形を蜂の巣にしてやりたかったけど、目に見えない怪物を狩るのにどういった書類申請をすれば良いのか分からなかったんだ。……前に死神の国で脱獄した痣城っていう大罪人の死神隊長みたいに、自衛隊基地から戦闘ヘリや銃火器を山ほど盗み出すことも考えたけど、あれって絶対にとばっちりを受けて解雇されたり逮捕されたりする人とか出るしね。だから総武高校と海浜高校の運動部とその卒業生に声を掛けるだけで精一杯―――』
 
 
 ―――瞬間、比企谷がタンブルウィードの胸倉(喉首?)を掴んだ。
 
 
「勝手に小町を徴兵しやがって……。テメェ、うちの小町に怪我を負わせてみろ? ヴァストローデだろうが何だろうが、バラバラにしてやる……」
 その比企谷の腕を、平塚先生が掴んだ。
「それはこっちの台詞だ。比企谷も、お前達も―――今まで散々ホロウ絡みの事件に首を突っ込んだそうだが、超能力だの何だのを手に入れてようと、ガキが命の取り引きに手ぇ出して良いわけがないだろう」
 普段の比企谷ならビビって引き下がるところだが、今日に限っては引かなかった。
 
「当たり前でしょう、先生……。言って警察や自衛隊がホロウを片付けてくれますか? よしんば信じさせられたとしても、それは彼らの前で超能力を披露―――いえ、『霊が見える人間が実在する』というのを、国という組織に知られることになります。その後は実験動物として研究機関に送られるのがオチじゃないですか。下手すりゃ俺らだけでなく身内まで『遺伝子レベルで調べたい』とかいって拉致られる可能性すらあります。
 
 ―――なら霊やホロウが見えて、しかも戦える人間が戦わなくて、どうやって大切な存在を護れるっていうんですか!! いつか死神っていう存在がホロウを狩るとはいえ、そいつらとコンタクトが取れず、しかも全然来てくれないってんなら、もう自分の手で大切なものを護るしかないでしょうがッ!!」
 
 比企谷の魂からの叫びを、平塚先生は否定せずに頷いて答えた。
「当然だ。だが今の君らと同レベルの超能力者で、更に特殊部隊でもある大人が数十人いたとして、君らは戦いから身を引いたか? 引くはずが無いだろう? 私だって引かない。例え人数が足りていたとしても、君は君自身の手で大切な町を護ろうとしていたはずだ」
 
 ―――ここでいう『町を護る』とは、何も愛国心ならぬ愛町心ではない。家族を、友を、思い出のある家や場所を―――そういった『総べて』を内包した帰るべき場所・・・・・・を護るという意味だ。
 
 平塚先生は続ける。
「それと同じで、君の妹も、自らの意思で武器を取って立ち上がった。どこぞやの戦争のように洗脳を施したつもりもないし、無理強いもしてはない。本人が悲鳴を上げて逃げるのであれば、止めるつもりは無いと、ここに集まった全員に伝えてはいる。そこから先は、彼女次第だ」
 比企谷が掴んでいる力を弱めた。
『安心しなよ。ここにいる全ての人間や仲間のホロウは、僕の能力で怪我をする度に、例えて足を食い千切られたって全自動で五体満足に治るように、すでにそんな術をかけてるからさ。それに奴らの打撃で骨折することはあっても、即死する可能性は低いから』
 タンブルウィードの言葉に、比企谷は掴んでいた手を離し、背中を向けて言った。
「小町がそこまで決意を固めてるってなら、もう俺は止めない。だから……小町を頼む」
 タンブルウィードが頷くと、比企谷は妹さんが走っていった先に目を向け、小さく呟いた。
「大志も……小町を頼むぜ」
 偶然か、その呟きは俺以外の耳には届かなかったようだ。
 しかし、いつまでも突っ立ている訳にもいかない。
 絶望的な状況が覆ったのだ。これを機に攻め込むしかない!!
 俺は叫んだ。
「今がチャンスだ! あの泥人形が1番少ない所からアジトに突入する!」
 全員が思い思いに声を上げ、俺達の集団は戦場を駆けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――比企谷八幡サイド――
 
 
 敵の陣地を見たが、紫さんや他のホロウの姿は見えなかった。恐らくはアジトに避難しているのだろう。
 俺達の集団は酒井さんを先頭に、泥人形による敵陣の一番薄い部分目掛けて走っていた。
 酒井さんの身体中から、いくつもの小さな大砲のような物体が生え、一斉にビームを放った。放ちながら走った。撃ちまくっていた。
 そして接敵する寸前、ビームサーベルを二刀流で構え、それすらも投げて敵を減らすと同時、今度は一番攻撃力のある坂東さんと高橋さんが勢い良く突っ込んでいった。すると、ただでさえ敵の密度が少なくなっていたためか、面白いように道が切り開かれていく。
 そんな彼らの後を、俺達は走って追い、横合いから飛び出してくる泥人形を一太刀で切り捨てる。
 あと10mほどでアジトの入り口が見えると思った瞬間だった。
 
 
 なんと再び紫さんの声が響いた。
 
 
「虎の子兵器だ! こいつも泥人形と同様、何度倒しても再生するぞ!!」
 
 
 ゴゴゴゴゴ……。
 
 地面が揺れ、同時に地面や泥人形と同じ材質の―――しかし明らかに巨大な西洋のドラゴンが1匹、地面から染み出すようにして現れた! 目測ながら全長約10m……いや、もうちょっとある! 間違い無く大型ホロウ級だ!!
 
 
 坂東さんが叫んだ。
『こいつは俺らホロウが足止めする! お前らは早くアジトへ乗り込め!!』
「恩に着る!!」
 葉山が短く礼を言う。
 すると離れたところから、
「お兄ちゃん!!」
 小町だった。
「小町! 死ぬなよ!!」
「それ小町の台詞! 絶対に生きて帰ってきて!! 約束だよ!!」
「姉ちゃんもな!」
「言うじゃないか大志!!」
 目前に見えた、アジトへの入り口へ飛びついた。
 薄い鉄板のようなフタが付いていたが、簡単に持ち上がるほど軽く、横にズラしただけで下へ続く階段が見えた。
「行くぞ!」
 葉山が言うと同時に飛び込み、俺も後に続いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 しかし入った瞬間に違和感を覚え、酒井さんの言葉を思い出した。この入り口は『どこでもドア』みたいに、地下10km地点とを瞬間移動する道具だと。だからだろうか? 気圧なのか重力なのか、何とも言えない感覚が全身を支配する。
 そしてもう1つ思い出した。
 この空間にはヴァストローデの霊圧が満たされてるため、凄まじいほどの圧迫感を感じるのだ。
 
 
 ―――霊圧と霊力の違いは何か?
 
 
 霊力を『熱』に例えるとしよう。
 鉄が溶けた状態のところに、手を近づけたとする。すると触れてもないのに『熱気』を感じることはないだろうか? 霊圧とは、この離れていても感じ取れる熱気のように、身体から漏れ出る霊力のようなものだ。少なくとも俺ら程度からは、霊『圧』なんてものは感じられない。最低でも中型の強い奴から発し始めるものだが、大型ですらこんなに霊圧を感じることは無かった。
「……これが、久しく忘れていた『恐怖』というものかしら?」
 雪ノ下が、微かに声を震わせながら呟いた。
 
 
 ―――真夏だというのに、この背筋を突き抜ける悪寒。これが霊圧。それも最上級の。
 
 
「……こんな化け物、復活なんてさせちゃいけないんだ……」
 三浦が震え声ながらも、確固たる思いのこもった声で呟き、誰もが無言で頷いた。
 葉山が発破をかける。
「大丈夫だ。この霊圧の持ち主はまだ復活してないはずだ。復活する前に奴らを押さえる」
 奴らを殺す―――とは言わなかった葉山に感謝する。
「……行くぞ」
 俺達は走り出そうとし、ふと気付く。
 ここからは螺旋状の坂道が長々と続いている。
 これを徒歩で進むには時間がかかり過ぎるし、走ろうものなら体力が枯渇する。
「誰か自転車の構造知ってる奴はいるか? 炎剣を自転車に変形させられれば、体力と時間の節約にはなると思うんだが……」
「いやー、誰も知らないべ? ってか1人でも知ってれば、もう頭の中に思い浮かぶはずっしょ?」
 戸部が答えてくれる。
「ならスケボーは? キックボードは? 何なら映画みたいにホバーボードは?」
 今度は相模が答えた。
「下り坂なんだから、どれもスピードが出すぎればカーブが曲がれずに落ちるね。ガードレールも無いんだし。あとホバーボードはウチも試したことあるけど、そこそこ霊力を消費するよ。短時間ならともかく、この長くて緩やかで何kmあるか分からない所で使うのには向かないね」
 
 
 ……凄ぇな相模。雪ノ下ばりに一瞬で計算しやがった。これも能力の共有化のお陰か? ―――ってかホバーボード、試したんだ……。
 
 
「どうする……? やっぱ歩いていくのが確実か? 時間はもうほとんど無いんだぞ?」
 すると再び相模が答える。
「1つだけ、霊力消費は激しいけど、短時間で降りる方法があるよ。この螺旋構造の中心って吹き抜けでしょ? だったら―――能力で翼を作って飛べば良いじゃない。それも下に着く直前で翼を出した方が霊力の省エネになるし」
 
 
 そんな馬鹿な―――とは思ったが、この時点で俺は、すでにどうすれば飛べるのか、その具体的な方法が脳裏に浮かんだ。
 
 
「相模……お前それも試したのか?」
「―――ひと昔前のラノベみたいに、背中から炎の翼を生やしたら格好良いかなって思っただけ」
 ぷいっと顔を背けながら言った。もしかしなくても、こいつには中二病の素質があるかもしれない。ってか灼眼のシャナ知ってたのか。
 するとここで山本が口を開いた。
 
 
「あーあ、あたしらは仲間外れですね」
「……すまない。上で泥人形を食い止めていてくれ」
 と葉山。
 続けて中村が言った。
 
 
「比企谷先輩。こないだ青鬼の館で『ここは俺達に任せて先に行け』って言ってましたよね? あれ格好良いって思ってたんすよ。だから―――お礼に同じ言葉を返します。『ここは俺達が必ず食い止める。だから紫さん達を止めてくれ』ってね」
 
 
 ……っ、格好良いじゃねぇか。
 
 
 すると入り口の方から、泥人形が数匹ほど侵入してきた。
 どうやら上では完璧に奴らを食い止められはしなかったようだ。
「頼むぜ、山本、中村!」
「任せるっすよ先輩方! 俺、この戦いが終わったら直美ちゃんと結婚するんすから!」
「ちょっ……!? 圭ちゃん!!」
「それ死亡フラグだ馬鹿! わざと言ってるだろ!!」
「ってか爆発しちまえリア充ども!!」
「真に受けないでよ一色! まだ付き合ってるだけでキスしかしてないから!!」
「お? じゃあ1度ホテル行ってみない?」
「ホテりゅ……!? け、圭ちゃん!!」
「そっちでの爆発かよ!?」
「おい一色、堪えろ! 失恋仲間だと思ってた奴がいつの間にかリア充になってたのが腹立つのは分かるから!」
「でかした比企谷! そのまま一色を押さえててくれ!!」
「離して下さい先輩! この裏切り者には異端審問会的な制裁が必要なんです!!」
「また知識の共有でラノベのネタを!?」
「……圭ちゃんがそうしたいなら、良いよ? ちゃんと生きて帰れたら……」
「ムキ―――ッ!!」
「ほら一色! 今は本当に町が滅びるかどうかの瀬戸際なんだから、こーいうのくらい広い心で許してやらないと……!!」
「ってか本当に急ぐぞ! こっから飛び降りるからな!! 良いな一色!?」
 仲間達が次々と飛び降りるのを見ながら、俺は一色を抱えながら飛び降りた。
 
 
「こぉんのぉ裏切りもんがあぁぁぁっっっ!!!!!」
 
 
 ……一色のエレン・イェーガーみたいな台詞を聞きながら、こいつは落ちるのが怖くないのかと不思議に思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――あとがき――
 
 
 ……これまた大分投稿が遅れて申し訳ございません。
 思えばこの「俺ら素人がホロウと戦うのは間違っている」を投稿し始めた頃は、内心では週に1回のペースで投稿する予定だったのですが、何年前だったか「投稿前にしっかりと推敲しなければ!」と思い立ち、しかもハマっていたニコニコ静画というサイトにお気に入り漫画をいくつも登録した状態で、更には怠け癖のある状態のまま、だんだんと週に1度だったのが月に1度の間隔にまでなってしまい、今年の1月からとうとう月に1度ですらなくなってしまいました。本当に申し訳ございません。
 
 
 ―――ぶっちゃけ、読者の皆様は、この小説に限らず「あとがき」というものを読む派でしょうか? それとも読まない派でしょうか?
 
 
 私の場合は「時と場合による」という中途半端な回答が本音ですね。読む場合は、とにかく面白いと思える内容が書かれた話のみ読んでる感じですね。
 だからでしょうか―――小説を書く才能の乏しいとはいえ、このクソ重い内容を目指した小説なのに、「あとがき」には馬鹿みたいな体験談ばかり投稿してしまうんですね。
 
 
 
 では気を取り直して―――今回も馬鹿話いくぞーっ!!
 
 
 
 これは私が専門学校時代の話ですね。
 当時は滋賀から大阪の学校まで電車で通学していたのですが、その滋賀のJR駅まで約10kmの途中にシャトレーゼがあるんですよ。お手頃価格で洒落たお菓子を売ってるあのお店です。
 
 
 ある日、父が「甘いものが食いたい」と言い出し、父が運転する車でそのシャトレーゼまで買い物に行きました。
 すると店の横に、運動会などで見かける白い屋根のテントが張られ、福引を行っていました。「きっとシャトレーゼで買い物をすると、値段に応じて抽選券が貰えるのだろう」と思い―――実際にその通りだったのですが、手に入れた1枚の抽選券で挑戦してみました。
 
 
 あらかじめ景品の一覧に目を通すと、そこには新鮮な野菜―――失礼ながらシャトレーゼの店のイメージとかけ離れた景品ばかりだったのですが、なんと一等賞が北海道旅行となってました。
 ……個人的には旅行は趣味ではないのですが、それでも1等賞に掲げられては、狙いたくなるというのが人間という生き物です。私は意を決して抽選に臨みました。
 
 そして―――
 
 
 
「おめでとうございます!! だい**賞です!!」
 
 
 
 一瞬、相手が何を言ったのか、私も父も聴き取れませんでした。
 ……ただ「だい」という単語が聞こえた事から、私達はきっと物凄い大当たりを引き当てたのだと、期待に胸を膨らませました。
 そして抽選を取り仕切っていたおじさんが持ってきたのは―――
 
 
 
「おめでとうございます!! 『大』賞でございます!!」
 
 
 
 ちぃっっっくしょおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―――最後まで読んで頂いた方、ありがとうございました。なお、その大根は『風呂吹き大根』にして美味しく頂きました。







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